財務省は9月11日、保有する日本郵政 <6178> 株の公募売り出しを実施すると発表した。15年11月の新規上場以来2回目となる売出しで、売出額は最大1.3兆円程度の規模となりそうだ。

発表によれば、引受人の買取引受けによる売出し分 9億1393万7600株、追加売出し分 7616万1500株、合計 9億9009万9100株の売出しを実施する。発行済株式総数の22%相当する。売却価格は9月25日から27日のいずれかに正式決定する。受渡日は価格決定日の4営業日後としており、早ければ月内にも完了する。

同日、日本郵政は1億株1000億円を上限に自社株の取得を発表しており、株式市場の需給悪化を緩和する狙いだ。

市場から吸収する額は今年最大となる。大型IPO、特に政府保有株の売却は市場に大きなインパクトを与えることが多い。投資家として注意しておきたいことを整理しておこう。

日本郵政の2次売出しは当初の7月予定が延期

財務省は15年のIPO時に日本郵政の保有株の約2割を売却し、1兆4000億円の売却収入を得た。 郵政民営化法 により残りの保有株も出来るだけ早い時期に売却し、政府保有比率を3分の1にまで下げることが定められている。また、 復権財源確保法 で22年までの売却収入を東日本大震災の復興財源に充てることが決まっている。15年末の政府保有の日本郵政株の残高は5兆4403億円。政府の保有義務の3分の1を除外した売却可能額は3兆1873億円。

したがって、今年の日本郵政の追加売出し自体は既定路線。財務省は3月29日に、野村、大和、ゴールドマン・サックスを グローバル・コーディネーター とする主幹事証券計6社をすでに発表済みだ。当初、売出しは7月を計画していたが、日本郵政の株価低迷で延期を余儀なくされたようだ。

日本郵政の15年の初回売出しの公募価格は1400円、11月4日の初値は公募価格を17%上回る1631円だった。現在の株価は低迷している。同社は、17年4月に17年3月期の業績の下方修正を行った。子会社の日本郵便を通じて15年に買収した豪州の国際物流のトールHDの経営不振で、 のれん代 の減損4000億円を計上し最終利益は赤字に落ち込むことになった。5月には野村不動産HD<3231>を買収するとの報道で資金負担増を懸念して売られた。株価は、4月に1278円と年初来安値を更新後、6月中旬に野村不動産の買収を断念したことで株価が戻し始めるまで、初回売出し価格の1400円を割り込む展開が続いていた。

9月初の日本郵政株の売出し報道と、北朝鮮による地政学リスクの高まりで、9月5日には年初来安値を更新する1272円をつけている。

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大型売り出しは株式相場の需給を崩す

一番に気をつけなくてはならないのが、株式市場の需給悪化懸念だ。日本郵政の2次売出しは、市場から資金を1.3兆円程度吸収するため、株式需給の攪乱要因となる。売出しに応募する投資家はトータル1.3兆円の資金を準備する必要があり、過去の民営化関連や大型案件では資金拠出に他の株が売られることがあった。

既存株主は需給悪化を警戒せよ

既に保有している株主にとっては日本郵政の需給悪化が最大の懸念材料。現在の日本郵政の発行済み株数45億株のうち、80.4%を財務大臣が保有している。売出し株数は当初、 浮動株 として市場に出回ることになり、需給悪化要因となる。

過去の政府株の売出しの需給悪化例では、NTT <9432> が代表的だ。87年2月の初の売出し時の公募価格は119万7000円。その後の4月に高値318万円を付けた。87年11月に行われた2次売出しの公募価格は255万円。その後、NTTは何度も売出ししているが、NTTの株価が2次売出し価格を上回ったことはない。売出しのたびに浮動株比率が上がり、需給が悪化した。今回の売出しは苦戦する可能性も高そうだ。

日本郵政のファンダメンタルズに注意を

これを機に投資を検討する投資家が注意したいのは日本郵政の成長ストーリーだ。一時的に需給が悪くなったとしても会社が成長するのなら、株価には先高感が生まれる。

日本郵政には成長ストーリーにも足かせが多い。日本郵政の主要連結子会社は、郵便事業を手掛け100%保有する未上場の日本郵便と、上場金融子会社2社であるゆうちょ銀 <7182> 、かんぽ生命 <7181> と豪州のトールHDだ。金融子会社2社に対する郵政の持ち株比率はゆうちょ銀74%、かんぽ生命89%だ。

今後は両社とも50%をめどに株式売却を進めていく。したがって将来的には、現在赤字の日本郵便と減損を計上したトールの連結決算でのウェートが上がっていくので、将来の成長ストーリーが描きにくい。多角化の柱として野村不動産の買収も考えていたが断念している。

もっとも、現在のPER13倍台、PBR0.4倍、配当利回り約3.8%に割高感は無いとも言えるだろう。配当性向50%以上を目標にしており、増配も期待出来る。物流の成長やM&Aによるアジアでの成長などエクイティ・ストーリーが見えてくれば株価は人気を集め始めるかもしれない。

日経平均に採用で買い需要発生

悪い話ばかりではない。9月5日に日経平均の定期見直しで日本郵政が新規に採用されることになった。セクターバランスの調整によるものだと発表されており、明電舎 <6508> 、北越紀州製紙 <3865> を除外し、リクルート HD <6098> 、日本郵政が新規採用される。算入日は10月2日から。銘柄入れ替えに伴う指数の調整は10月2日の前営業日9月29日の引け値基準で行われる。

日経平均連動型の投信やETFなどのパッシブ系ファンドは、225全銘柄を保有しており、銘柄入れ替えに伴う売買も9月29日の引け値で行う必要がある。日経平均銘柄はパッシブファンドによって1銘柄あたり約2500万株程度保有されているとの見方が強い。その株数が日本郵政でも買われるとしたら、1日あたりの平均出来高の10日分を越える買いインパクトだ。同日にかけて日本郵政の買い需要が発生する可能性が高い。

日経平均の225銘柄には裁定取引による買い需要も見込まれる。東証株価指数、MSCIなど機関投資家がベンチマークとしている指数にも日本郵政は採用されている。IPO時にも東証株価指数やMSCIへの採用で値を上げた事があった。

主要指数は 浮動株 を調整している。政府保有株は浮動株としてカウントされていない。追加売出し分の浮動株が増えれば、将来的にパッシブファンドによる追加の買い需要が出る可能性もある。こうしたファンダメンタルズ以外の指数の採用による需給要因が日本郵政にあることには留意したい。(ZUU online 編集部)