SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

シンカー:ネットの国内資金需要の拡大が核となり、乗数効果や信用創造のプロセスを経て、国内の金融資産が拡大し、マネーの拡大がデフレ完全脱却の力となることが確認できた。ネットの資金需要が消滅してしまっている現在、財政緊縮は異常であると言え、財政拡大に転じ、ネットの資金需要を復活・拡大させ、マネーの拡大に勢いをつけることが、デフレ完全脱却のために必要があろう。

マネーの拡大がデフレ完全脱却の力となる

日本の内需低迷・デフレの長期化は、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率(デレバレッジ)に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度(成長を強く追及せず、安定だけを目指す政策)であり、企業貯蓄率と財政収支の和(ネットの国内資金需要、トータルレバレッジ、マイナスが拡大、GDP%)がゼロと、国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失していたことが原因であると考えられる。

では、ネットの国内資金需要が核となり、乗数効果や信用創造のプロセスを経て、国内の金融資産の変化に影響が出てくることは確認できるのだろうか?。

国内の金融資産の変化は、資金循環統計の資産全体のフロー(4四半期累計、GDP比率)から海外と日銀を除いたものとする。

国内の金融資産の変化を、1年前のネットの資金需要、日銀短観中小企業貸出態度DI、国際経常収支の変化、日銀金融資産の変化、ネットの資金需要と日銀金融資産の変化の積、そしてダミー変数(推計誤差が1標準偏差を上回った場合)で1999年からのデータで推計する。

推計結果は以下のようになった。

国内の金融資産の変化(GDP%)=6.7-2.6*ネットの資金需要(1年先行、GDP%)+0.2*短観中小企業貸出態度DI+0.4*日銀の金融資産の変化(GDP%)+3.6*国際経常収支の変化(GDP%)-0.1* ネットの資金需要*日銀の金融資産の変化+9.7*アップダミー(推計誤差が1標準偏差を上回った場合に1)-12.5*ダウンダミー(マイナスの推計誤差が1標準偏差を上回った場合に1)

R2= 0.91

ネットの資金需要が1%拡大(マイナスが拡大)すると、乗数効果や信用創造のプロセスを経て、1年後の国内の金融資産が2.6%程度拡大することが確認できた。

ネットの資金需要の喪失でマネー拡大できず停滞

国内の金融資産の変化の推計値をみると、2000年代にほぼゼロとなっており、ネットの資金需要の喪失でマネーが拡大できず、デフレと内需低迷から脱することができなかった様子をうまく捉えている。

一方、アベノミクス前後で、消滅していたネットの資金需要が、企業貯蓄率の低下と震災復興と景気対策による財政緩和により復活し、国内の金融資産が明確な拡大トレンドとなり、マネーの拡大が生まれたのが、日本のデフレ完全脱却への動きにつながったとみられる。

しかし、グローバルな景気・マーケットの不安定感を警戒した企業行動の慎重化(企業貯蓄率の短期的なリバウンド)と、消費税率引き上げと税収の大幅増加などにより財政政策が過度に緊縮気味となり、ネットの資金需要が消滅してしまい、マネーの循環・拡大は滞り、株価下落・円高・物価停滞となり、デフレ完全脱却への動きが停滞してしまった。

国内の金融資産の変化の推計値を見ても、日銀やDIの効果で拡大は維持しているが、拡大モメンタムが頭打ちとなり、停滞してしまっている姿が見てとれる。

新興国のストック調整が一巡し、先進国では財政政策による需要下支えの動きが見え、円高に歯止めがかかったこともあり、2016年4-6月期をピークに、企業貯蓄率は再び低下し、循環的な内需の回復とデフレの緩和が再開したことを示している。

ネットの資金需要が消滅してしまっている現在、財政緊縮は異常であると言え、財政拡大に転じ、企業貯蓄率の低下とともにネットの資金需要を復活・拡大させ、マネーの拡大に勢いをつけることが、デフレ完全脱却のために必要があろう。

国内の金融資産の変化とネットの資金需要などによる推計値

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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