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こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

為替市場も市場の一つであり、簡単に言えば需要と供給で決まります。しかし、その需要と供給がどうやって決まるかというのは難しい問題です。 国際通貨研究所編(2001)は、為替市場における取引を大きく 「国際間の経常取引」・「国際間の資本取引」・「中央銀行の市場介入」 に分類しています。

結論だけを見れば当然の話ですが、この大雑把な分類を知っておく事は、その後の市場分析を行う上で役立つと思われます。本稿では難しい理論的な話はしませんが、この分類を、説明を補足しながら紹介します。最後に、外国為替の基礎を学べる書籍を紹介します。


為替相場を決める3つの要因

冒頭で述べましたが、国際通貨研究所編(2001)は、為替市場での取引を
「国際間の経常取引」
「国際間の資本取引」
「中央銀行の市場介入」
に分類しています。

勿論、取引主体が取引を行う要因には金利や経済状況などファンダメンタルズがあり、厳密にはそれらが為替相場の決定要因になります。
しかし、ファンダメンタルズベースだけで見ると静的に捉えがちになってしまい、ファンダメンタルズの変化がどう取引主体に影響を与えるのかを動的に捉える上では、この分類は有効になります。
それでは、各分類を説明していきましょう。


国際間の経常取引

経常取引は、商品の輸出入代金・海外との利子・配当金の受取りや支払い、海外援助などの取引です。経常取引をより厳密な用語で言えば、貿易取引・サービス取引・所得収支・経常移転収支から構成される取引です。

こうした経常取引は、国内外の景気動向や国際競争力の相対的な差によって変化します。国際競争力が高まれば輸出が増加しますし、景気動向が悪い国には投資も減るわけですから、配当支払いなども減少する傾向にあります。

経常収支の黒字や赤字は為替市場における需給にも影響します。経常収支の赤字は自国通貨安を招き、経常収支の改善に寄与する側面があります。実際、ブレトン・ウッズ体制を終焉させて変動相場制に移行したのは、米国の大きな経常収支赤字を改善する事が大きな目的でした。 この経常収支改善機能がうまく働くかは金利の動向などが影響しますが、少なくとも国際間の経常取引は為替相場を決定する大きな要因の一つです。


国際間の資本取引

資本取引を大雑把に分類すると、直接投資(企業による直接投資)・証券投資(債券・株式投資)・その他の投資(外貨預金・銀行融資等)に分けられます。 直接投資は、海外に現地法人を設立したり、海外企業を買収したりといった投資などです。直接投資を行うには外国為替市場で外貨を取得する必要があるので、相場を動かす要因となります。

海外に証券投資を行う際も基本的には同様に外貨が必要になるので為替相場を動かします。円キャリートレードは、円を借りてドルを買いドルベースで投資する手法であり、それ自体が円安ドル高を招きます。また、円キャリートレードをやめるときも逆の動きが起こります。 円高が進む事で海外への直接投資を促すといった要因もあるので、資本取引と為替相場変動は相互的に影響し合います。


中央銀行の市場介入

基本的には為替市場の取引は前節までの経常取引と資本取引なのですが、それに加えて中央銀行による市場介入を独立させている事が、この分類の特徴になります。 直接的に市場に介入する場合、為替取引による直接効果だけでなく、その動きを見て他の投資家が売買をして更に相場が動く間接効果もあります。

また、中央銀行が実際に市場介入しなくても市場介入する可能性が投資家に共有されるだけでも相場変動に寄与する事があります。例えば、「日本は円安が望ましい」と中央銀行関係者が言うような市場に影響を与えるというような口先介入が、市場介入を投資家に予測させて相場が動くというような現象です。これをアナウンスメント効果と呼びます。 安倍政権における異次元緩和も、当分は金利を上げないというアナウンスメント効果があるので、円安方向に相場が動いているという側面があります。


外国為替の基礎を学べる書籍

外国為替の基礎を学べる書籍は多数ありますが、筆者が良いと思うものを幾つか紹介しておきましょう。

[1] 国際通貨研究所編(2012)『外国為替の知識〔第3版〕』日本経済新聞社
本稿の参考文献としても使用している書籍であり、国際収支の見方から為替市場の仕組みや為替取引の仕組みなど、外国為替全般についての基礎知識を学ぶ事が出来る書籍です。数学的知識は全くいらないので、誰でも読みやすいと思われます。

[2] 川本明人(2004)『基礎からわかる外国為替』中央経済社
名前の通り外国為替の基礎についての教科書です。やや実務を意識した記述となっており、実例や図が豊富で、説明も丁寧です。数式は最小限に抑えられており、分り易いと思います。説明を丁寧にする割にテーマが多岐に渡っているので、実務に活かすにはより上級の書籍が必要ですが、基礎を抑えるだけなら十分でしょう。

[3] 平島真一編(2004)『現代外国為替論』有斐閣
経済学部における初級レベルに該当する書籍です。外国為替の基礎知識から、相場変動やリスクヘッジの理論、国際通貨制度の変遷まで幅広く取り上げられています。『外国為替の知識』は用語や概念説明が中心になっているのに対し、本書はモデルによる説明が入っています。

基礎的なマクロ経済学の知識があれば十分読めますし、無くても高校程度の微分積分の知識があれば問題無く読めると思います。これを理解すれば、為替相場の決定についての理解が深まるでしょう。

photo credit: jDevaun via photopin cc