中国に関するネガティブ情報はなかなか当たらない。現時点において、中国共産党の一党独裁体制は崩壊せず、中国経済はハードランディングしていない。不動産バブルも、理財商品バブルも、負債バブルも、破裂することなく現在に至っている。数十年に渡り、こうしたネガティブ情報は外れ続けているが、それには、決定的な理由がいくつかある。
それは、日本や欧米諸国型の自由主義、資本主義体制を基礎に経済、社会をウォッチしているからである。過去のバブル崩壊の類似点ばかりを探しているが、相違点や特殊性についてほとんど触れようとしない。結果が異なるのだから、それらについてもっと詳しく分析し、客観的な立場からなぜバブルが崩壊しないのかを研究することが重要であろう。
相違点や特殊性として、最も指摘しておきたいのは、中国社会全体が、政治的な指導層から末端の一般住民に至るまで、「自己の利益を最大化するために全力を尽くそうとする」人々で溢れている点である。
それが中国経済の高成長を支える最大の原動力である。しかし一方で、どんなに規制を強化しても、どこからともなく投機が沸き起こり、いろいろな局面でバブルを発生させる。そうした弱点も、あわせもっている。
上場会社の株主、高級幹部による投機行為が発覚
中国証券監督管理委員会は5月27日、「上場会社における株主、董事、監査役、高級幹部の自社株売却に関する若干の規定」(規定)を発布、同日、上海、深セン証券取引所は具体的な実施細則を発表した。
これまで彼らへの規制がなかったわけではない。全く同じ内容の規定が存在している。それでも、彼らは規制の網を掻い潜り、当局にとって不都合な投機的取引を行った者が目立ったために、規制を再度強化したのである。
どういった行為が横行したのか? 以下に、その一例を示しておく。
深セン証券取引所の中小企業板に第一創業(002797)という小型の総合証券会社が上場している。4月28日の終値は16.04元(修正株価、以下同様)であったが、5月に入り急落、5月11日から3日連続でストップ安となり、4月に新しくできた規則によって売買停止となった。3日間の売買停止期間を経て19日には取引が再開されたが、下落は止まらず、5月23日場中では8.02元まで下げている。その後は少し戻しているが、6月6日終値は9.25元に留まっている。
ファンダメンタルズの面では、売られる材料は全くなかった。株式需給面に大きな変化があったために、急落したのである。
同社の上場は2016年5月11日である。上場前の株数は1970百万株で、公募で2189百万株を増資した。この内、1年間の売買禁止制限のかけられた株式が1970百万株あり、これらの株は36社の株主によって保有されたが、これらの大半は、投資ファンドであった。
公募価格は10.64元。上場後、1か月で株価は急騰、その後も高値圏で推移し、11月14日場中では45.56元(その後の権利落ち修正株価では28.40元)まで上昇した。PERは業界平均と比べ桁数が一桁違っており、投機的な取引が行われたのは明らかである。