中国の自殺率は、世界の平均水準を下回っている。しかし老人の自殺率は高く、農村でより深刻な状況にあるなど、問題点も明らかだ。9月の世界自殺予防デーに合わせ、経済ニュースサイト財新が伝えた。

鴻海の工場は特殊なケースか

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(写真=PIXTA)

中国人は自殺などまったく無縁のイメージである。生命力にあふれ、何があっても一向にめげることのないタフな精神は、しぶといと言うしかない。

しかし中国のビジネス界では、よく知られたケースがあった。それは鴻海/富士康(フォックスコン)の中国工場で労働者の“非正常死亡”が相次いだことである。

2007年から2010年の間に13例、とくに2010年は10例も集中した。当時の冨士康は“四流人材、三流管理、二流設備、一流客戸”と揶揄(やゆ)されていた。富士康の超高度成長は、生産現場と労働者に、深刻な矛盾を突きつけた。冨士康労働者の跳楼(飛降り)は、矛盾からの逃亡だったのかも知れない。とにかくこの件は、現代IT社会の裏の顔を象徴する事例ともなった。

ただしそれ以外では、ほとんど耳目にふれるような自殺事件はない。悲惨な事故死のニュースが、やたら目立つせいもあるかもしれない。

WTOの自殺率データ

183の国と地域を対象とした、WHOの2015年を年齢標準とする自殺率データがある。人口10万人当たりの死亡数である。高い国は、北朝鮮39.5人、韓国36.6人、日本23.1人、ロシア22.4人、インド20.9人、フランス15.8人、米国13.7人、ドイツ13.0人、ォーストラリア11.6人、カナダ11.4人などに対し、中国は8.7である。中国より低い主要国は、英国6.9人、ブラジル6.0人、メキシコ4.1人、南アフリカ2.7人などがある。しかし相対的に見れば、低い方である。

ところがこの数字を70歳以上に限定すると様相は一変する。日本は25.5人と全体の数字とほとんど変わらない。しかし中国は51.5人と全体の6倍にも跳ね上がるのだ。ちなみに1位は北朝鮮156.6人、2位韓国116.2人、3位中国、4位ロシア32.1の順で、儒教国がトップ3を独占している。

希望のない農村の高齢者

中国の数字をさらに年齢別に分け、都市と農村に分解してみよう。

年齢    都市/農村
70~74歳  15.32人/29.58人
75~79歳  18.16人/39.85人
80~84歳  26.81人/52.48人
85歳以上  41.09人/65.60人

農村では都市部の2倍もの高齢者が自殺していた。これは高齢者を大切に扱うという、中国人のイメージを大きく損なうデータだ。見せかけだけの敬老だったのだろうか。

日本での個人資産は高齢層に集中しているが、中国ではそうではない。とくに農村には何の蓄えもないのだろう。子女は都会で暮らし、介護する人もいない。そこには希望もないのだ。かつての冨士康の工場と同じように、農村の高齢者は、現代中国の矛盾を、集中的に体現した場所の一つなのだろう。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)