私が資産運用会社に入社したばかりの頃、講師を務めていた勉強会でベテランの証券マンからこんな話を聞いた。日本の個人投資家が株式だけでなく投資そのものを嫌うようになったのは「日本電信電話公社(現NTT)の株式公開で損をしたこと」だという。

NTT株での失敗体験が個人投資家を遠ざけた

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(写真=PIXTA)

電電公社の政府保有株が売り出されたのは、バブル真っ只中の1987年2月。公開価格は1株119万7000円。「政府が売り出す株で損をするはずがない」と一躍大人気となり個人投資家が殺到した。初値は160万円、4月には株価は318万円の最高値をつけた。しかし、状況は暗転する。

その年の10月、「ブラックマンデー」をきっかけに米国の株価が急落した。これにより、NTT株も下げ始め、バブル崩壊が追い打ちとなって、90年代初頭には株価は初値の3分の1まで低迷した。NTT株の個人株主数はバブル末期に160万人を超え、個人による株式投資の裾野拡大に一役買ったものの、はじめての株式投資で大損をし、「二度と株式投資なんかするものか」と心に誓った人も数多く生み出してしまった。

また、「損した人は気の毒だ」といった論調の記事も新聞に掲載されたという。しかし、株式投資は自己責任が原則である。自己責任の原則を歪めるような証券会社による手数料目当ての強引な営業活動が行われ、リスクに関する説明も不十分だった事実はあるだろう。

しかし、売り手ばかりに責任を負わせるばかりでは、日本の資産運用業界に未来はないだろう。最近の金融庁の動きにより、金融業界に変革の波が訪れているが、今すぐにビジネスモデルを転換することは現実的に難しい。となれば、買い手も強引な営業に引っかからないように投資に対する正しい心構えを身につけることが必要ではないだろうか。

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