2015年以降の相続税改正、そして少子高齢化に伴い、あちこちの会計事務所や金融機関などで相続の節税対策のセミナーや相談会が行われている。インターネットや雑誌などのメディアで目にする相続の話題も、ほぼ「節税対策」だ。

節税はもちろん大切だ。だが、ここでもっと広い視点から考えてみてほしい。節税ありきの相続は、必ず子や孫を幸せにするのだろうか。幸せという視点から考えるなら、「そもそも相続しない」という選択肢も考えるべきではないだろうか。

相続させる側と相続する側では「幸せ」の条件が違う

相続対策,
(写真=PIXTA)

親なら誰でも我が子に幸せになってもらいたいと願うものだ。そして、幸せにはお金や土地などといった財産が欠かせないと思いやすい。逆に言うと、それらがないまま自らが死を迎えたら、子や孫は不幸になってしまうのではないか、という不安を抱くことにもなる。

しかし、現実には、それは相続させる側、つまり「資産を譲り渡す側」の思いこみであることも少なくない。むしろ、相続する側、つまり「資産を引き継ぐ側」としては、相続はありがたいものどころか、むしろ負担に感じることもあるのだ。なぜだろうか。それはそれぞれの世代の価値観の差にある。

これから相続をさせる側、つまり資産を譲り渡す側は、戦後から高度経済成長期を経験してきた世代だ。この世代にとっては「所有」こそ、豊かさと幸せのキーワードだった。それゆえに、三種の神器と言われる大物家電や自動車、さらにはローンを組んで賃貸から持ち家に移り変わることに必死になってきた。つまり、「モノをより多く持つ」ことが、幸せの象徴であり、条件だったのである。

しかし一方、これから相続をする側、つまり資産を引き継ぐ側は、バブル崩壊と「失われた10年」、就職氷河期、そしてインターネットの普及により、モノも情報も所有することに疲れを感じている。

20~30代の自動車の保有率は年々減少、カーシェアリングに代表されるようなシェアリングエコノミーが浸透しつつある。モノの所有は片づけやメンテナンスにコストがかかる。ましてや、不動産を所有すれば固定資産税などの管理費や確定申告の手間などでかえって重荷だ。がむしゃらに働くのではなく、「今、ここ」を楽しみつつ淡々と働きたい現役世代にとって、「所有」は必ずしもいいことではない。「資産」どころか、むしろ「負債」と感じる人も少なくない。

こういったことから、現代において、相続による財産の承継は、子や孫に必ずしも喜ばれるものではなくなってきた。喜ばれるのは、現金や預金くらいだろう。納税資金や高額になりやすい教育費をまかなえるという「負担少なく、すぐに役立つ」というポイントがあるからだ。

相続を考える際、単に節税や対策を考えるだけでなく、「子や孫の意志ある人生を尊重する」という視点を持つ必要がある。

引き継がない相続対策① 被相続人の生前に資産の処分を