年金支給額の計算方法は、あまり知られていない。保険料を納めていても、自身の年金支給額を正確に把握している人は多くはないだろう。今回は、国民年金と厚生年金の支給額の計算方法を中心に紹介していく。老後のライフプランを立てる際の参考にしてほしい。

目次

  1. 気になる年金の支給額 金額の変動はある?
  2. 国民年金の計算方法
  3. 厚生年金の計算方法
  4. 配偶者や子供がいると受給額が上がる?
  5. 加入期間によっては上乗せに?
  6. 正確な金額を把握するのは難しい

気になる年金の支給額 金額の変動はある?

年金,年金支給額
(写真=PIXTA)

年金の支給額は、実は個人によってかなりの差が生じるということをご存知だろうか。大半の人が加入している国民年金と厚生年金を検証してみよう。次項以降では、詳細な計算式を紹介する。

まず、国民年金は日本に住む全国民に加入の義務がある。しかし皆一律同額の保険料を納めるにもかかわらず、支給額は人によって異なる場合がある。その理由は「加入期間」にある。国民年金には「満額」が支給される場合があるが、満額支給のためには、20歳から1か月も漏れずに年金保険料を40年間納める必要がある。

途中で支払いが難しくなり未払い期間がある場合は、その期間は「0」とみなされる。各種免除申請を行っている場合には、その期間は払い込み月数にカウントはされる。しかし、免除額に応じた年金の減額割合が設定されており、満額の支給ではなくなるのだ。

一方、厚生年金はどうだろうか。厚生年金は国民年金と同様、公的年金に分類されるが、加入期間に加え、所得に応じて納める保険料が異なるため、受け取ることのできる年金支給額にも差が生じる。簡単に言えば、所得が多い人ほど納める保険料も多くなり、年金支給額も増加する仕組みだ。

これが、各個人によって年金の支給額に差が出るカラクリである。国民年金、厚生年金どちらにも共通しているのは、加入期間の長さによって年金支給額が変動する点である。保険料が給与から天引きをされているという方も多いと思うが、天引きされている限りは自動的に年金に加入している状態である。

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国民年金の計算方法

国民年金の計算方法は、シンプルである。年金支給額に影響を与える要素は、「加入期間」「免除・猶予期間」がどれだけあるかの2点である。2016年12月時点で満額は年額78万100円(月額で約6万5000円)である。計算式は以下のようになる。

満額 ×(保険料納付月数 + 全額免除月数 × 8分の4 + 4分の1納付月数 × 8分の5 + 半額納付月数 × 8分の6 + 4分の3納付月数 × 8分の7)÷ 40年(加入可能年数 × 12)

つまり、20歳から60歳までの40年間保険料を納め続け、かつ免除を受けていない場合に初めて満額の支給となるのだ。国民年金は、所得の寡多に関係なく期間が重要だということがお分かりいただけるだろう。未納の場合には、月数がその分減ることになる。免除の申請をしておけば、期間に算入してもらえることに加え、割合に応じて加算してもらえるので、ぜひ覚えておこう。

厚生年金の計算方法

厚生年金の計算方法は、一言で言えば「難しい」。先に計算式を見てもらいたい。この2つの計算式のうち、金額が大きい方が支給額となる。

本来水準方式
平均標準報酬月額 × 乗数 × 平成15年3月までの払込月数 + 平均標準報酬額 × 乗数 × 平成15年4月以降の払込月数

従前額保証方式
平均標準報酬月額 × 0.0075 × 平成15年3月までの払込月数 + 平均標準報酬額 × 0.005769 × 平成15年4月以降の払込月数

平均標準報酬月額は賞与を除いた給与の平均額である。「年収」ではなく厚生年金に加入してからの平均額である点に注意してほしい。その金額により「等級」が決定する。その等級に応じた金額が平均標準月額となる。

また報酬月額は、通勤手当などの各種手当を含んだ金額である点にも注意したい。前述の平均報酬月額は賞与を除いた給与の平均額であるのに対し、平均標準報酬額は賞与を含む所得の平均である。

国民年金とは異なり、加入期間に加え、所得の寡多により支給額が変動することになる。

配偶者や子供がいると受給額が上がる?

