要旨

  1. 17年4-6月期の住宅投資は、前期比年率▲6.8%と3期ぶりにマイナスに転じた。住宅着工件数や先行指標となる許可件数は、金融危機前(07年)の水準に回復しているものの、足元で回復のモメンタムは低下。住宅建設における熟練労働者の不足感が深刻化しており、住宅供給の制約になっている可能性。
  2. また、新築、中古住宅販売とも、金融危機前の水準に回復したものの、こちらも足元のモメンタムは低下。とくに、中古住宅では住宅在庫の不足が深刻化しており、新築販売に比べて住宅価格の上昇が顕著となるなど、初回購入者などの住宅取得に影響している可能性。
  3. 一方、雇用不安の後退や、低金利の持続など需要面で住宅市場を取り巻く環境は依然として良好であり、住宅購入意欲は強い。現状、住宅価格上昇による住宅需要への影響は限定的。今後は、ミレニアム世代の住宅取得増加も期待できる。
  4. さらに、住宅ローンの貸出基準の緩和は続いており、住宅ローンが住宅取得の制約となる可能性は低い。
  5. 雇用不安の後退や、低金利の持続などを背景に、当面堅調な住宅需要が見込まれる中で住宅供給の動向が住宅市場回復の鍵を握ろう。

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はじめに

17年4-6月期の実質GDP(速報値)における住宅投資は、前期比年率▲6.8%と3期ぶりにマイナスに転じた。前の2期が高い伸びとなった反動に加え、住宅着工件数や先行指標である住宅着工許可件数ともに回復のモメンタムが低下していたことから、マイナスに転じたこと自体は想定通りと言える。

米住宅市場は、金融危機後に大幅な落ち込みを示したものの、その後は息の長い成長が続いている。労働市場の回復や住宅ローン金利の低下など住宅市場を取り巻く環境が良好で、住宅需要を支えてきた面が大きい。

一方、住宅市場の回復に伴って、足元では建設現場での人手不足感が非常に強まっており、住宅供給の制約となるとの懸念がでてきた。また、米国内で重要な位置を占める中古住宅販売では手頃な価格帯の住宅在庫の減少が顕著となる中で、新築住宅に比べて中古住宅の価格上昇が顕著となっている。このため、住宅の初回購入層や低所得者の住宅取得に影響する可能性がある。

本稿では、足元の住宅市場の動向について説明しているほか、住宅供給が住宅市場の回復に与える影響についても整理した。結論から言えば、当面住宅需要は堅調が見込まれるため、足元の住宅投資の落ち込みは一時的とみられるものの、今後の回復ペースは住宅供給面の影響を受けるというものだ。

住宅市場の動向

(1)住宅着工・許可件数:金融危機前となる07年の水準に回復も、モメンタムは低下

17年4-6月期の実質GDPにおける住宅投資は、前期比年率▲6.8%(前期:+11.1%)と3期ぶりにマイナスに転じた(図表1)。その前2期が高い伸びとなっていたほか、住宅着工件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)が、6月に年率で▲21.4%と大幅に落込んでいたことから、マイナスに転じることは予想されていた。

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住宅着工の先行指標である許可件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、5月に▲13.0%の落ち込みとなったあと、マイナス幅は縮小しているものの、直近7月でも同▲4.4%と減少が続いており、住宅投資は7-9月期に入っても回復がもたついている。

一方、住宅着工、許可件数(3ヵ月移動平均)の水準をみると、住宅着工件数が116万件台、許可件数が122万件台と、05年から06年にかけてつけたピーク(214万件、223万件)からは大幅に低い水準に留まっているものの、金融危機前となる07年12月以来の水準に回復していることが分かる(図表2、図表3)。

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もっとも、ここに来て住宅着工件数の回復を妨げる要因として、住宅建設関連の労働力不足が指摘されている。住宅建設関連の雇用者数は、09年の200万人割れから、足元では270万人程度まで回復している(図表4)。もっとも、こちらも05年につけた340万人台のピークからは70万人程度低い水準である。

