キャンセル,訴訟社会
(写真=Kzenon/Shutterstock.com)

挙式披露宴の規約で、申込金支払後にキャンセルしても返金されないという条項が規定されているとする。申込金を払い込んだものの、何らかの事情で取り止めたとする。一般人なら、返金されないのは「契約書にも明記されているし業界慣行でもある」として、泣き寝入りしてきたことであろう。

たしかに消費者団体や弁護士など第三者の力を借りて交渉をしたり裁判を起こしたりはできる。しかし交渉や裁判は精神的にも、経済的・時間的にも大変だ。そもそも被害額がたいした金額でもない場合も多い。受ける企業側はこの手のクレーム処理に慣れている。

そこで制定されたのが消費者裁判手続特例法だ。多数の消費者に被害が広く分散されているケースにおいて、「特定適格消費者団体」が多数の被害者のために「共通義務確認の訴え」を起こすことができるという制度である。

アメリカのクラスアクションとの違い

昨年10月に施行された、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(消費者裁判手続特例法)。12月27日には、2004年から消費者被害の防止に取り組んできた東京の消費者団体である「特定非営利活動法人消費者機構日本」が、消費者裁判手続特例法に基づく「特定適格消費者団体」の第1号として認定された。

今後もいくつかの団体が「特定適格消費者団体」に認定されることが予想されている。また認定された「特定適格消費者団体」が、近いうちに消費者裁判手続特例法に基づく第1号案件の裁判を起こすと噂されている。この動きは、極めて地味な動きにも見えるが、実は、日本の司法構造や社会構造を変える大きなインパクトを与える可能性がある。

アメリカは訴訟社会と言われるが、その要因の一つがクラスアクション制度の存在である。日本で新しく始まったこの制度もアメリカのクラスアクション制度を参考に作られた。多数の人が同じような被害を被っている場合に、そのうちの誰かが自分自身だけでなく、その被害者全体を代表して訴えを起こすことができる制度だ。

もっとも日本がアメリカのような訴訟社会となってしまわないようにするために、アメリカの制度とは異なる制度設計がなされている。

第1に、アメリカでは被害者なら誰でも裁判を起こすことができるが、日本で原告になれるのは「特定適格消費者団体」だけだ。第2に、アメリカでは対象事案が無限定だが、日本では対象事案が契約関係のある一定の損害に限定されている。したがって、自動車の欠陥によって事故に遭った被害者が自動車メーカーを訴えるといったような、契約関係のない者同士での裁判は、消費者裁判手続特例法に基づく裁判としては認められない。第3に、アメリカでは除外の申し出をしない限りすべての対象者に判決の効力が及ぶが(オプトアウト)、日本ではあくまでも手続に加入した消費者のみが救済の対象となる(オプトイン)。

実際に損害の賠償を受けるためには債権届出が必要