財政は、実はあなたにとってとても身近な存在だ。
毎日の仕事や生活において、あなたは忙しく仕事に、家庭に、社会生活に、意識していろいろな決断や活動をしている。一方、あなたが意識していなくても、当たり前に利用していたり、自動的に進められたりしていることもたくさんある。
その多くは、国や地方公共団体によって提供されていたり、議会で決められたルールに従って進んでいたりする。その際、提供されたり決められたりすることの多くは、税金によってまかなわれ、税金によって雇用された政治家や公務員によって進められている。もちろん、その税金は結局のところ、あなたやあなたが勤める会社が負担しているのだ。
(本記事は、道盛 大志郎 著,編集, 大和総研 著, 川村 雄介 編集『明解 日本の財政入門』きんざい 2016/10/4 の中から一部を抜粋・編集しています)
あなたの身近でどのくらいの税金が使われているのか?
以下、あなたの1日を追って、身近でどれだけ税金が使われているか、ざっくり勘定してみよう(あくまでざっくりとした計算だし、数字のとり方によって金額も変わってくるので、そのようなものかぐらいの気持ちでみてほしい)。
朝起きてすぐ、あるいは朝食後、出勤がてらゴミ出しをするという人も多いだろう。ゴミの収集はあなたが住んでいる地方自治体の仕事だ。これの費用として、国民1人当り年間1・7万円の費用が掛けられている。4人家族なら7万円だ。
似たような経費で、人々の安全を守る警察の費用として、1人当り2.5万円、いざというときの消防の費用として1.6万円が使われている。4人家族なら両方合わせて16万円になる。
次にあなたに就学期の子どもがいたとする。公立の小学校に通っている児童1人につき、年間90万円が税金から支出されている。一方で保護者の負担はいくらぐらいかというと、給食費・遠足代・PTA会費など諸々の費用を集計しても6万円にすぎない。公立の中学生なら税金105万円と、保護者負担8万円だ。
また、もし子どもを公立中学校ではなく、私立中学校に通わせている場合、保護者は80万円を負担しているが、実は30万円が税金から補われている。
子どもがまだ幼児で公立幼稚園に通わせているとすると、幼児1人当りに税金から年間80万円が支出されるのに対して、保護者の負担は8万円である。もし両親とも仕事をしていて子どもを東京都板橋区の保育園に預けていたとすると、4〜5歳児の場合で100万円が税金から支出され、保護者は20万円の負担である。生まれたばかりの0歳児だと、税金から470万円が充てられており、保護者負担は24万円である。1歳児でも税金から220万円が支出され、保護者の負担は25万円にとどまっている。
また、道路や橋、上下水道など身の回りのさまざまな社会資本も、その原資のほとんどは税金だ。1年間で国民1人当り14万円(4人家族で56万円)が支出されている。そのおおよそ3分の1の5万円が道路の建設やメンテナンスに、2万円が洪水防止などのためのダムや河川工事に充てられている。
社会保障の財源になると、税金に加えて社会保険料も加わって複雑になる。社会保険料も、税金と同じく、サラリーパーソンだと給料から天引きされている。怪我をしたり病気になったりして診療を受けた場合の医療費は、すべての年齢の1人当り平均で年間31万円だ。あなたが窓口で支払う患者負担は4万円で、残りは税金12万円と保険料15万円でまかなわれる。
よく病院の窓口負担3割などといわれるが、31万円の3割である9万円ではなく4万円ですんでいるのは、70〜74歳は2割負担、75歳以上は1割負担と高齢者の負担は軽いからだ。それに、1カ月当りの患者負担の上限が決められていることなどから、現役世代であっても現実の負担割合はずっと小さくなっている。いずれにしても、4人家族だとすると、税金と社会保険料を合わせて108万円(=(12+15)× 4 人) も医療費だけのために負担していることになる。
高齢になると病気にかかりやすい。75歳以上のお年寄りに限定した場合は、年間90万円の医療費を使う。こちらの窓口負担は7万円で、残りの83万円が税金か保険料の負担である。家族に高齢者がいる場合は、税金や社会保険料でまかなわれている医療費総額は大きく跳ね上がっている。
あなたも年をとれば年金を受け取るようになる(はずである)。サラリーマンの夫と専業主婦の世帯で、現役時代の年収の平均が500万円だったとすると、夫婦2人の年金は260万円である。共働きで夫婦のそれぞれが500万円の年収を得ていたとすると、370万円ほどの受給額になる。このうち150万円(夫婦2人分)は基礎年金と呼ばれる部分で、その2分の1は税金によって負担されている。
つまり、ざっくりいうと、その財源は、75万円が税金、75万円が保険料である。これ以外の報酬比例部分といわれる上乗せ分(一方だけが働く夫婦の場合は110万円、共働き夫婦の場合は220万円)は、保険料でまかなわれている。
一方で負担はどのくらい?