米労働統計局(BLS)によれば、6月の住宅以外も含めた建設業雇用者690万人に対して、求人数は22.5万人となっており、建設業界で求人意欲は強い。

実際、全米住宅建設業協会(NAHB)が7月に発表した、建設業者を対象とした労働力不足に関する特別調査では、熟練労働者が不足しているとの回答が12年以降に増加しており、足元では6割超と、住宅着工がピークをつけた05年の水準を超えている(図表5)。住宅建設業界には、労働力不足が住宅建設の制約条件になっているとの危機感が非常に強くなっているようだ。

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(2)住宅販売・価格:中古住宅在庫が不足、住宅価格の上昇要因に

新築住宅販売件数(3ヵ月移動平均)は、08年以来となる年率60万件台まで回復している(図表6)。しかしながら、伸び(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、7月に年率▲5.1%(前月:▲3.0%)と、6ヵ月ぶりにマイナスに転じた6月から2ヵ月連続でマイナスとなっており、回復のモメンタムは低下している。

次に、新築住宅販売在庫(3ヵ月移動平均)は年率27.3万件と、16年9月以降は増加が続いている。また、販売額と比べた在庫月数も5.4ヵ月と、16年3月以来の水準まで増加した。もっとも、幾分増加したとは言え、在庫月数は過去との比較では依然として低い水準となっている。

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一方、足元のモメンタムの低下にも拘らず、建設業者の新築販売に対するセンチメントは強い。住宅市場指数は直近8月が68と、17年3月(71)からは小幅に低下しているものの、昨年より高い水準を維持している(図表7)。とくに、今後6ヵ月の新築住宅販売見込みは、78と05年以来の高さとなっており、新築住宅販売に対する強気の見方が維持されていることが分かる。

次に、新築住宅販売件数のおよそ9倍の規模である中古住宅販売件数(3ヵ月移動平均)をみると、7月は07年前半以来の水準となる550万件超となったものの、17年5月(560万件台)をピークに低下している(図表8)。この結果、7月の伸び(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は▲3.8%となった。

一方、中古住宅在庫は、中古住宅販売が拡大する中で減少傾向が続いている。この結果、在庫月数は7月に4.2ヵ月と、金融危機前後の水準を大幅に下回っているほか、7月としては82年の統計開始以来最低となっており、住宅在庫の不足が顕著である。

また、中古住宅在庫について、販売価格によって3分類した階層別にみると、価格上位の件数が3分位中最大となっているものの、13年以降は安定している一方、中位および下位の在庫減少が大きいことが分かる(図表9)。住宅の初回購入層は中低価格の物件を購入することが多いとみられることから、これらの価格帯の在庫物件の減少は初回購入者の住宅取得に影響する可能性がある。

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次に、住宅価格をみると、米国連邦住宅金融局(FHFA)の住宅価格指数と、ケース・シラー住宅価格指数ともに足元で最高水準となったものの、価格上昇率(前年比)では14年以降概ね4~6%台の伸びとなっている(図表10)。これは2%を下回る物価水準を大幅に上回っているが、足元で住宅価格の顕著な加速は、みられていないと言える。

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一方、中古住宅と新築住宅の販売価格(中央値)を比較すると、新築、中古住宅ともに最高値を更新する一方、新築住宅の中古住宅価格に対する比率は15年半ば以降に低下基調が鮮明となっている(図表11)。これは、中古住宅価格の上昇が新築住宅に比べて顕著となっていることを示しているが、中古住宅在庫の不足を反映したものだろう。

(3)住宅需要:雇用不安の後退や低金利などを背景に住宅購入意欲は強い

需要面で住宅市場を取り巻く環境は、依然として住宅市場に追い風となっている。住宅ローン金利(30年固定)は、3%台後半から昨年11月の大統領選挙以降に急上昇し、17年初には一時4%半ばをつけたものの、その後は緩やかに低下し、足元では4%台前半で推移している(図表12)。これは16年初に近く、過去に比べて充分低い水準と言える。実際、米抵当銀行協会(MBA)が発表する住宅ローン購入指数は底堅く推移しており、昨年から今年にみられた金利急上昇の影響は限定的である。

