近年、経済成長著しいと言われている東南アジア諸国連合(ASEAN)。2017 年7月に国際通貨基金(IMF)が改定発表した最新の日本の経済見通しは、17年1.3%、18年0.6%にとどまる一方、ASEANでは17年5.1%、18年5.2%とそのインパクトは大きい。特に、足元ではフィリピンの勢いが強く投資の主導で 6~7%台の成長維持を見込んでいる。
「東南アジアの不動産開発・投資環境(レジデンシャルマーケット)」についての講演が7月末、都内で行われた。講師は、不動産投資ファンドでの勤務を経て、不動産仲介透明化フォーラム(FCT)を社会起業、東南アジア各国をまわりながら不動産調査をしている、REAL FORWARD PTE LTE.CEOの風戸裕樹氏。「東南アジアは経済成長が見込まれるマーケットのため、期待できる投資環境にある。ただし、エリアによっては政治体制や治安面による不安感や、供給先行感などの懸念材料もある」などと指摘した。
これは一般社団法人不動産協会主催のセミナー「東南アジアにおける不動産市場に関する講演会」の内容の一部で、ここでは同セミナーで講演されたマレーシア、タイ、フィリピンのレジデンシャルマーケットについて紹介する。(取材・編集・構成:中村麻衣子)
リンギット安のため今が投資タイミングと言われる「マレーシア」
東南アジアの不動産投資環境について「シンガポールに、マレーシアとタイが続くイメージ」との認識を持つ風戸氏。人口は約3000万人、ここ5年の経済成長率は5%のマーケットだ。マレーシアの不動産投資エリアとしては、首都の「クアラルンプール」、リゾート地の「ペナン」、シンガポールに近い「ジョホールバル」3つが挙げられるが、マレーシアでの不動産開発の特徴については以下のように話す。
「ホテル、オフィス、レジデンス、そしてモールをいっぺんに作って、場合によっては、ホテルを売る場合もあるが、基本的にはレジデンスの部分を販売し、オフィスの部分を貸すような開発が多い。コンドミニアムは、大きなプールが付いて、シンガポールと同様にいわゆる現地の方が住むというよりは、外国人が借りることを想定したコンドミニアムが開発されている」。マレーシアは鉄道のMRTが発達しているため、MRT沿いに基本的に資金力のある大規模デベロッパーがタウンシップ型の開発がなされているのが特徴だという。
為替をみると、現在1リンギットが大体26円という過去10年での最低水準のためリンギットは非常に弱い状況だという。リンギットが弱い理由は色々とあるが、政治的な部分で、あまりマレーシアは正直信頼されていないところがある、と風戸氏は指摘する。物価に関しては、シンガポールの半分から1/3ぐらいで、コーラが50~60円のイメージのため、「円など外部から投資するのにはいいのではないか」と言われているという。
また、マレーシアには、外国人は基本的にはワンミリオンリンギット以上の物件しか買えないという投資規制がある。「外国人は2600万円以上のコンドミニアムなら買えるという形だが、実はこの規制は数年前に変えられたもので、今までは0.5ミリオン以上であれば、外国人は購入できていた。このような政策方針の変更は頻繁にあることで、政府の方針が読みづらいことが、リンギット安にも影響している」と話す。
近年、特に開発著しい「ジョホールバル」の都心部「イスカンダル」について。「非常に多くの開発がイスカンダルでは行われているが、建物竣工後において空室も一定以上あるようにも見受けられる。供給先行感があり、投資額、購入金額の下落データも見受けられる、そのため今後は供給調整とリーシング策の強化、政府のインフラ整備が追いついてくることが地区活性化の条件」と懸念材料もあるエリアだ。
「ただ、イスカンダルには前述した外国人購入価格(1ミリオンリンギット規制)が緩和されていること、さらにリンギット安なので、長い目で為替のところで考えれば、今が投資タイミングとみるのが一般的」という見方を示している。