韓国経済新聞によると、韓国の観光赤字が拡大しているという。観光コンテンツの不足に加え、LCCの競争激化による海外航空運賃の価格低下、韓国観光業を支えてきた訪韓日本人旅行者の減少などが要因として考えられる。韓国の観光は、今後黒字になる可能性はあるのだろうか。
訪韓外国人を上回る海外への出国数が1.4倍
韓国文化研究院のデータによると、韓国を訪問する外国人は2012年にはじめて1000万人を突破。以降も訪韓者数は順調に増加を続け、2016年10月現在で1450万を超え、過去最高を更新する見込みだ。しかし、2015年に出国した韓国人は1931万人で、同年に韓国に入国した外国人1323万人の1.46倍にのぼる。2006年から2015年までの10年間、海外に出国した韓国人は、毎年、訪韓外国人を上回り、平均で1.4倍となっている。
JTB総合研究所が2013年6月に発表した韓国・台湾からの訪日旅行(インバウンド)に関する調査によると、訪日韓国人の一番の目的は日本食で、買い物、景観、温泉や歴史的建造物と続く。観光庁が訪日外国人の消費動向をまとめた平成27年年次報告書でも飲食費と菓子類など食品等の購入支出が高くなっている。
なぜ、韓国人は海外に出かけるのか?
韓国人が海外に出かける最大の理由はコンテンツだろう。JTBや観光庁の調査を見てもわかる通り、韓国人は食にこだわる国民である。韓国語の挨拶は、アンニョンハセヨ(安泰ですか)が知られるが、シクサハショッソヨ(食事はなさいましたか)もよく耳にする。
韓国の各地域には特産と呼べる食文化がない。地方で評判になった料理は、全人口の4割が集まる首都圏にもたらされ、首都圏で認知されてから全土に広まる。地方発の人気料理は韓国内のどこでも食すことができるのである。
名所旧跡を見ても、韓国の世界遺産は多くが朝鮮時代の遺跡である。日本や中国、欧州など、時代や政権が変わると前の時代の文化は‘別名で保存’し、新たなコンテンツが加わるが、韓国は時代が変わると前代の文物は抹消し、新たな文化を’上書き’する。扶余郡とロッテが、百済の遺跡を復元した際、韓国内に史料がなく、日本や中国に残る文献を参考にしたという。同じ時代に造られた歴史遺産は代わり映えしないため、名所旧跡を巡る国内需要は限りがある。
一時期ブームとなった韓流も、2番煎じ、3番煎じが相次いだ。いまも人気のK-POPを牽引するのは10代から20代前半の若者で、消費経済には貢献しない。
カギは「日本人ニッチ観光客」
韓国は狭い国土に大手航空会社2社とLCC(格安航空会社)6社がひしめいている。韓国LCCで最大の就航路線を持つ、ティーウエイ航空の2016年12月1日搭乗分の仁川空港発関西空港行き片道航空券は68000KRW(約6800円)からあり、ソウル発青島行きも58000KRW(約5800円)から利用できる。アシアナ航空のソウル発済州島行き46100KRWと比較すると安さが際立つだろう。
一時期、ソウルの富裕層の間で免税目的の対馬旅行が注目を浴びた。海外に出かける人は免税店で買物をすると、10%の付加価値税が免除される。市内免税店で300万KRWの買物をすると30万KRWの税金が免除されるが、韓国に最も近い対馬ツアーは時期によっては20万KRW以下となる。税関が免税で出国した人を追跡し、短期間で帰国する韓国人から税金を徴収するまで続いた。
日本人は訪韓外国人の3割以上を占め、円高が進んだ2005年や2009年には訪韓外国人の4割に達したが、2012年から変化が訪れた。2012年8月に李明博前大統領が韓国の大統領としてはじめて竹島に上陸、翌2013年に就任した朴槿恵大統領は反日外交を繰り返したことで、日韓関係は一気に冷却し、年間250万人から300万人前後で推移してきた訪韓日本人は200万人を割り込むまで減少した。
入れ替わりに中国人観光客が増加。2013年に訪韓日本人を抜いて、2015年には約700万人と訪韓外国人1458万人の半数近くを占めるようになったが、爆買いで潤っているのは大手免税店くらいで、観光赤字の解消には役立っていない。
韓国観光公社の日本チームは、日本人ニッチ観光客の誘致が鍵になるという。2015年には日本から合唱団を誘致。合同演奏を行う合唱団や演奏会場を観光公社が支援した。鉄道ファンにも注目している。韓国鉄道公社路線の全線走破は比較的容易だが、韓国は鉄道ファンが少なく、鉄道模型も多くが日本からの輸入品である。日本からの誘客がポイントになるだろう。
渓流釣りも注目ポイントだ。日本の鮎釣り人口はピーク時の1500万人から700万人まで減少。年最低30〜50万円以上といわれるコストに見合う釣果がないとやめてしまう人が多いが、川魚を食べる習慣がない韓国は天然鮎の宝庫である。毎年1月に江原道華川で開催するヤマメ祭の会場で供されるヤマメ料理を楽しむのは地元関係者と日本人くらいである。
民泊も隠れたスポットだ。伝統韓屋で有名な全州や世界遺産の安東河回村、全羅南道順天の楽安邑城民俗村など、伝統家屋に宿泊する民泊は貴重な体験である。
20代から40代の韓国の消費を牽引する世代は、日本のトレンドに高い関心を示す人が少なくない。訪韓する日本人ニッチ観光客を通じて、韓国消費者層の再発見を促すことは、ひとつの鍵になるだろう。(CFP®佐々木和義)