シンカー:6月の失業率は2.8%と、5月の3.1%から大幅に低下し、2%台に戻った。6月の有効求人倍率は1.51倍と、5月の1.49倍から更に上昇し、1980年代後半のバブル期のピーク(1.46倍)を超えた状態が続いている。6月の正社員の求人数は前年同月比+8.5%となり、有効求人倍率は1.01倍となり(5月0.99倍)、とうとう1倍を超えた。1980年台後半のバブル期も、失業率が3%から2%に低下する局面で、企業の人材争奪戦が明確になり、賃金上昇が加速していった。しかし、賃金上昇をともなう内需の拡大が、物価を押し上げ、そして賃金上昇も強くする好循環が明確になるのはまだ先であろう。日銀は、2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、現行の緩和政策を辛抱強く維持する決意をもっているとみられる。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

6月の失業率は2.8%と、5月の3.1%から大幅に低下し、2%台に戻った。5月は4月の2.8%からリバウンドしていた。ゴールデンウィークの日並びがよく、一時的に職を離れた労働者がいたとみられる。工場が長期間停止するなどの影響もあったとみられる。政府の働き方改革の推進もあり、企業は賃金の引き上げや待遇の改善に取り組み、既に職を持っている労働者のよりよい条件の職を求める動きも活発になっている。条件の改善が魅力的になり、労働市場に新たに出てきた労働者も増えたとみられる。4-6月期の日銀短観では、企業の雇用不足感が更に強くなり、新年度入り後の企業の採用活動は強さを増していると考えられる。5月の失業率のリバウンドはよりよい職を求める労働者が増加したテクニカルなものであり、労働需給がかなり引き締まっている状態に変化はなく、労働者が順調に職を得て就業者が大きく増加し、6月の失業率は低下した。6月の有効求人倍率は1.51倍と、5月の1.49倍から更に上昇し、1980年代後半のバブル期のピーク(1.46倍)を超えた状態が続いている。6月の正社員の求人数は前年同月比+8.5%となり、有効求人倍率は1.01倍となり(5月0.99倍)、とうとう1倍を超えた。労働需給の引き締まりが賃金上昇を強くし、物価上昇が緩やかに高まっていくという好循環が明確になってくるのかが今後の注目である。1980年台後半のバブル期も、失業率が3%から2%に低下する局面で、企業の人材争奪戦が明確になり、賃金上昇が加速していった。

6月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.4%と5月から変化はなかった。潜在成長率を上回る成長を続けて需給ギャップが縮小し、需要超過に転じ、景気回復が継続し、昨年12月までのマイナスからプラスに転じたが、物価上昇圧力はまだ弱い。原油価格の低迷、企業のコスト増に対する頑強性、消費税率引き上げ後の消費の弱さ、携帯電話関連の値下げの動きが重しとなってきた。これらの下押し圧力は弱くなってきていることが、物価上昇率の持ち直しにつながっている。ただ、もう一つの下押し圧力である帰属家賃を含めウェイトの大きい家賃の動きはまだ鈍い。家賃は、期待インフレ率が大きく上昇した後に動き出すとみられるが、構造的なものでありその動きには時間がかかる。日銀は、日本の期待インフレ率は実際のインフレ率に遅行する適合的な要素が強く、その上昇に時間がかかることをリスクとみている。7月19-20日の日銀金融政策決定会合では、「マクロ的な需給ギャップ はプラスである一方、資源価格や予想物価上昇率などに力強さ はみられず、2%に達するには、これまで想定していたよりは 暫く時間がかかると見込まれる。」との意見が見られた。

2018年まで、実質GDP成長率は4年連続で潜在成長率を上回る可能性が高く、マクロ的な需給バランスは更に改善していく可能性が高い。失業率が2%台へ低下し、企業の強い雇用不足感がサービス業を中心に物価上昇圧力になり始めていることは確かだ。しかし、コア消費者物価指数は2018年半ばまでに前年同月比+1%程度まで持ち直すのが精一杯だろう。賃金上昇をともなう内需の上昇が、物価を押し上げ、そして賃金上昇も強くする好循環が明確になるのは2018年後半からであると考える。日銀は、2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。7月19-20日の日銀金融政策決定会合では、「2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されてい る。もっとも、なお力強さに欠けることから、経済・物価・金 融情勢を踏まえつつ、現在の強力な金融緩和を粘り強く推進し ていくことが重要である。」との意見が見られた。

堅調なファンダメンタルズを背景にたんたんと利上げを進めるFEDとの対比をマーケットが強く意識し始め、日米金利差からの円安の動きが再開することが、物価上昇率の加速に必要だろう。7月の東京都区部のコア消費者物価指数も前年同月比+0.2%(6月同0.0%)と、明確な上昇に転じている。企業の価格競争の激しい東京都区部の物価の動きは全国に遅れている。一方、賃金上昇は全国より強いため、実質賃金の上昇が消費の回復を促進し、それが物価の持ち直しにつながる形がみられるかが今後の注目である。4-6月期の家計調査実質消費支出(除く住居等)は前期比+1.1%(1-3月期同+1.1%)と強く増加している。失業率が3%を下回ると、経済・物価環境には大きな変化が生まれてくる可能性がある。7月19-20日の日銀金融政策決定会合では、「デフレ期の環境に家計及び企業が順応してきた結 果、物価の上昇に時間がかかっていると思うが、社会のノルム (規範)に変化が生じる環境は整いつつある。 企業による賃金上昇圧力の吸収努力は、短期的には物価を下押 す可能性があるが、人手不足感がますます強まる中で、いずれ 賃金上昇圧力がかかり始めると考えられる。」との意見が見られた。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

【編集部のオススメ記事】
「信用経済」という新たな尺度 あなたの信用力はどれくらい?(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
会社で「食事」を手間なく、おいしく出す方法(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)