12年ぶりの見直しとなる改正個人情報保護法が5月30日に施行された。通信技術の発達や取り扱われるデータの種類の増加により、個人情報を取り巻く環境が変化している事を受け、実情に合わせた法制度に見直す。また、個人情報の取り扱いのルールを明確にする事で、企業の持つビッグデータの活用も促す。一方で、報道機関や規制対象拡大の影響を受ける中小企業を中心に戸惑いの声も上がっている。

具体的に何が変わる? 主なポイントをチェック

個人情報保護法,法改正
(写真=Photon photo/Shutterstock.com)

2005年に施行された個人情報保護法であるが、時代の変化を受け、実情に合っていないという指摘が多く出ていた。企業の取り扱うデータの種類が増加し、通信技術の発達で取り扱われるデータ量も膨らんでいる。これらを踏まえ、2015年に改正個人情報保護法が成立し、5月30日に全面施行される。改正法の主なポイントは3つある。

1つ目のポイントは、改正法では「個人情報」を再定義している事にある。従来は主に氏名や生年月日、連絡先といった情報を前提として「個人情報」を定義しており、それ以外の情報の線引きについては曖昧な部分があった。改正法では、個人を識別できる全ての情報を「個人情報」として取り扱う事を明確にしている。防犯カメラの映像や指紋情報等の身体的な特徴、マイナンバーやパスポート番号等の公的IDも個人情報として定義される。更に、他の情報と組み合わせて個人が特定可能な場合には、購買履歴データや位置情報も個人情報と判断される可能性がある。

2つ目のポイントは、「個人情報取扱事業者」の対象拡大である。従来は取り扱う個人情報が5000人分以下の事業者は規制の対象外となっていた。今回の改正では5000人という特例要件が取り払われ、ほぼ全ての企業、団体が同法の規制対象となる。新しく規制対象となる事業者は、個人情報の取り扱いについての対策を講じる必要が生じるのである。

3つ目のポイントは個人情報活用へルールを整備した点にある。個人情報の第三者への提供には本人の同意が必要となるが、これがビッグデータ活用を阻む要因となっていた。改正法では個人を特定できない状態に加工した情報であれば、本人の同意無しに第三者へ提供できるようになる。加工時のルールを明確にしており、企業は法に則った形でビッグデータ活用を行う事が出来るようになる。

町内会名簿は? 報道機関の実名報道は?

改正個人情報保護法は、個人情報の取り扱いを厳密にすると同時に、企業のビッグデータ活用へ道を開く発展的な改正である。しかし、実務面での戸惑いの声も多く出ている。

5000人という特例要件が取り払われた事により、従来規制の対象外であった事業者はその対策に追われている。取扱い規則の策定に追われている中小企業も多いと見られる。また、「個人情報取扱事業者」は営利、非営利を問わない。マンション管理組合や町内会も対象となり、名簿等の取扱いについて頭を悩ませている。保険会社ではこうした事業者も対象に個人情報漏えい時の損害を補償する保険を強化する動きを見せる。

報道機関等は過剰な個人情報保護による匿名社会化を警戒する。同法は国民の「知る権利」を保護する観点から、報道機関を適用除外としている。

しかし、個人情報保護が強化される中、報道機関への個人情報の提供を控える動きが起こる事を警戒する。日本新聞協会は改正法施行に先立ち、報道機関は適用除外である旨の国民理解に努めるとの声明を発表した。改正法が「知る権利」を奪う事が無いよう、報道機関の特殊性に対する理解の醸成を図る。日本民間放送連盟等、報道に関わる各業界団体も同様の声明を発表している。

実務面での戸惑いも多く見られるが、改正法への正しい理解の不足が大きな要因と見られる。今回の個人情報保護法の改正自体に異を唱える声は少ないと見られる中、国民への同法の周知徹底が今後重要となろう。(ZUU online編集部)