デフレからの脱却政策などを受け、ここ数年間、飲食業界は従来の「低価格」競争から転換し、様々な業績改善のため奔走している。上場している飲食カテゴリーの企業群も例外ではなく、さまざまな方策を模索している最中だ。
今回は串カツ田中 <3547> の業績分析を通して業績の推移および経営戦略を分析し、どういった方策を示しているかを解説していきたい。
地域の「伝統食」と「魅力」を伝える経営
串カツ田中はもともと、「料理人が起業した一飲食店」としてスタートし、その後業績を伸ばして展開していった飲食店とは一線を化す。
現・取締役副社長の田中洋江氏が父親から受け継いだレシピを元に、現・代表取締役社長である貫啓二氏と出会い、創業し始めたことからこの事業は始まった。
通天閣が見られ、「新世界」の名称などでも知られる大阪・西成で育った田中氏は「大衆的な串カツ屋に父と一緒に行くことが多かったが、父が独自に開発したレシピで作った串カツの方がおいしい」と感じ続けていた、というのが事業の原点だ。
その後、期間は空くもののさまざまな出会いや要因を通して「父のレシピ」をベースに「地域で大衆的な伝統食の魅力を世界に配信したい」という思いで事業をつくった、とリリースされている。
決算書の分析・考察
企業の成り立ちを軽く流したところで、次は決算書3表を通して飲食業界の動向を分析していきたい。
アベノミクスが始まったのは2013年度からであるが、串カツ田中はこの年度から2016年11月に公開されている直近決済までの4年間、右肩上がりで売上高・当期純利益ともに上昇を続けている。
2013年度時点で840百万円であった売上は2016年時点で3,972百万円と約4.7倍、当期純利益も2013年度時点で105万円から258万円と約2.5倍の状態で推移しており、堅調だ。
また財政状況に関しても純資産や自己資本比率、1株当たりの純資産額などもそれぞれ3〜4倍程度に増加しており、非常によい推移となっている。
最後に決算書3表である「キャッシュフロー計算表」を参照すると、営業活動によるキャッシュフローは+、投資活動によるキャッシュフローは−、財務活動によるキャッシュフローは+、という状況になっており、その状態が2014年度より3年間継続している。
これは「本業で収益を上げつつ積極的に設備投資と資金調達を行っている企業」においてこういった形になることが多い。つまりこの状態が維持されていれば「高い成長性」が見込める企業といえそうだ。
フランチャイズ戦略と今後の動向
串カツ田中の株主報告資料を参照してみると、高成長のカラクリは「フランチャイズ展開による店舗の急増」が挙げられる。
2011年12月より始まった「フランチャイズ化戦略」により、2014年4月時点で50店舗達成、2015年12月には100店舗達成と、1年ごとに約25店舗、月に2店舗以上のペースで事業を展開していることが分かる。
これらをベースに景気動向と合わせて考えるとデフレ社会という「低価格が好まれる世相」と「下町の安くて旨い伝統食」を提供するという事業のタイミングが一致したために高成長を続け、2016年度にはマザーズ上場を果たせた企業であるということが分かる。
問われる長期戦略と方向性
ただ気になるのが「今後の展開」だ。串カツ田中だけに限らず、上場されている株式というのは全て「過去数年の利益および成長も織り込まれた上で株価が決定」している。織り込まれる年数は業績によって変わってくるが、一般的に20〜25年程度の「長期利益および成長性」が加味されるのが通例だ。
そこで先ほどの「株主説明資料」を基に、今後の長期戦略動向を紐解いていくと、一抹不安が残る要素が発見される。それは2016年度までの出展は「関東圏」に集中しており、今後は「関西圏やその他」といったいわゆる「事業として未知の地区」に出店していくことが予想される、という点だ。
また長期目標としては「1000店舗達成」という内容が記載されているものの、その他の新戦略などのリリースはなく、「今後もビジネスモデルを継続だけしていく」というスタンスであることが見て取れる。
もちろんこれは事業上、必ずしも悪いわけではない。いわゆる「伝統を守り、得意なことだけ行い収益を伸ばしていく」という戦略はいわば「安定した事業経営」につながり、堅実だ。
もっとも近年ではITおよびメディアツールの発展も著しく、「伝統」をPRする手法もさまざまな選択肢を加味する必要がある、という世相ではある。そういった観点からみると、もう一口ほど何か「時代に適応する新要素」がリリースされていれば安心できる、というのも事実だ。
飲食業界に限らず、「伝統を守る」というの突き詰めれば「良いものを知ってもらい、利用者の理解を得て保護する」ということだ。
「良いもの・古いものなのだから保護されてしかるべきだ!」という間違った伝統のプライドと、保護観点を持った結果すたれていった伝統商品や業も多い。世界でも注目されている「日本の食」に取り組む同社の今後が注目される。(土居亮規、AFP バタフライファイナンシャルパートナーズ)