国民年金,保険料免除
(写真=PIXTA)

老後の暮らしを経済的に支えるのは、まぎれもなく公的年金である国民(基礎)年金と厚生年金だ。しかしその基盤である国民年金の保険料を滞納している人が、2015年度では4割近くいる。

課税所得が十分あるにも関わらず保険料を払っていない滞納者を対象に、国は強制徴収を行っているが、2017年度からは対象を課税所得350万円以上から300万円以上へ強化することとなった。

一方、所得の低い人については、申請し受理されれば保険料納付を免除される制度もある。今回は、強制徴収と保険料免除について説明しよう。

強制徴収対象が2017年より拡大

強制徴収は、2016年度は課税所得350万円以上かつ未納月数7ヶ月以上が対象であったが、2017年度からは300万円以上かつ13ヶ月以上に強化することとなった。これによって対象者が約9万人増加し、36万人程度になると見込まれている。

日本は国民皆年金のため国民年金法により、第1号被保険者および任意加入被保険者は国民年金保険料を支払う義務がある。義務があるにも関わらず支払わないのは法律違反であり、従って国は強制徴収いわゆる法的措置を講じることができるのだ。

なお厚生年金加入者は、給料から天引きされている厚生年金保険料に国民年金保険料が含まれているので、その間は未納となることはない。

強制徴収の流れ

具体的にはどのような方法で強制徴収されるのだろうか。まず、滞納すると文書や電話、戸別訪問などで納付を促される。しかし、度重なる納付要請に一定期間応じない場合は、催告状が送られて来る。その催告状にも応じない場合、「国民年金保険料納付勧奨通知書(最終催告状)」という書面が送付される。

国民年金保険料の徴収業務は民間企業に業務委託されている。心当たりがあるなら、知らない会社からの連絡だとほっておかずに、この段階までになるべく早く、近くの年金事務所に相談に行くべきだ。

その後も納付せず、相談にも行かない場合は「督促」という段階に入るが、ここからは様相が変わってくる。

国民年金保険料は、被保険者本人だけでなく、配偶者や世帯主も納付義務者となっている。つまり、督促状は本人だけでなく配偶者や世帯主にも送付されることになる。また、督促状の指定期限を過ぎると、年14.6%という利率で延滞金の発生も伴ってくる。

それでも無視していると、財産差押予告がなされ差押が執行される。もちろん、配偶者や世帯主の財産も差押の対象となってしまう。強制徴収は、一定の財産がある者に対してされるものであるが、所得が低いために保険料が払えない場合は、保険料の免除・猶予制度がある。これは申請によるものがほとんどだ。

保険料免除制度とは?

保険料を支払わないという点では、「未納」「免除」「猶予」「特例」もすべて同じだが、法的にはそれぞれで意味が異なってくる。
「未納」は払う義務があるのに支払わない、つまり義務を果たしていないこととなるが、「免除」は全部または一部を支払わなくていいと認められているということだ。また、「猶予」と「特例」は将来支払えるようになったら該当期間の分を支払ってほしいが、今は支払わなくてもいいという意味となる。

「免除制度」には以下がある。

【法定免除】
法律上当然に保険料が全額免除となる。対象は障害基礎年金受給権者や生活保護法による生活扶助を受けている者などが該当する。

【申請免除】
前年所得が一定額以下の者が該当する。被保険者等が申請し、受理されれば全額または一部免除となる。全額免除となるか一部免除となるか、または免除とならないかは前年所得によるが、本人だけでなく配偶者や世帯主の所得も対象となるので注意が必要だ。

「猶予・特例制度」には次の制度があり、その期間の保険料全額が対象となる。

【若年者納付猶予】
平成28年6月までは30歳未満、7月以降は50歳未満の一定所得以下の者が対象となる。基準となる所得は扶養親族の数によって異なる。配偶者の所得も基準を満たす必要があるが、世帯主の所得は考慮されない。

【学生納付特例】
一定所得以下の学生等が対象。学生には夜間学生や通信教育を受ける者も含まれる。この特例も扶養親族の数によって基準所得は異なる。本人の所得のみにより審査され、配偶者や世帯主の所得は関係ない。

免除にはその他、失業者、天災被害者、配偶者からのDV被害者なども対象となるケースがある。平成26年の改正により、2年前まで遡って免除申請ができるようになった。法定免除以外は申請主義なので、該当するなら未納のまま放置せずに、急いで年金事務所で相談するべきだろう。

国からもらえる年金は「老齢年金」だけではない

未納と免除・猶予・特例では大きく異なると言った。その理由を説明しよう。

国の年金制度は「老齢年金」だけではない。「障害年金」と「遺族年金」もある。その受給対象となるかどうかは、障害年金なら障害の程度が、遺族年金であれば請求者の条件が関わってくるが、もうひとつ重要なのが「保険料納付状況」だ。

納付義務のある期間の中で一定期間以上の保険料支払いがあるか、または直近1年間全ての保険料が支払われているかが問われる。

「免除」「猶予」「特例」の期間は、保険料納付済期間とみなされるが、「未納」の期間は保険料の未払い期間となる。納付条件は、障害年金の場合、対象となる障害について初めて診察を受けた日の前日、遺族年金の場合は死亡日の前日で審査される。この「前日」という点が重要だ。いつ障害を負うか、遺族となるかはわからない、その時になって未納期間分を納付しても遅いのだ。

強制徴収の基準も執行も年々厳しくなっていっている。未納額がたまると支払いがきつくなるだろう。口座引き落としを利用すると未納を防ぎやすい。今一度、読者には年金保険料の納付状況を確認し、適宜対応してもらいたい。

小野みゆき 中高年女性のお金のホームドクター
社会保険労務士・CFP・1級DCプランナー
企業で労務、健康・厚生年金保険手続き業務を経験した後、司法書士事務所で不動産・法人・相続登記業務を経験。生命保険・損害保険の代理店と保険会社を経て2014年にレディゴ社会保険労務士・FP事務所を開業。セミナー講師、執筆などを中心に活躍中。 FP Cafe 登録FP