「北朝鮮を完全に壊滅するほか、選択肢はなくなる」「北朝鮮は、世界が目にしたことのないような炎と憤怒に直面する」。

「我々もそれに相応した史上最高の超強力な対応措置を断行する」「太平洋上で、過去最大の水爆実験をする」。

核兵器の使用による恐ろしい終末を思わせる言葉の応酬のエスカレーション。米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長などが射ち合う「言葉の大陸間弾道ミサイル(ICBM)」のエスカレーションによって、まるで今にも破滅が起こりそうな気配を、東アジアだけでなく世界中の多くの人たちが感じている。

だが、人々の強い懸念にもかかわらず、市場は極めて冷静、悪く言えば無関心だ。北朝鮮が新型ミサイルの実験に成功しようが、水爆級の核実験で成果を出そうが、「破滅」「水爆」という言葉の応酬が交わされようが、株価はわずかしか下げず、すぐに値を戻す。それどころか、米株価は順調に最高値を更新し続けている。

トランプ大統領が北朝鮮に対する金融制裁を発表し、北朝鮮の李英浩外相が太平洋上での水爆実験の可能性に言及した次の取引日である9月22日、米ダウ平均は地政学的不安から25ポイント下げて始まった。だが下げ幅は徐々に縮まり、終値は前日比9.64ドル安、0.04%の下げにとどまった。

北朝鮮をめぐる緊張に対する市場の反応はこのパターンが繰り返されており、米報道ではその度に市場が"shrug off"した、つまり「軽くあしらった」「無視した」という表現が多用される。これでは、トランプ氏も金氏も、脅し甲斐がないというものだ。

だがなぜ、一般人と市場の見方にはこのような乖離があるのか。
市場の冷静さは、一般人が見ていない何かを見ているところから生まれている。それらの要素がどのようなものかを探ってみよう。

市場が見ているもの(1) 韓国の株価と為替

北朝鮮リスク,ミサイル慣れ
(写真= Paul Hakimata Photography/Shutterstock.com)

金委員長が今年元日に発表した「新年の辞」で、「米本土を狙うICBMの発射実験の準備が最終段階に入った」と述べた後、朝鮮半島や東アジアにおける軍事的緊張は、どんどんエスカレートしてきた。

ところが、そのテンションと反比例するかの如く、韓国総合株価指数(KOSPI)は昨年末の2000以下からピークの7月には2450を超え、李外相の「水爆実験」発言のあった9月22日は17.79(0.74%)の下げにとどまる2388だった。

英投資会社フィッシャー・インベストメンツのケン・フィッシャー会長は9月12日付の英『フィナンシャル・タイムズ』紙に寄稿し、「騒ぎの割に株式市場は冷静であり、市場はこれが第3次世界大戦にならないことを知っている」と断言した。

フィッシャー氏は、「1950年に朝鮮戦争がはじまった時に米株価は調整で14%下げたが、停戦までに26%戻している。1991年の湾岸戦争でも最初は下げたが、終戦を経て年末までに33%も上げた」と歴史を振り返った。

その上で、「今回ばかりは事情が違うだろうか。もちろん、その可能性はある」としながらも、「市場は可能性ではなく、確率によって動くものだ。もし北朝鮮が引き起こす終末の確率が本当に高いのであれば、韓国の株価が世界の株式市場平均を上回るパフォーマンスを見せ、今年だけで20%以上も上げたりしない」とする。

フィッシャー氏はさらに、「なぜウォン高になるのか。戦争になれば、韓国の首都ソウルが真っ先に火の海になるというのに。もし世界が本当に朝鮮半島に危機が迫っていると認識しているのであれば、韓国の指数は世界平均以下に下げるはずだ」と畳みかける。
フィッシャー氏が、韓国の株価を観察した結論は、こうだ。「市場はすでに(北朝鮮)リスクを織り込み済みなのだ」。

また、韓国企業が海外において主にドル建てで発行するオフショア債券は6月末からの発行額が22%も増えて80億ドル(約8960億円)に達している。香港ベースのみずほ証券のアナリスト、マーク・リード氏は、「長期的な投資として魅力的になっている」と指摘する。

市場が見ているもの(2) 恐怖指数と金価格

一方で、下げているのが「ウォール街の恐怖指標」と呼ばれるVIX指数だ。この指数は市場の恐怖感が高まると上げ、パニックが遠のいて投資家がリスクオンのモードになると下がる。特に注目されるのは、トランプ大統領の「完全破壊」演説の後でも、VIX指数が1.2%下げて10.03と、史上最低レベルになったことだ。9月22日にはさらに下落して9.59となった。

金委員長は一般人の心を嚇せても、市場は嚇せないのである。米経済ニュースサイト『ビジネスインサイダー』のウィル・マーティン記者は、「投資家は金正恩をオオカミ少年として扱っている」と語る。

オランダの金融大手INGのアナリスト、ロブ・カーネル氏も、「北朝鮮の事態は毎度毎度のことだ」と指摘し、「米軍の攻撃の確かな前兆でも見られない限り、緊張は和らぎ、よい買いの機会となろう」とする。

ただ、本心では戦争を望まない当事者の誤算による戦争の開始というシナリオもあり得る。そうした潜在的な不安で買われるのが「有事の安全資産」である金だ。米ETF セキュリティーズのマーティン・アーノルド氏は、「北朝鮮との緊張が完全に緩和されるまで、金が買われやすいだろう」という。ポートフォリオの5~10%を金にしておくよう勧める専門家もいる。

金は9月22日に、1オンス当たり1299.70ドルと前日終値より5.70ドル上げたが、最近のピークの1350ドルからは値を削っており、やはり北朝鮮リスクが相対的に縮小していると見られているようだ。

一方、米軍需銘柄であるロッキード・マーティンやボーイングは9月22日に最高値を更新している。これを「リスクオンの証拠」と見るか、「有事近し」と見るか意見は分かれようが、直近では恐怖指数下落の文脈で捉えたほうが当たっているかもしれない。

市場が見ているもの(3) 米株価と米金融政策

そして、北朝鮮リスクを低いと見た投資家が一番注目するのが、米株価と米金融政策である。ダウ平均が最高値を更新し続けるなか、米金融大手BNYメロンのサイモン・デリック氏は、「地政学的なイベントは主要マーケットで脅威と見なされず、投資家全体が無視している」と語る。

その環境で株価を動かしているのはもはや北朝鮮ではなく、米連邦準備制度理事会(FRB)による10月からの金融引き締めだ。金融危機後の量的緩和で膨らんだ資産を段階的に縮小させることで、米経済が健全だと示す意味があり、バランスシート縮小開始の発表後、市場は好感をもって反応した。「地政学的不安定さより、経済のファンダメンタルズが市場を動かしている」(米『マネーウィーク』)のだ。

そうした意味において、経済評論家の豊島逸夫氏が指摘するように、「北朝鮮関連でサプライズ性があるのは、もはや軍事衝突しか残っていない」のである。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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