会社員や公務員などの厚生年金保険の被保険者が配偶者にいる場合、年齢などの条件を満たすことで年金の受給額が上がる「加給年金」という制度がある。この制度は、65歳に達して老齢厚生年金を受け取る(定額部分の支給が始まる)人に「配偶者と子供」がいる場合に加算される。

加給年金額は以下の表のとおりだ。

対象者 加給年金額 年齢制限
配偶者 22万4,500円 65歳未満
1人目、2人目の子供 各22万4,500円 18歳到達年度の末日までの
子供、または1級・2級の障
害の状態にある20歳未満の
子供
3人目以降の子供 各7万4,800円 18歳到達年度の末日までの
子供、または1級・2級の障
害の状態にある20歳未満の
子供

また、配偶者(受給権者)の生年月日に応じて「特別加算」があり、妻または夫の配偶者加給年金に上乗せされる。

受給権者の生年月日 特別加算額 加給年金額の合計額(年額)
昭和9年4月2日〜昭和15年4
月1日
3万32,00円 25万7,700円
昭和15年4月2日〜昭和16年
4月1日
6万6,200円 29万700円
昭和16年4月2日〜昭和17年
4月1日
9万9,400円 32万3,900円
昭和17年4月2日〜昭和18年
4月1日
13万2,500円 35万7,000円
昭和18年4月2日以降 16万5,600円 39万100円

加給年金を受け取るためには3つの要件を全て満たす必要がある。

1.厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある
※「中高齢の資格期間の短縮の特例」を受ける場合は15年〜19年

2.被保険者が65歳、または老齢厚生年金の支給開始年齢に達した時点で、生計を維持している65歳未満の配偶者、18歳に到達する年度の末日までの子供、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子供がいる

3.2の配偶者、または子供の収入が、年収850万円未満、または所得が655万5千円未満である

上記の3つの要件を満たせば、老齢厚生年金の受給が始まり、配偶者が65歳に達するまで、あるいは子供が18歳に達する年度の末日までの間、加給年金を受け取ることが可能だ。

ただし、配偶者(受給者)の老齢厚生年金の被保険者期間が20年以上ある(共済組合などの加入期間を除いた期間が40歳(女性の場合は35歳)以降に、15年以上ある場合)、退職共済年金(加入年金20年以上)・障害年金を受けられる場合は、上記の加給年金は支給されない。

加入期間によっては上乗せに?

現在の年金の受給要件は、25年間保険料を納めることであるが、2017年9月からはその要件が緩和され、10年間保険料を納めれば年金の受給が可能になる。60歳になった時点で、その要件を満たしていない場合や年金支給額を増やしたい場合には、国民年金に「任意加入」することができる。年金額を増やしたい場合には60歳から65歳まで、受給資格を満たしていない場合には70歳まで、任意加入することができる。

例えば、30年の加入期間があるが、それでは年金額が不十分なため60歳から65歳まで任意加入した場合には、合計で35年の期間保険料を納めたことになるため、支給額は増額する。

一方、5年のみ加入期間のある人が60歳を迎えた場合、そのままでは年金は支給されない。60歳から65歳まで任意加入することで、0円だった支給額をもらえる資格を得られることになる。

正確な金額を把握するのは難しい

多くの高齢者にとって、年金の受給が収入の軸となる。しかし、その金額は個人によりかなりの差が生じることがお分かりいただけたのではないだろうか。年金はもちろん老後に欠かせないものだが、老後破産という言葉があるように、それだけで生活するのは相当難しいというのが実情だ。年金を納めつつも、それとは別に貯蓄や資産運用により、老後の資金を蓄えておくことも必要なのである。

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