2016年の転職市場を振り返ってみると、多くの企業では慢性的な人材不足を解消するため積極的に採用活動を行い、市場は活況を呈していた。また、グローバル化や新規事業への参入を進める企業が増えたことで、ハイキャリア層のマーケットが拡大したことも大きな特徴だ。
では、2017年上半期の求人動向はどうなるだろう。インテリジェンスが運営する転職サイト『DODA』で編集長を務める木下学氏の分析を確認してみよう。
2017年上半期は大きなチャンス
木下氏は、2017年上半期の求人動向について「2016年下半期の高い水準のまま、さらに緩やかに上昇を続けそうです」としている。
「年度末をめどに転職をしようと考える人が増える時期ですが、企業もまた、年度の採用計画の達成に向けてもう一段ギアを入れ直すタイミング」と木下氏がするように、年度末に向かう今の時期は、とくに大きなチャンスだ。
さらに、2017年上半期の転職市場については「早めに転職活動を始めてしっかりと情報を集めることで、より自分の希望条件に合った転職先を見つけられる可能性が高く、未経験者にもチャンスが広がっている市場環境」であるとのこと。転職希望者にはありがたい追い風となりそうだ。
先を見据えた転職活動
政府の進める「働き方改革」によって、今後、企業の勤務体系には大きな変化が表れると予想される。長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現に対応していくためには、かなり大掛かりな変革が必要になるだろう。
日本の人口減少も深刻な課題だ。木下氏は「生産性の向上や人材不足を解消する意味でも、人工知能やロボットの進化が止まることはないでしょう」とする。ただし、「あらゆる分野でテクノロジーによる省力化・生産性改善が図られており、その大きな潮流の中で、これまでになかった新たな仕事や役割へのニーズが生まれてもいます」ともしているように、人間の仕事がなくなってしまうわけではない。「機械でできる仕事は機械に任せて、人は人にしかできない仕事をするようになる」(木下氏)というのが本質だろう。
木下氏によると、日本ではオープンイノベーションの動きが活発になってきているという。転職希望者に向けて、「自分はどんなポジションでどのような役割を担うようになりたいのか、そこに必要なスキルや経験は何かをイメージしながら、それに近づくための第一歩となる『次のステージ』を探してみてください」としている。
金融業界の2017年上半期動向は?
ここからは金融業界の動向について見ていこう。DODAキャリアアドバイザーの鈴木智勝氏によると、「金融業界の求人数は、業界全体では大きな増減なく推移しそうです」とのこと。多くの業界で求人数の増加が見込まれる中、金融業界は「横ばい」という予測だ。
まず銀行について。大きく影響を与えているのは、日銀のマイナス金利政策だ。鈴木氏は「特に地方銀行の業績へのインパクトは大きく、コスト削減のため新規の求人は抑えられる傾向にあります。リスク規制対応、セキュリティ対応、フィンテック関連の部門などでは採用が続いていますが、リテール営業・法人営業といったポジションの採用は少なくなってきています」という。
一方で、証券・投資信託・保険では、営業系の求人を増やしている。マイナス金利で個人の投資への関心が高まったことが影響していると見られる。鈴木氏は傾向として、「従来は商品ありき、プロダクトアウトの発想で顧客へのサービスを提供してきたものが、マーケットインの発想へと変化」してきたとのこと。「顧客の資産をいかに増やしていくかをコンサルティングしていく形のサービスが主流」になってきているという。
金融業界の注目のキーワード
鈴木氏に、2017年上半期の注目のキーワードを挙げてもらった。「フィンテック」「金融商品仲介業(IFA)」「異業種からの採用」の3つだ。
「フィンテック」とは、ITを駆使して新たな金融サービスを生み出したり、従来のサービスを見直したりする動きのことだ。新しくベンチャーが立ち上がったり、Webサービス企業が新規事業を立ち上げたり、大手金融機関が社内にフィンテック関連部門をつくる動きも見られている。また、ベンチャーと大手金融機関が業務提携を結ぶ動きも活発化している。
「金融商品仲介業(IFA)」のIFAとは「Independent Financial Advisor」の略。特定の金融機関に属さず、中立的な立場から顧客に必要なサービスや金融商品を提案したり、資産運用のアドバイスをしたりする金融の専門家をさす。将来的に注目される業態だ。
「異業種からの採用」に関しては、金融業界においてはこれまであまり例がなかった。しかし近年、顧客が金融機関の利便性を重視するようになってきたことで、異業種からの採用が増えてきたという。具体的には、広告宣伝やマーケティング経験のある人材へのニーズが高まっている。
金融業界のこれから
「フィンテック」について鈴木氏は、金融業界でもITを活用した省力化・生産性向上の動きがあるといい、「例えば、アルゴリズムによる自動資産運用サービスを個人に提供するフィンテックベンチャーも出てきています。今後は、フィンテックベンチャーの技術を従来の金融機関が持つ顧客へと結びつけるアライアンスを企画できる人材へのニーズが高まると考えられています」としている。新たなニーズが生まれつつあるようだ。
2017年上半期の金融業界の転職動向は「横ばい」という予測だが、間違いなく新しい風は吹き込んできている。金融業界での転職を考えるなら、先を予見する力とともに、「どのような役割を担うことができるのか」という自己分析が大切になってくるだろう。(フリーライター・渡邊祐子)
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