投資家の間で新興国通貨の選別が進んでいる。米大統領選や米国の追加利上げ観測が台頭して以降、同じ新興国通貨であっても上昇する通貨と下落する通貨で明暗が分かれた。
いまや、新興国通貨は一括りにできない時代となり、新興国投資をするにあたってはより精査する必要がでてきた。今回はいま新興国通貨になにが起きているのかについて解説していこう。
勝ち組は資源国通貨
新興国の中でも豊富な資源を有し、その資源を輸出することが経済活動の大きな割合を占める国を資源国という。現在は新興国通貨の中でもこの資源国の通貨の上昇が目立ち、勝ち組となっている。なぜ資源国通貨が上昇しているのだろうか。
理由はシンプルで、原油をはじめとした資源価格が回復してきており、今後の資源国経済の見通しが明るくなっているからだ。資源価格が上昇すれば、資源の輸出が主な収入源である資源国の通貨も上昇するというシンプルな構図となっている。資源国通貨の代表例がロシアルーブルとブラジルレアルであり、米大統領選以降もこの2通貨の上昇が目立つ。
ロシアは豊富な原油に恵まれており、ロシアルーブルと原油相場は連動しやすい特性を持っている。原油価格は一時20ドル台をつけるなど低迷し、ロシア経済もマイナス成長となっていた。
しかし、OPECが原油の減産で合意したことなどが背景となり原油価格は回復の兆しを見せている。また、トランプ大統領が誕生したことで米国とロシアの関係回復が期待されたことも後押しとなり、ロシアの株式市場やルーブルは上昇する結果となった。
ブラジルもロシアと同様に豊富な資源に恵まれている資源国であり、ブラジルレアルは資源価格との連動性が高い通貨である。ブラジルは前大統領の汚職疑惑など政治的混乱が経済を大きく疲弊させ、経済はマイナス成長に陥りブラジルレアルも下落した。しかし、新しい大統領が就任し、今後の財政改革について期待が高まったことや、資源価格の回復も追い風となりブラジルレアルは反発に転じている。
このように、新興国通貨の中でも特に資源国通貨が資源価格回復の恩恵を受けて上昇しており勝ち組となっている。
負け組は政情が不安定な新興国通貨
資源国通貨が上昇する一方で、下落して負け組となった新興国通貨もある。下落した新興国通貨は資源をあまり有しておらず、政情が不安定な国が目立つ。負け組の新興国通貨の代表例がトルコリラとメキシコペソだ。
トルコはクーデーターが発生するなど政治が大きく混乱しており、先行きが不透明である。トルコリラの対ドルレートは史上最安値を更新するなど通貨も大きく影響を受けている。トルコリラは米大統領選以降、最も下落した新興国通貨の1つとなっている。ただでさえ米国の追加利上げ観測で米ドルが上昇しやすい環境にある中、豊富な資源を有しているわけでもなく政情が不安定なトルコの通貨は売られやすい状況となっている。
メキシコペソは米大統領選という政治的要因の影響を最も受けた通貨の1つだろう。トランプ大統領はメキシコとの国境に壁を建設すると表明していることに加え、多国籍企業にメキシコの生産拠点を米国に移すように要請している。
メキシコからの輸出品に高い関税を課すと発言するなど、メキシコ経済にとっては大きな不安材料である。米大統領選挙中はトランプ氏の支持率が下がるとメキシコペソが上昇するという動きも見られた。トランプ大統領誕生以降はメキシコペソは下落している。
現在は米国の追加利上げ観測が台頭しており、米ドルが上昇しやすい環境になっている。そのような環境下、政治的混乱など先行きが不透明な新興国通貨はまっさきに売られやすい状況となっており、新興国投資にあたってはその国の政治状況をよく分析する必要がありそうだ。
今後はどこに注目すべきか
足元、注目すべきは米国の金融政策、トランプ大統領の貿易政策、資源価格、新興国各国の政治状況の4つである。
特に米国が追加利上げに踏み切れば、新興国通貨は一時的に売られやすい状況となる。しかし、米国の景気回復に伴って新興国の輸出も増加すれば新興国通貨にとっては追い風となるので、単純に利上げをしたから新興国通貨も下落するとは考えないほうがいいだろう。
そこで気になるのがトランプ大統領の貿易政策である。米国が他国からの輸入品に関税を課すなど保護主義的な貿易政策に傾けば、新興国経済にとってもマイナス材料となる。輸出が低迷すれば、新興国通貨は経済の低迷と米国の利上げというダブルパンチを喰らってしまうことになるため、米国の貿易政策にも注目が必要だ。
また、資源価格にも注目が必要だろう。先に述べたように、資源国通貨は資源価格と連動しやすい。もし資源価格が今後下落に転じれば、今までの上昇相場の巻き戻しが起きる可能性もある(既に原油などが反落をはじめている)。当然、各国の政治状況にも気を付けなくてはならない。
直近では、新興国への投資を考える時はこれら4つの要因には注目しておきたい。ただ、今まで見てきたように現在は新興国通貨と一括りにできない状況となっている。新興国通貨と一括りに考えず、選別をしていく必要があるだろう。(アナリスト 樟葉空)