住宅ローンの返済は長期にわたるもの。当初のプランが崩れわずか数年で問題が起こったり、定年退職後に未返済ローンが1000万円以上残ってしまう人もいます。なかには、住宅ローンの返済が始まってから何度も家計がまわらなくなり、借金を重ね多重債務者になってしまうケースもあります。住宅購入後にこうしたトラブルに陥るのは所得が少ない人たちだけの話ではなく、誰にでも起こりうるものです。借りるときの少しの選択ミスがその後の運命を大きく左右するため、返済プランを選ぶときはなにより慎重になるべきでしょう。

(本記事は、平井美穂氏の著書『 住宅ローン 借り方・返し方 得なのはどっち? 』河出書房新社(2017年1月15日)の中から一部を抜粋・編集しています)

返済プランは「元利均等返済」がおすすめ

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(写真=PIXTA)

住宅ローンの返済方法には、元利均等返済と元金均等返済があります。元利均等返済は、はじめから終わりまで、毎月の返済額が一定です。返済額のうち、借入当初は利息が占める割合が多くなりますが、年数がたつにつれて元金の割合が多くなっていきます。

一方、元金均等返済は、毎月の返済額のうち元金が占める割合が、最初から最後まで一定です。返済額は借入当初がもっとも多く、年数を経るにしたがい低減していきます。総返済額は、元金均等返済のほうが少なくなるのですが、現在の低金利では、うまみが減っています。

住宅ローンを借りるときに忘れてはならないもう一つのポイントは「定年退職時の残高」です。借入時の年齢が40歳の人が、35年返済で借りた場合、65歳時点の総返済額と残高はどうなるでしょう。元利均等返済については、残高が1319万円、25年間に払った累計は3500万円です。65歳時に退職金で一括返済するとしたら、返済総額は4819万円になります。

対する元金均等返済は、残高が1143万円、25年間の返済額累計は3630万円です。65歳時に額は4773万円となり、トータルでは元金均等返済のほうが46万円少なくなる程度です。65歳で一括返済するとしても、両者にはほとん差がない結果になりました。毎月の返済負担を増やしてまで、元金均等返済を選択する理由はないといってもいいでしょう。実際、いまの低金利下では元金均等返済を選ぶ人はほとんどいません。

返済総額をすこしでも減らしたいというのであれば、元利均等返済を選び、浮いたお金で早めに繰り上げ返済をする方法がおすすめです。

以前、金利が3~4%と高い頃、元金均等返済と元利均等返済とでは、返済総額に300万円以上の差がつくことがありました。当時でも、元金均等を選ぶ人はごく稀まれで、いまではニーズがあまりないことから、元金均等を取扱わない金融機関もあります。むろん、家計に余裕がある人ならば、元金均等返済を選んで、さらに繰り上げ返済する手もあり、そのほうが返済総額は安くすみます。

「ボーナス併用」で家計にゆとりをもたらす

ボーナス返済に充てることができる金額の上限は金融機関によって異なりますが、フラット35では借入額の40%まで、都市銀行では借入額の50%までとなっています。4000万円(金利1.2%、返済期間35年、元利均等返済)を借りたケースで、返済額がどれくらい違うか確認してみましょう。

ボーナス返済なしにすると、月々の返済額は11万6680円になります。一方、ボーナス併用返済にし、借入額のうち1500万円をボーナス返済に充当した場合、月々の返済額は7万2925円、ボーナス時加算額は26万3059円です。ボーナス時加算とは、1回のボーナスで支払う増額分なので、ボーナス月の返済額は33万5984円となります。このボーナス時の支払いが年に2回あります。

ボーナス返済ありとなしでは、月々の返済額には4万3755円の差が出ます。購入する物件がマンションで管理費・修繕積立金が毎月3万円かかるとすると、月々の返済額を7万2925円に抑えておいたほうが、ひと月の家計収支にゆとりがもてそうです。とはいえ、注意すべき点もあります。それはボーナス返済に依存しすぎないことです。

ボーナスの支給額は、会社によっても人によっても大きく異なります。最近は大手企業であっても従来の賞与体系から、企業の業績や本人の成果によって賞与が大きく変動するタイプへと移行するケースが増えています。

これまでは安定して賞与が出ていた企業でも、住宅ローンを返済する長い間に変更される可能性も考えられます。どんなに大企業であっても、将来、何が起こるかはわからないものです。

万一、ボーナスが支給されない不測の事態に備えて、ボーナス返済に充てるだけの預貯金は確保しておきましょう。金額は人によって異なりますが、1回分はせいぜい10万~50万円くらいです。

返済方法は途中で「ボーナス併用返済」から「月々返済のみ」に変更することができます。いざというときには月々返済のみに変えてでも、なんとか返せる範囲にとどめておくのが理想です。

金利引き下げは交渉できる!

