メガバンク,フィンテック
(画像=Webサイトより)

一部経済誌では「銀行の破壊者」とさえ称されたフィンテック(FinTech)。金融とITの力でより便利なサービスを生み出すこの動きは、スタートアップ企業の動きが目立つこともあって、従来の金融機関にとっては敵対する存在と見られた。

しかし今やメガバンクを含む銀行などの金融機関もこのフィンテックに取り組んでいる。日本を代表する大手都銀のフィンテックの取り組みとはどのようなものだろうか。

3メガバンク(グループ)の取り組み API

このところ注目されている話題の一つがAPI接続だ。APIとはApplication Program Interfaceの略。簡単にいうと、あるソフトウェアが別のソフトウェアの機能を呼び出すときの仕組みだ。この機能を使えば開発のハードルが下げられるし、利用者にとっても他社サービスと連携させられるために便利なのだ。

たとえば、国内銀行で初めてAPIを公開したのはネットバンクの住信SBIネット銀行。同行はマネーフォワードと提携、家計簿サービス「マネーフォワード」や会計アプリ「MFクラウドシリーズ」上で、住信SBIネット銀行の残高や入出金の照会を可能にしている。

メガバンクでは、みずほ銀行が法人向けインターネットバンキングサービス「みずほビジネスWEB」において「API連携サービス」を始めているほか、三井住友銀行や三菱東京UFJ銀行も来春に始める予定とされている。

ブロックチェーン・仮想通貨・決済

仮想通貨・ブロックチェーンも各グループとも力を入れている分野だ。三菱東京UFJ銀行(三菱UFJフィナンシャル・グループ)は、世界の金融大手22社が設立した仮想通貨決済研究コンソーシアムに早くから名を連ねているほか、独自の「MUFGコイン」を開発中とも報じられている。

みずほ銀行(みずほフィナンシャルグループ)も日本IBMと共同で決済業務の領域での仮想通貨「みずほマネー」について検証を行っている。ブロックチェーンを利用、仮想通貨を決済で活用すべく、実証実験だったそうで、「1円=1みずほマネー」と固定して、買い物や飲食の支払いに使うといったもののようだ。

またSBIホールディングスと共同で、ブロックチェーンを使って海外送金にかかる時間を短くするシステムを開発する方針だ。従来、メガバンクで海外送金を依頼すると、日数も費用もかかることが問題になっていたが、新システムでは、素早く廉価で完了できるようになるという。

さらに同行はソフトバンクとともに、新しいレンディングサービスを提供するための合弁会社を11月に設立したばかり。同行が顧客データ分析やローン審査のノウハウを、ソフトバンクがAIによるデータ分析を融合した「スコアリングモデル」を提供するという。

三井住友銀行(三井住友フィナンシャルグループ)はアジアでモバイル決済アプリ「ジーニアス」展開。インドネシアの中堅銀行とともに開発したスマホのアプリで、利用者が送金先の口座番号を入力などすれば入金できるものだという。

またNECと共同出資で設立した新会社breesでは、スマホコンビニ収納サービスを来春に始める考えだ。公共料金などをコンビニで支払う際、主に紙に印刷された払込票を持参し、店頭レジにて現金で支払うものだが、払込票上にバーコードで表示された支払情報を、スマホ画面上に電子バーコードとして表示して、ペーパーレスで支払えるようになるものという。

また同じグループの三井住友信託銀行は今夏、金融機関の事務代行などを手がけるエスクロー・エージェント・ジャパン(EAJ)と共同研究に乗り出す方針を明らかにしている。決済システムを効率化したり、利用者の負担を軽減できたりするサービスを開発するという。合意にはブロックチェーンの研究も含まれているという。

EAJは、ブロックチェーン技術が資金決済の利便性、合理性、安全性の向上に貢献するとみて、スタートアップ企業 Orbと共同での調査研究を開始している。Orbはブロックチェーンを利用した独自認証技術による、非中央集権型クラウドコンピューティング・システム「orb」を開発。そのサービスの第一弾として、仮想通貨の発行・運用プラットフォーム「SmartCoin」を提供している、国産ブロックチェーン技術で注目の企業だ。

ハッカソンやWebサイト設置 ますます活発化する動き

APIやブロックチェーン以外の分野でも、各行、各グループともイベントを開催するなど動きを加速している。

三菱UFJフィナンシャル・グループはハッカソン「FinTech Challenge」を開催したほか、現在2期目の参加企業を募集中の「デジタル・アクセラレータ・プログラム」(1期目はフィンテック・アクセラレータ・プログラム)を主宰するなど、スタートアップ・ベンチャーを支援する企画を多数行っている。同プログラムの1期目の参加企業は、既にMUFGのカブドットコム証券やじぶん銀行などと具体的なサービス開発を進めている。また先端テクノロジーの情報や、グループのフィンテック導入などの情報を発信するWebメディア「MUFG Innovation Hub」も開設している。

みずほフィナンシャルグループも、「Pepperと一緒に全く新しい『銀行』というサービスを創る」ことをテーマとした、ハッカソン「Mizuho.hack」を開催。既にみずほ銀行の店舗に配置されている人型ロボット「Pepper」を活用するアイデアやアプリケーションを募集している。

三井住友銀行も10月、同行初となる「ミライハッカソン」のデモデーを開催した。金融APIを活用したハッカソンで、同行が PoC 目的で利用可能なサンプルAPIを提供したという(PoCとは概念実証のことで、新しい概念や理論、原理などが実現可能であることを示すための簡易な試行のことを指す)。

同行は2012年にITネット化タスクフォースを設置、翌年にPT(プロジェクトチーム)にしていたが、2015年10月、オープンイノベーションの取り組みを加速させるために「部」を立ち上げた。外部から優れた人材を招くなどして、急速にフィンテック、イノベーション分野での存在感を高めつつある。

ここで紹介した各グループ、各メガバンクの動きはごく一部だ。一時は「破壊者」といわれたフィンテックについて、いずれの銀行も、顧客サービスの向上のために取り込み、協業しようとしている。こうした中で、AIやビッグデータを中心とした人材のニーズは高まっている。IT業界で活躍しているような、テクノロジーに詳しい人材が、今後ますます金融業界で活躍するようになるかもしれない。( FinTech online編集部

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