シンカー:企業活動の動きが、景気サイクルを決めていると考えられ、企業貯蓄率はその代理変数となる。2016年7-9月期から企業貯蓄率は再び低下し、10-12月期には4.2%となり、循環的な内需の回復とデフレの緩和が再開したことを示している。しかし、10-12月期の段階では、米大統領選などの不確実性が残っていたこともあり、まだ企業貯蓄率の低下は加速しておらず、企業の慎重姿勢は続き、活動の回復は物足りない。グローバルな景気・マーケットの安定化と景気対策を含めた財政政策の緩和もあり、企業の過剰貯蓄による総需要が破壊される力、即ちデフレの原因が払拭されるデフレ完全脱却のポイントである企業貯蓄率の0%に向けた動きが再び強くなると考える。2017年1-3月期からは、企業貯蓄率の低下の加速が確認できるだろう。一方、名目GDPが長期金利を上回るリフレ環境へ転換し、財政収支を大きく改善させる力は継続している。財政収支(資金循環ベース)は2012年4-6月期の9.2%の赤字から改善を続け、2016年10-12月期には2.0%まで赤字幅が急激に縮小している。2020年度の基礎的財政収支の黒字化の政府目標の達成が十分射程に入るような財政収支の改善ペースであるが、その緊縮財政が企業と消費活動を含め、内需を抑制してしまっている。米国からの内需拡大の圧力をデフレ完全脱却への力に変えるためには、これまでの硬直化した財政収支の均衡に対する考え方をかなり柔軟化し、経済対話で内需拡大にコミットし続ける必要がある。
企業貯蓄率(日銀資金循環統計による)の上昇は、デレバレッジやリストラが強くなるなど活動の鈍化を意味し、景気の下押し圧力とデフレの悪化圧力となる。
企業は資金調達をして事業を行う主体であるので、マクロ経済での貯蓄率は必ずマイナスであるはずだ。
しかし、日本の場合、1990年代から企業貯蓄率は恒常的なプラスの異常な状態となっており、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、企業と家計の資金の連鎖からドロップアウトしてしまう過剰貯蓄として、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていると考えられる。
一方、企業貯蓄率の低下は、デレバレッジやリストラなど過剰貯蓄が総需要を破壊する力が弱くなり、景気の押し上げ圧力とデフレの緩和圧力となる。
企業活動の動きが、景気サイクルを決めていると考えられ、企業貯蓄率はその代理変数となる。
企業貯蓄率は2010年10-12月期の+9.7%(4四半期平均、GDP比率)から2014年10-12月期の+1.4%まで低下し、循環的な景気回復の進展を示していた。
それ以降、新興国経済の減速とグローバルな景気・マーケットの不安定化、そして円高、更に2014年4月の消費税率引き上げによる内需の下押しもあり、企業貯蓄率は2016年4-6月期には+5.0%まで上昇し、企業活動の鈍化により循環的な景気回復の力が弱くなってしまったことを示していた。
しかし、新興国のストック調整が一巡し、先進国では財政政策による需要下支えの動きが見え、円安に転じ、雇用の持続な改善により内需は底堅く、企業活動が鈍化から回復に再び方向転換したことが確認された。
2016年7-9月期から企業貯蓄率は再び低下し、10-12月期には4.2%となり、循環的な内需の回復とデフレの緩和が再開したことを示している。
しかし、10-12月期の段階では、米大統領選などの不確実性が残っていたこともあり、まだ企業貯蓄率の低下は加速しておらず、企業の慎重姿勢は続き、活動の回復は物足りない。
名目GDPの拡大というビジネスのパイの拡大が続く中、企業の雇用の不足感は強く、効率化と省力化を、設備・機器への投資で進めなければならなくなっている。
株価が上昇に転じ、マーケットの期待ROEは上昇しつつあり、企業はデレバレッジという貯蓄から投資に転じ、実際のROEを期待ROEに近づける動きを示す必要に迫られ始めている。
グローバルな景気・マーケットの安定化と景気対策を含めた財政政策の緩和もあり、企業の過剰貯蓄による総需要が破壊される力、即ちデフレの原因が払拭されるデフレ完全脱却のポイントである企業貯蓄率の0%に向けた動きが再び強くなると考える。
2017年1-3月期からは、企業貯蓄率の低下の加速が確認できるだろう。
一方、名目GDPが長期金利を上回るリフレ環境へ転換し、財政収支を大きく改善させる力は継続している。
財政収支(資金循環ベース)は2012年4-6月期の9.2%の赤字から改善を続け、2016年10-12月期には2.0%まで赤字幅が急激に縮小している。
2014年度以降の消費税率と社会保障負担の引き上げ、歳出抑制などによる緊縮財政で、景気回復の動きを上回るような財政収支の改善がみられる。
2020年度の基礎的財政収支の黒字化の政府目標の達成が十分射程に入るような財政収支の改善ペースであるが、その緊縮財政が企業と消費活動を含め、内需を抑制してしまっている。
その目標は、財政再建と金融緩和の強化を政策の軸として合意した2010年開催のG20前後に作成され、事実上の国際公約としたものである。
しかし、2016年のG20やG7では、財政政策を緩和することで合意しており、財政再建が主眼であったこれまでの方針はすでに転換している。
2月の安倍首相とトランプ大統領の首脳会談を経て、両国は分野横断的な経済対話を軸にして協力を深めていくことになり、目先は日本の貿易黒字と円安が問題視されることはなかった。
安倍首相は、為替から日本の内需拡大へ、トランプ大統領の注目をできる限り移そうとする努力をしたのだろう。
日本の内需拡大への強いコミットメントを示し、内需拡大により米国の製品・サービスの輸入が増加し、米国の貿易赤字の縮小に貢献することをアピールしたのだろう。
米国からの内需拡大の圧力をデフレ完全脱却への力に変えるためには、これまでの硬直化した財政収支の均衡に対する考え方をかなり柔軟化し、経済対話で内需拡大にコミットし続ける必要がある。
米国からの貿易赤字の縮小には家計の消費活動も必要であるが、企業活動の活性化が重要である。
安倍首相は、1月24日の参院代表質問で、「債務残高のGDP比を中長期的に着実に引き下げていく」とし、会計的なアプローチである基礎的財政収支の単純な黒字化よりも、よりマクロ経済的なアプローチである債務残高のGDP比率の改善を重視する姿勢を示し始めている。
会談後の3月2日の参院予算委員会では、「私はプライマリーバランス至上主義ではない。財政再建にはデフレ脱却と経済成長が大切である。デフレ脱却のスピードアップのため、機動的財政政策は大切である。」と述べている。
そして、麻生財務相も「財政のバランス、かつ経済成長をやらないといけない。どちらが大事かというと経済成長、これははっきりしている。」と述べている。
安倍首相と麻生財務相の発言を見ると、経済対話では米国から強い内需拡大の圧力があることを覚悟し、それを日本のデフレ完全脱却への力と変えるために知恵を絞ろうとする意欲がうかがえる。
内需拡大を促進するため、財政は緊縮から緩和に転じており、財政収支の改善ペースはかなり緩やかになってくるとみられ、日本のデフレ完全脱却への動きのサポートとなろう。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司
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