・ECBは9/7の理事会で、金融政策の現状維持を決定、中銀預金金利をマイナス0.4%に、債券購入の月額を600億ユーロに据え置いた。
・同時に、10月に緩和縮小を開始することを示唆しつつ、ユーロ高をけん制。株価は、銀行・保険株など一部を除き小幅上昇の一方、けん制されたはずのユーロ高は更に進んだ。
・懸念材料は、力強さを欠くインフレ率。賃金上昇率も低く、一部の国の信用力改善も足踏み。10月国債買入縮小決定は規定路線としても利上げは遠く、ユーロ高にも限界がみえてくるだろう。
ECBの金融政策維持決定
7日の理事会では、中銀預金金利をマイナス0.4%に、債券購入の月額を600億ユーロに据え置き、政策の維持が決定された。国債等購入枠の縮小も見送られた。これを受け、金利は総じて下落し(図表1)、ドイツ2年国債利回りはマイナス0.76%と4月以来の低水準となった。株式市場は、銀行、保険株が下落、それ以外のセクターは、わずかに上昇した(図表2)。
一方、為替は、10月の債券購入枠縮小に触れたため、再びユーロ高が進んだ(図表3)。ドラギECB総裁は、会見の中で「ユーロのボラティリティは不透明感の源となっており、注視する必要がある」と発言し、ユーロ高をけん制したが、市場は、10月のテーパリング(資産買い入れの段階的縮小)発表に注目した模様である。
欧州に残る懸念材料
ユーロ圏の問題は、他の先進国同様、インフレ率にも賃金上昇率にも勢いが無いことである(図表4、5)。特に足元で、上昇が止まっているように見える。
加えて、他の先進国にはない悩みとして、欧州の金融システムの脆弱性がある。一時期からは相当改善しているとはいえ、依然として磐石とはいえない(図表6)。ドイツの議会選挙も9月24日に控え、来年3月までにはイタリアの総選挙も予定されている。選挙を無事乗り切ったフランスでは、スキャンダルに揺れるマクロン大統領の支持率が急落(就任当初62%→8月末40%)している。経済の舵取り次第で政治的な動揺が再燃する可能性もゼロではない。
いずれも可能性は極めて低い"テールリスク"ではあるが、ユーロも強すぎるくらい強い中では、当局として緩和を急ぐ理由は少ない。このため、現在のマイナス金利からの脱出は遠く、10月の国債買入縮小決定を境にユーロ高にも限界がみえてくる可能性が高いだろう。
大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券
チーフ・アナリスト
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