お歳暮,税金
(写真=PIXTA)

2016年も残りわずかとなった。取引先や上司、親戚、義両親など、日頃お世話になっている相手へのお歳暮を考えるシーズンだ。感謝の気持ちをこめて贈るお歳暮だが、あまりにも高額なものだと相手に迷惑を掛けることもある。その内容や背景、条件によっては受け手に税金がかかってしまうことがあるのだ。

お歳暮に課税される場合とは

お歳暮は古くから日本にある慣習のひとつである。年越しの先祖へのお供えの際、他家に嫁いだ娘や分家の者が、本家に供物として持ち寄るところから始まった。今では、両親や親戚だけでなく、上司や先輩、恩師や取引先などに日頃の感謝を贈答に込めて表す行事として根付いている。

このお歳暮という贈答については、税法でも日本の文化に根付いた慣習として理解を示しており、贈与税においても非課税として取り扱っている。しかしそれはあくまでも、社会通念から逸脱しない範囲においての話だ。高級時計や車、金塊や美術品を贈答として贈るとなれば、さすがに税務署も見過ごすことはできない。これは会社から個人に贈る場合も同じだ。さらに、それが事業主間での贈答であり、かつ、贈答品の内容が現金や商品券などといった金品である場合には、収益として計上するのが原則となる。

贈り手と受け手によって税金が異なる

では、お歳暮に税金がかかる場合には、どのように考えたらよいのだろうか。これは、贈り手と受け手それぞれが個人か会社かによって取り扱いが異なる。ここでは、貰い手が個人の場合に限って考えていく。ちなみに貰い手が法人の場合には、その金額如何に関係なく、原則としてもらったものはすべて「受贈益」として計上し、法人税の課税対象となる。

1.贈り手が個人の場合

この場合は、贈与税が課税される。贈与税には暦年課税と相続時精算課税の2種類がある。

暦年課税制度では、その年に貰い受ける贈与の合計額が110万円未満であれば税金はかからない。また、税金がかかる場合には、その贈り手と受け手の関係によって、特例贈与財産と一般贈与財産に二分され、税率が変わってくる。

相続時精算課税制度は、原則としてその年1月1日において60歳以上の祖父母または両親から同年同日に20歳以上の子または孫に対して行われる贈与についての制度だ。贈り手の生前に行われた贈与については、合計2500万円までは贈与税が課税されない。ただし、この適用を受けるためには、選択届出書の提出と贈与を受けた都度、毎年3月15日までに申告書を提出することが必要となる。そして一度精算課税制度を選択すると、その二者間では二度と暦年課税制度を適用することができない。

ここでは、暦年課税制度をベースに課税されるかどうかを考えていくので十分だろう。

2.贈り手が法人の場合

この場合のお歳暮は所得税が課税対象となる。ビジネスでの取引関係がない会社からもらうお歳暮は「一時所得」、役員あるいは従業員の立場として取引先から貰うお歳暮は「雑所得」として取り扱われる。「一時所得は『棚ぼた』、雑所得は『ビジネスのおまけ』」としてイメージすると分かりやすいかもしれない。一時所得と雑所得の所得計算方法は次の通りだ。なお、贈与税と異なり、「いくらまでなら税金0円」といった非課税枠は原則としてないので注意しよう。

一時所得:総収入金額-収入を得るために支出した金額(※)-特別控除額(最高50万円)
(※)その収入の発生や原因に伴い直接要した金額に限る

雑所得:総収入金額 - 必要経費

取引関係があるなしに関係なく、多くの場合、ビールやお菓子など、数千円程度の贈答で収まっている。社会通念上常識の範囲内については税務署もとやかく言わない。しかし、それが高額旅行券など金品の場合、あるいは高額腕時計やポルシェといった場合には、税務署も目を光らせてくるので注意が必要だ。

ポルシェやロレックスを贈答した場合、課税関係はどうなる?

では、次のような場合、課税はどのようになるのだろうか。

1.お歳暮がポルシェや高額ロレックスだった場合

ポルシェや高額ロレックスの時価が原則として贈与価額または雑所得や一時所得の収入金額となる。この場合、贈与税では財産評価基本通達における一般動産として扱われ、売買実例価額、精通者意見価格等を参考にして時価が決まる。所得税においては、「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」として取り扱われ、この場合には「その資産のその収入時における価額(つまり時価)」が収入額となる。新車か中古車かによって時価評価の考え方は異なるし、その品がビンテージかどうかによっても大きく異なるので注意しよう。

2.高額の商品券や旅行券をお歳暮としてもらった場合

商品券の額面額が贈与価額または雑所得や一時所得の収入金額となる。なお、事業主間における取引関係にもとづいて高額商品券などの金品が贈られた場合には、たとえ1000円でも10000万円でも、雑所得として計上しなくてはならないので注意しよう。

参考:
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/shotoku/05/02.htm

取引関係や立場によっては、お礼の気持ちをこめて高額商品をお歳暮として贈りたくなることもあるだろう。しかし、お歳暮を受け取った結果、税金を払う破目になっては、貰い手にとっては「いい迷惑」だ。せっかく築いた信頼関係が壊れ、お礼の気持ちがあだとなってしまうことになりかねない。

贈答にかけるお金は今後の関係の発展に尽くすためにとっておこう。そして、贈答の際には、単に品物を贈るだけでなく、手紙や電話で気持ちを表す方がより信頼関係を深めるのに役に立つのではないだろうか。

鈴木 まゆ子
税理士、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年に税理士登録。外国人の在日起業の支援が中心。現在、会計や税金、数字に関する話題についてのWeb上の記事執筆を中心に活動している。心理セラピーは、リトリーブサイコセラピストの大鶴和江氏に師事。カウンセリングやセッションの他、金銭に絡む心理を研究している。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。ブログ「 経済DV・母娘問題からの解放_セラピスト税理士のおカネのカラクリ