これに対し、負担のほうはどのようになっているだろうか。大胆に仮定を置いてざっくり計算してみよう。
まず所得税・住民税については、あなたがサラリーマンで、年収500万円を稼いでいるとすると、一方だけが働く夫婦と子2人の世帯の場合は25 万円、独身世帯の場合で40万円の負担である。このほかに、社会保険料を70万円ほど負担している。この70万円のうち、40万円が年金保険料で、残りが医療・介護保険料と雇用保険料である。
消費税は、1年間に400万円分消費する人は、税率8%をかけて32万円の消費税負担となる。それに法人税がある。法人税もなんらかのかたちで一人ひとりの国民に転嫁されていると考えて、国民1人当りの法人税収を計算すると9万円だ。4人家族だと36万円になる。あなたが勤める会社が、あなたをはじめとする国民のために払っている金額と考えればよい。ついでにいうと、このほか会社は、従業員のために社員1人当り70万円の社会保険料も政府に払っている。
以上が主だった負担である。大雑把に税金だけを足し合わせると、4人家族の場合で90万円程度になる。所得税25万円、消費税32万円、法人税の実質負担36万円の合計である。結構な負担だ。社会保険料70万円というのも、思ったより大きな負担であろう。
一方、先述のとおり、使っている金額も相当なものだ。税金の使い道だけみてみると、ゴミ収集に7万円、警察・消防に16万円、道路や河川に56万円、医療の国庫負担に48万円だから、これだけで130万円近くになり、すでに90万円の税負担を超えてしまっている。このほかにみてきたものだけでも、児童・生徒1人当りで公立学校に100万円前後、基礎年金の国庫負担に75万円など、私たちは家族構成によっては国や自治体からのサービスを盛大に(?)受けている。
国や地方公共団体の仕事はあげたもの以外にも山ほどある。もちろん、税金もまだほかに各種ある。あなたが意識しないうちに、大金があなたの手を離れ、それがどこかに投入され、だれかの役に立っているはず(?)なのだ。
自分とは無縁? 批判すべきは批判、感謝すべきは感謝を
普段、新聞などでみる財政は、何千億円や何兆円という単位の話である。それは自分とは無縁の単位のお金が、無縁の世界でやりとりされているようにも思えてくる。だが、現実の財政の動きは、一人ひとりの仕事や、買い物や、生活、社会保障など、日常の積重ねなのだ。
増税や公共料金引上げのときだけ怒りを感じ、後のほとんどの時間を他人事ですませてしまうには、現代国家の財政は大きくなりすぎている。日頃から新聞などを注視し、税や保険料の使われ方について批判すべきは批判し、政府のサービスが役に立った際は感謝しないと、本当の働きを見失ってしまう。
道盛 大志郎
大和総研常務理事
1979年大蔵省(現・財務省)入省。主計局主査、主税局課長、理財局次長、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)、税務大学校長などを経て、2014年国土交通省政策統括官。2015年大和総研客員研究員、2016年より現職、弁護士(第一東京弁護士会所属、TMI総合法律事務所)。