退職金は、月々の給与やボーナスに比べて支給される額が大きく、会社員が人生において手に入れることのできる、数少ないまとまったお金の一つと言える。また、定年退職により退職金を支給される場合、老後の生活を支える重要な資金の一つであり、日本人の平均寿命が延びる中、その重要性はますます高まりつつある。
自らが受け取ることのできる退職金の額は、計算方法次第で大きく変動するのをごぞんじだろうか。今回、その退職金の計算方法を分かりやすく解説する。
退職金の計算方法は3つ
基本給連動型
退職金の計算方法は主に3種類あり、多くの企業が採用している方法が基本給連動型である。これは、退職者の退職時の基本給の額に勤続年数を掛け合わせ、さらに退職理由などに応じた係数を掛けて計算する方法である。この方法には、基本給次第で会社の支払う退職金の額が高騰しやすいという特徴が見られる。
高騰を避ける方法として、基本給連動型の変形版とも言える定額制がある。基本給に関係なく、勤続年数によって額が決まる。基本給連動型、定額制いずれも、従業員の離職をとどめる効果は期待できるものの、会社への貢献度よりも勤続年数が重視されるため、実力のある社員から不満が出やすいという問題が生じる。
別テーブル制
二つ目は、別テーブル制である。基本給連動型と類似しているが、退職時の基本給の額の代わりに、算定基礎額を計算で用いる点が異なっている。算定基礎額とは、退職理由や退職時の役職などを加味して、基本給の額とは関係なく定められた額を言う。
基本給連動型に比べ基本給の額の影響を受けず、かつ会社への貢献度を加味することができる。だが算定基礎額は勤続年数に比例することが多く、その点は基本給連動型と同じである。
ポイント制
三つ目は、ポイント制である。勤続年数、役職、取得資格などに応じて与えるポイント数を決め、ポイントの合計に別途定めたポイントの単価を掛けて計算する。付与するポイント数を会社が自由に決めることができるため、会社への貢献度も加味するなど、特定の考慮要素だけにとらわれないバランスのよい計算が可能であり、また、基本給の水準の影響を受けないという特徴もある。
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辞め方で金額が変化する
退職金の額は、退職者が会社を辞める理由によっても変化する。会社を辞める理由としては、自己都合、会社都合、定年がある。
自己都合とは、転職、病気療養、結婚による引越しなどにより社員が自ら希望して退職するケースを言う。何らかの問題を起こし懲戒解雇となった場合も含まれる。一方、会社都合とは、会社側からの一方的な労働契約の解除により退職を余儀なくされたケースであり、業績悪化、経営破たんによる人員整理により退職するケースが多い。
このほか、退職勧奨・希望退職に応じた場合、転勤により通勤が困難となった場合、セクハラの被害を受けた場合など、自分の意思に反して退職を余儀なくされたケースが含まれる。
基本給、役職、勤続年数など他の条件が同じ場合、一般的には会社都合より自己都合の方が退職金の額が低くなる。 また、どのような方法であっても、退職金の計算に際して勤続年数がある程度考慮される以上、定年の場合、他の事情が同じであれば、自己都合・会社都合に比べ、その額は多くなる。
退職金に対する所得税・住民税は、その額から一定額を控除した後の額を基準に課税されるが、勤続年数が長いほど、特に勤続年数が20年を超えると、より控除される額が多くなり、自己都合・会社都合に比べて定年の方が税金が優遇され、実際に受け取る金額に影響する。
公務員だとまた金額は違う
内閣官房内閣人事局の「退職手当の支給状況」(平成26年度)によると、一般の行政事務に従事する国家公務員(行政職俸給表(一)の適用を受ける者)のうち、大卒の職員に対する平均の退職金は、勤続年数30年で応募認定退職(民間の会社都合に相当する)による場合は約3076万円、定年による場合は約2408万円である。
東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(平成28年版)」によると、大卒社員に対する退職金は、勤続年数30年で会社都合による場合は約769万円、定年による場合は約1016万円とされている。
日本経済団体連合会の「2014年度9月度退職金・年金に関する実態調査結果」によると、大卒社員に対する退職金は、勤続年数30年で会社都合による場合は約1804万円、定年による場合は約2358万円であり、これは、大企業における状況とみなすことができる。
各調査の時期やその集計方法が異なるので、正確な比較は困難であるが、同じ退職理由で比べて見ると、公務員は中小企業に対して、会社都合、定年、いずれの場合も、大きく上回っている。一方、大企業と比べると、定年による場合はほぼ同じ水準であるが、会社都合による場合は、大きく上回っている。
老後に向けた人生設計を
退職金の計算方法は、基本給連動型がこれまでの一般的イメージであった。しかし、別テーブル制、ポイント制といった、基本給や勤続年数以外の要素も加味した計算方法も登場し、それが実際の支給額の差に反映する。いまや、具体的な計算方法を知らずして、勤続年数や基本給のみから、退職金の額を予測することは難しい。
特に、現在勤める会社で定年退職することを考えるのであれば、その退職金の計算方法を知らないことは、老後の人生設計を放棄していると言っても過言ではない。充実した老後の生活を実現するため、自社の退職金の計算方法を確認し、自らが将来受け取ることができる退職金の額を把握することが重要である。(ZUU online 編集部)