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こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

今回は、為替相場の分析において有名なソロスチャートの有効性を検討します。ソロスチャートとは簡単に言えば為替相場を2つの国の通貨の流通量から読む手法です。金融緩和の根拠の一つにもなっているわけですが、近年は両者の相関が薄れてきています。 代わりに「修正ソロスチャート」といったものまで登場していますが、修正ソロスチャートでのマネタリーベースは「マネタリーベースから中央銀行の当座預金を差し引いたもの」であり、これは金融緩和の効果を自己否定するものに過ぎません。 ソロスチャートの有効性が無くなってきた背景には、経済成長率が低下し、投資が不活溌で貸出が増えない事があると考えられます。また、相関関係があっても因果関係が無いと考える事も可能です。


金融緩和の肝

黒田日銀総裁の元、活発に金融緩和が行われていますが、その肝となるのは素朴な貨幣数量説です。貨幣数量説の前提には、通貨量と通貨の流通速度の変化が物価水準を決定するというものがありますが、現在の金融緩和には、それを利用して円の量(本稿で言うマネタリーベース)を増やす事で円安やインフレを引き起こし、それが景気を上向かせていくという考え方です。 その貨幣数量説の根拠としてよく挙げられるものの一つがソロスチャートなのですが、それはどういったものでしょうか。また、それは有効なものでしょうか。


ソロスチャートとは

ソロスチャートとは、冒頭で述べた通り「比較対象国家間のマネタリーベース比と為替レートの関係」を見たものです。投資家として有名なジョージ・ソロス氏が考案した事でこの名が付いています。

マネタリーベースとは、「中央銀行が供給する通貨」の事で、ここでの中央銀行は、日本なら日本銀行、米国ならFRB(連邦準備制度)にあたります。ハイパワード・マネーやベースマネーと呼ばれる事もあります。中央銀行によってマネタリーベースの定義が若干異なりますが、日本銀行の定義なら、

マネタリーベース =「市中に出回っているお金である流通現金」 + 「日銀当座預金」

=(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)+「日銀当座預金」

となります。 日本のマネタリーベースは、毎月第2営業日に公表されており、以下で参照できます。

参照: マネタリーベース(日本銀行)

では、実際にソロスチャートを見てみましょう。


当てはまりが悪い時期が増えている

日米の為替レートについてソロスチャートを作るなら、「日米のマネタリーベース比」と「日米の為替レート」を比較すれば良いです。図1は、日米間のソロスチャートを示しています。これを見て、どう思われるでしょうか。マネタリーベース(ベースマネー)が為替レートを決定していると言えるでしょうか。

日米間のソロスチャート

図1:日米間のソロスチャート

出典: マネックス証券(2011)「オセアニア通貨・米ドルの徹底予測」(PDF)

図1を見て、1990年代初頭くらいまでは高く相関していますが、それ以降は相関関係が弱まり、2003年以降は特に弱まっている事が分かります。

こうした状況からソロスチャートは、あまり信じられなくなったわけですが、代わりに登場したものに修正ソロスチャートがあります。


修正ソロスチャートという金融政策の自己否定

修正ソロスチャートは、ドイツ証券シニアエコノミストの安達誠司氏が主張しているもので、修正マネタリーベースと為替レートを比較したものになります。修正マネタリーベースは、マネタリーベースから「日銀当座預金」を除いたものです。要するに、「市中に出回っているお金である流通現金」が修正マネタリーベースです。以下の図2が修正ソロスチャートになります。

修正ソロスチャート

図2:修正ソロスチャート

出典: 日本経済新聞『「神の見えざる手」が示す円高の行方』(2012/4/17)

図2を見ると、確かにソロスチャートより為替レートとの相関関係が高いようです。では、これは金融緩和の根拠として有効なものになるのでしょうか。

残念ながら修正ソロスチャートは、金融緩和の自己否定に繋がるものにしかなりません。というのは、「市中に出回っているお金である流通現金」は、あくまでも市中に流通する現金であり、これは日本銀行がコントロール出来るものではないからです。

日本銀行がマネタリーベースを増やした時に増えるのは、あくまでも日銀当座預金であり、その日銀当座預金を取り除いた修正ソロスチャートが正しくても、金融緩和が実効性を持つ事にはなりません。逆に、ソロスチャートが成立するには、マネタリーベースの増加に伴って金融機関による貸出が増える(マネーストックが増える)必要があるのです。 つまり、ソロスチャートが成立しない事も金融緩和の実効性を否定するものですが、修正ソロスチャートが成立する事も金融緩和の実効性を否定するものになるのです。


何故ソロスチャートが役立たなくなったか

前節で触れましたが、ソロスチャートが成立するには、マネタリーベースの増加に伴いマネーストックが増加しなければなりません。日本が順調に経済成長していた時期は、その傾向があったのですが、低成長が続く日本においては、マネタリーベースが増えたからと言って急に貸出が増えるわけではなく、ソロスチャートの有効性が小さくなっていると考えられるのです。

また、ソロスチャートも修正ソロスチャートもあくまでも相関関係であり、因果関係とは別であるので、その相関が単なる見かけ上のものに過ぎないという可能性もあります。一部ではソロスチャートを重視している言説が見られますが、実用性が乏しいものと言わざるを得ません。

photo credit: Rob Young via photopin cc