借り換えブームが再び起きています。金融機関はローンの申込み受付でごった返していて、猫の手も借りたいくらい大忙しのようです。たしかに、20年前と比べると変動金利・固定金利いずれの場合も金利が2~3%近く下がっているいま、借り換えを検討しない手はありません。

そんなときは、「金利引き下げ交渉」という手段も考えてみてください。現在、借入している金融機関に金利を引き下げてもらえないか交渉するのです。

借り換えをするために「残高証明書」の発行を依頼したところ、「年末でもないのに必要になるなんて、さては借り換えを検討している?」と察知され、銀行員のほうから金利を引き下げましょうか、ともちかけられたという話もよく聞きます。銀行側も他行に大事なお客様を取られないよう引き止めるのに必死ですので、よほど意地が悪いか反応が鈍い担当者に当たらなければ、交渉はスムーズにいくでしょう。

金利引き下げ交渉は手数料がほとんどかかりません。変動金利から固定金利に変える場合は、金利変更手数料として1万円くらい取られるかもしれませんが、引き下げてもらうのが変動金利であれば、収入印紙代200円程度ですむこともあります。

ただし、問題がないわけではありません。最大の難点は、借り換えと比べると金利がどうしても高くなる点でしょう。

たとえば、2017年1月に新たに都市銀行で借入申込みをすると、変動金利の適用金利は0.625%(最優遇金利)となります。一方、すでに借りている人が金利引き下げ交渉をしても、ここまでは下がりません。その時々の金利情勢に即して融資金利を決定している新規顧客と、過去に一度金利を決定している既存顧客とでは、待遇を同じにするわけにはいかないようです。

金利をどこまで下げてもらえるかは、金融機関によっても、その人の借入条件によっても異なります。したがって一概にはいえませんが、変動金利であれば、最大「新規顧客向けの最優遇金利+0.15~0.2%」くらいまでは下げてもらえる可能性があります。新規顧客向けが0.625%であれば、0.775~0.825%くらいまでは交渉の余地があるかもしれません。

借りている変動金利が2.475%だという人は、いますぐ金利引き下げ交渉をしてみましょう。

引き下げ交渉に失敗したことのある人は、潔く別の金融機関に借り換えしてしまう方法もおすすめですが、もしもその金融機関で取引を続けたいのなら、一度で諦めずに時間をおいて再チャレンジしてみましょう。

住宅ローンの金利や審査基準はめまぐるしく変化しています。新規顧客向けの金利が下がってからしばらくたったタイミングで交渉すれば、以前は断られた金利引き下げ交渉でも通る可能性があります。

ただし、交渉ごとなので、こちら側が不利な立場であるとうまくいきません。過去の返済に遅延がないかどうかは最初に確認しておきましょう。

一方、借り換えの場合は手間と時間がかかります。膨大な書類の準備に手間取っている間に金利が上がってしまうこともあるので注意が必要です。もっとも、手間ひまかけても、借り換え後は返済の負担が減るケースは少なくないはずです。「金利引き下げ交渉」がいいか、「借り換え」がいいかは、それぞれの場合に適用される金利、かかるコストや手間と時間、また、あと何年住むかによっても変わってきます。あるいは、その人の価値観も関わってくるでしょう。「借り換えしたほうが支払額が削減されるとしても、その差が40万円程度なら手間のかからない金利引き下げ交渉ですませる」という判断をする人もいます。いずれにしても、住宅ローンの見直しをする際にはシミュレーションが大事です。

平井美穂(ひらい・みほ)
神奈川県生まれ。平井FP事務所代表。宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、証券外務員1種。大学卒業後、新築マンションの販売会社で営業を経験。なかでも特殊ケースの顧客の住宅ローンプランニングが得意。その後、銀行およびモーゲージバンクへ転職し、融資業務・金融商品販売に従事する。出産を機に独立系ファイナンシャルプランナーとなり、公正中立な立場で「相談者がもっとも得する住宅ローン」の借り方をコーチしている。5000件超の相談実績を誇る、実践派の住宅ローンプランナー。