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また、中古住宅を取得する際の、住宅ローン返済額と所得を比べた住宅取得能力指数をみると、主に中古住宅価格の上昇によって、13年をピークに足元まで低下基調が持続しており、住宅取得にはネガティブな状況となっている(図表13)。しかしながら、同指数は145程度の水準と、未だに所得が住宅ローン返済額を50%近く上回っているほか、金融危機前も上回っていることから、現状では住宅価格の上昇が住宅取得に与える影響は限定的と判断できる。

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実際、連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)が発表している住宅購入センチメント指数は、7月が86.8と10年の統計開始以来最高となった前月(88.3)からは小幅に低下したものの、高い水準を維持しており、購入意欲の高さが伺える(図表14)。

また、同指数の要因別寄与度をみると、失業懸念後退が大きく購入意欲を高めているほか、足元の住宅価格上昇を背景に、将来の価格上昇懸念や、今が売り時との見方も購入意欲を支えていることが分かる。一方、将来の金利低下観測が後退することにより、購入意欲を低下させているが、住宅ローン金利が落ち着いていることもあって、全体を押下げるほどの影響はでていない。

最後に、ミレニアム世代(18-34歳)の動向について触れたい。同世代では3割超が両親と同居する(1)など、住宅取得に対する意欲が低いと思われてきた。しかしながら、住宅関連の情報提供サイトを運営するZILLOW社の調査では、良い人生を過ごすためや、最良の長期投資として住宅を取得したいと考えている割合が、実は65歳以上に次いで高いことが示されている(図表15)。また、同居割合は高いものの、所得環境の改善や結婚のために両親から独立する動きが加速しているとの分析(2)もあり、住宅初回購入年齢(平均20代後半~30代前半)に差し掛かっているミレニアム世代の独立が加速することで住宅需要の拡大が期待できる。

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(1)センサス局“The Changing Economic and Demographics of Young Adulthood: 1975-2016” (17年4月) https://www.census.gov/content/dam/Census/library/publications/2017/demo/p20-579.pdf
(
2)ファニーメイ” Starting to Launch: Millennial Are Leaving Mom and Dad’s Basement” (17年4月)
http://www.fanniemae.com/resources/file/research/datanotes/pdf/housing-insights-042717.pdf
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(4)住宅ローン:クレジットは安定、貸出基準の緩和が持続

住宅ローン債権の質(クレジット)は安定している。住宅ローンの延滞率は低下基調が持続しており、17年4-6月期の90日以上延滞率が1.23%、全体の延滞率でも4.24%と、90日延滞率は07年4-6月期、全体では00年4-6月期以来の水準に改善している(図表16)。

また、FRBによる融資担当者調査では、住宅ローンの貸出基準が、回答数が少ないために公表されなかったサブプライムローンを除いて、すべてのカテゴリーで融資基準が緩和されていることが示されている(図表17)。このため、住宅ローンクレジットや貸出基準からは、住宅ローンが住宅市場回復の制約要因になる可能性は低い。

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まとめ

これまでみたように、労働市場の回復や、低い住宅ローン金利などを追い風に住宅需要は非常に強い。住宅価格の上昇は続いているものの、現状では住宅需要を減退させるほどの影響はないと判断できる。

一方、住宅関連の熟練労働者の不足が深刻化しているほか、中古住宅在庫の不足やそれに伴う住宅価格上昇の影響も一部でみられており、住宅供給面の制約が住宅市場回復に水を指す可能性がでてきた。

17年4-6月期の住宅投資は3期ぶりにマイナスに転じたものの、当面は労働市場の回復持続、住宅ローンの低金利継続から、強い住宅需要を背景に、住宅投資の落ち込みは一時的で住宅市場の回復基調は持続しよう。もっとも、熟練労働者の確保など供給面の制約要因について早期の解消は難しいことから、回復ペースは緩やかに留まろう。

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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