要旨

  • インドでは、いくつかの州政府が農家に対する債務免除策を発表したことから、農民らによる債務免除を求めるデモが広がっている。9月には、西部ラジャスタン州で農民の抗議活動が13日間に渡って続き、14日には州政府が総額2,000億ルピー(約3,450億円)の債務免除を発表した。
  • 農民の抗議活動の背景には、農家の経済状況の悪化がある。供給過剰によって年初から農産品価格が下落し、農家の約7割を占める零細農家が生産コストを回収できなくなっているほか、昨年11月に政府が突如実施した高額紙幣を廃止したことも農家の借金の増加に繋がったとされる。
  • 同政策の経済への影響を考えると、短期的なプラス効果は一定程度認められるが、中長期的な負の影響が大きい。短期的には、返済負担が免除された農家が生産活動を継続できるほか、政府資金によって銀行のバランスシートが改善する。一方、資金を捻出する政府財政は悪化する。また中長期的には、モラルハザードや農業の生産性向上の遅れといった問題がある。
  • 農業ローン免除策に対する専門家らの批判は多いが、農業への手厚い政策は人気を集めるのに最も効率が高い手段とされる。2019年の次期総選挙が近づくなか、政府の政策は農村支援など選挙対策色が一段と濃くなってきている。

インド各州で広がる農家の債務免除

9月1日から13日にかけて、インド西部ラジャスタン州のシカール地区等で何十万人もの農民らが主要道路を封鎖して抗議活動を行った。

農民側は州政府に対して債務の全額免除をはじめとする11項目(1)を要求した。ラジャスタン州政府は14日に農家に対して総額2,000億ルピー(約3,450億円)の債務免除を発表し、農民1人当たり最高5万ルピー(約8.6万円)まで免除を受けられるようにすることで農民側の代表者と合意した。現在、州政府は政策の詳細を決めるための委員会を設置しており、同委員会は1ヵ月以下に報告書を提出する予定となっている。

56809_ext_15_2

インドでは、このような債務免除を求める農民のデモが広がっている。事の発端は17年3月の北部のウッタル・プラデシュ州議会選挙において、インド人民党(BJP)が農家に対する債務免除策を公約したことだ。選挙に勝利した州政府(BJP政権)は4月上旬に、総額3,636億ルピーの債務免除を決定した。またパンジャブ州も同様に3月の州議会選挙で勝利した国民会議派政権が、選挙で公約した債務免除策を6月に公表した。

こうした流れを受けて、幾つかの州では農民らによる抗議活動が広がり、6月にはマハラシュトラ州、カナルタカ州で農家の債務免除を発表している(図表1)。そして、今回ラジャスタン州が加わったことは、今後も抗議活動が見込まれる中部マディヤ・プラデシュ州や北部ハリヤナ州、西部グジャラート州などでの農民の士気を高めることになっている。

-------------------------------
(
1)農民側の要求は債務免除に加え、政府が穀物を購入する際の最低支持価格の引上げに関するスワミナタン委員会の勧告の実施、農民の年金額の引上げ、政府が課した牛の売却禁止の撤廃などが含まれる。
-------------------------------