約1620億ドルの資産を運用する世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツを率いる「ヘッジファンドの帝王」ことレイ・ダリオ氏(68)の相場見通しが弱気に傾き、市場関係者の注目を浴びている。
2008年の米金融危機や、その後の欧州の債務問題など市場の危機を予見したことで投資家から信頼されるダリオ氏は、同年にヘッジファンド全体の投資収益が前年比20%減と過去最悪の成績に落ち込むなか、12%の収益増を叩き出した伝説の人物だ。
そんな一目も二目も置かれるダリオ氏が「(リスクオフ時の安全資産である)金や日本円を買え」と勧めるほどだから、投資家たちは無視できない。
彼の変心の理由は何なのか。また、市場関係者はダリオ氏の見方に同意しているのか。ダリオ氏が率いるブリッジウォーター・アソシエーツにおいて水面下で進行しつつある変化も併せて考えながら、弱気の意味を読み解く。
トランプ相場からトランプリスクへ
今年1月にトランプ政権が発足した当初、ダリオ氏は楽観的な「トランプ相場観」を公言していた。トランプ氏が打ち出すビジネス寄りの政策が米経済の成長を促すと考えたからである。
昨年11月の米大統領選挙でトランプ氏が勝利した直後、ダリオ氏は顧客向け分析にこう書いた。
「次期大統領は、レーガン元大統領による右寄り路線への大シフトのような(経済成長を促進する財界寄りの)非常に大規模なイデオロギー的変化を引き起こすと考える。人々が懸念するトランプ氏の『クレイジーさ』による波乱の要因は思ったよりも抑制されよう」。
つまり、トランプ氏が共和党主流派のイデオロギーに「巻かれて」ゆき、規制撤廃や減税などの常識的な保守派経済政策で、経済成長が飛躍的に加速すると読んだわけだ。
トランプ氏が大統領に就任して半年以上経つ今、7~9月期の成長率は3%台に乗せるといわれるほど、米経済は堅調だ。失業率も歴史的な低水準にある。だが、ダリオ氏はトランプ大統領自身が市場のリスクになったとして、8月10日付のブログでこう書いた。
「市場がうまく織り込んでいないリスクが増大している。経済的というより、政治的なものだ。具体的には①北朝鮮の核ミサイルをめぐるトランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長のチキンレースと、②米議会が9月末に債務上限引き上げに失敗し、米政府が債務不履行に陥り、一部の連邦政府機関が閉鎖され、政治への信頼が失墜することだ」。
高まる政治的リスクへの対処法としてダリオ氏は、「流動性を確保し、リスクを分散せよ。もし北朝鮮情勢と米債務上限問題が実際に悪化したなら、金を買え。ポートフォリオの5~10%を金に換えておけばよいだろう。その他、米ドル・日本円・米国債などの安全資産も保有を増やせ」と助言をした。