流暢な日本語を話し、通算在日期間は28年以上、スポーツの日米戦は「地元の日本」を応援するというスコット・キャロン氏。いちごアセットマネジメント代表取締役社長と、いちご株式会社代表執行役会長を兼務する同氏に、バリュー投資と不動産投資について聞いた。(聞き手:ZUU online編集部 菅野陽平)
※インタビューは9月29日に行われました。
※インタビューは全て日本語で行われました。

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(写真=ZUU online編集部)

——これまでのキャリアと今のお仕事を教えて頂けますでしょうか。

今で言うとシリコンバレーの育ちです。ただ、父の転勤に伴い、1歳のときから3年間東京で暮らしました。両親によると、生まれて初めて口にした言葉が日本語だったそうです。

その後、プリンストン大学在籍時の1984年、松下電器産業の研修生として日本に戻ってくることができました。1990年には慶應義塾大学で1年間日本語を学びました。1994年3月から日本開発銀行の客員研究員として再び来日した後はずっと日本におりますので、通算在日期間は28年以上になります。スポーツで日米戦があると「地元の日本」を応援するほどです(笑)。

日本開発銀行の後は、バンカース・トラスト・アジア、英国プルデンシャル・グループを経て、モルガン・スタンレーでは株式統括本部長を務めました。2006年に日本株に特化した長期投資を行ういちごアセットマネジメント株式会社を創業、2008年には、いちご株式会社の会長にも就任し、現在に至ります。

ふたつの会社の経営に携わっておりますが、仕事内容は異なります。いちごアセットはバリュー投資を行っています。バリュー投資というのは、どちらかというと成長や夢より、過去の実績、本源的企業価値と市場評価のかい離、割安さを重視します。

具体的には、長い実績や競争優位性があるのに、株価にそれらの評価が反映されていない企業へ投資させていただくのです。なぜ過去の実績を重視するのかというと、将来の展望を立てたとしても、果たしてそれが当たるのか、非常に疑問を持っているんですよね。私は、世の中が考えているよりも、世界には不確実性が溢れていると思っています。

また、バリュー投資に加え、いちごアセットの投資手法として特徴的なのは、「経営者の前向きな改革を買う」ということです。創業以来対話を重視したエンゲージメント投資を行ってきており、経営者の方々の企業価値向上に向けた改革を心から応援しています。

——個人投資家がバリュー投資を行う際に、気をつけるべきことはありますでしょうか。

バリュー投資の中心は、ファンダメンタル分析です。決して思惑買いはしないこと。実績を買う。現在を買う。安全運転の投資手法ですけどね。

バリュー投資の観点から見ると、日本は非常に魅力が高いです。企業の実績に対して株式価値にかい離のある企業が多いので、日本株に投資するならば、個人的にはバリュー投資がお勧めですね。企業価値=資産価値+事業価値+人材価値と考えており、日本企業は資産価値のみならずその他の見えない価値も高いので、PBRが1倍を割れていて、かつとても良い企業であればあるほど投資妙味は大きいと思います。

預貯金や国債はほぼ利回りがない。社債はクレジットスプレッドが乗っているとはいえ、100ベーシス(1%)もない場合が多いです。本物の利回りが欲しいと思えば、国内ではある意味2つしかありません。ひとつは高配当の株式。もうひとつは不動産。個人投資家が都内で現物不動産投資をするとすれば、一般的には5%前後の利回りを見込めます。高配当銘柄でも、2~4%くらいの配当利回りを出す企業は多くあります。

その企業が配当を維持できると思えば、ある意味、債券と一緒なんですよね。例えば、とある上場企業の社債の利回りが50ベーシス、配当利回りは300ベーシス(3%)としましょう。その企業が良い経営をしていて、何も問題がないと思えば、株を買うべきだと思います。若干の株価変動はあったとしても、中長期的なリターンは、株式に軍配が上がると考えています。

(写真=ZUU online編集部)
(写真=ZUU online編集部)

——PBR1倍を割れている企業がまだまだ多いです。PBR1倍を超えてこないのは、少子高齢化に伴う日本の国力低下など、悲観的な見通しが影響しているのでしょうか。

「失われた20年」と言われるように、バブルがはじけてからデフレが蔓延し、長い間、日本は難しい時間を過ごしました。これは日本人のすごく良いところでもあるのですが、謙虚であることが日々の行動に浸透しているので、自国に対しても、かなり厳しい目を向けています。

しかし、私は「果たして本当にそうだろうか?」と思います。まず、問題を抱えていない国や人は存在しません。確かに少子高齢化が進んでいるのは間違いない。でも、欧米もそうですよ。アジア諸国もそうですよね。日本の出生率はシンガポールより高く、韓国よりも香港よりも台湾よりも高いんです。そのようななか、日本だけが少子高齢化で駄目になると考えるのはおかしい。

メガバンクは全てPBR1倍を割れていますが(2017年10月現在)、世界トップクラスの金融機関であるので安定性は抜群です。将来に対する投資家の不安の分が、フェアバリューからディスカウントされているという説明もできるかもしれないですが、それが客観的に当てはまるかと言うと、私はそうでもないと思っています。

——何がきっかけで日本人のマインドが変わると思いますか。

既に変わりつつあると思います。この5〜6年で株価は大きく上がりましたし、海外投資家の関心もずいぶん高まっているように感じます。以前は「日本の企業力は認めるが、果たして株主目線になっているか、ガバナンスの体制が整っているか」という批判もありました。しかし、この5年程でガバナンス強化が進み、今や世界トップレベルのガバナンス体制が整いつつあると思います。

私はコーポレートガバナンス・コード策定委員会のメンバーだったので、金融庁・東証の事務局の方々と一緒に作業することが多かったのですが、皆さんやっぱり優秀です。国際的なベストプラクティスをよく理解しています。日本のガバナンス改革は日本国民のためになると確信しています。

——黒田日銀に関しては、どのようなご印象でしょうか。

僭越ながら、素晴らしいご活躍だと思います。失われた20年の原因をひとつ選ぶとしたら「金融政策のミス」だったと思います。バブルを作ってしまった反省から、バブル崩壊後は引き締め感が強い金融政策を続けてしまった。大胆に緩和すべきときも、不十分な金融緩和に終始してしまった。

その結果、ずっとデフレが続いてしまいました。黒田日銀の大規模な金融緩和に対しては、出口はどうするんだとか色々な意見はありますが、これは前例のないデフレ退治です。勇気ある正しい政策転換だったと私は考えます。

(写真=ZUU online編集部)
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——その金融緩和を受けて、日本の長期金利はほぼゼロの状態が続いています。

いちご株式会社の会長として投資家とのIRミーティングを行う機会も多いのですが、投資家に一様に言われるのは「日本の不動産はずいぶん値上がりしたね」という言葉です。確かに、5年前は利回り7%だったものが、今は4%になっているなど、物件価格が上昇しているのは事実です。

ただ、その一方で、JGB(日本国債)の金利はゼロ。イールドスプレッド(利ざや)の観点からみても、先進国のなかで日本が最も魅力的な不動産市場であることには変わりはありません。海外投資家が投資するときは為替リスクが発生しますが、日本人が投資する分には為替リスクはない。海外の地政学リスクも関係ない。日本の不動産は、引き続きの堅調さを保つと考えています。

——個人投資家は、どのように不動産を資産運用に組み込んでいけば良いのでしょうか。

不動産投資には大きく分けて2通りあります。ひとつは小口です。現物不動産を小口に分けた商品もありますが、不動産に相当詳しくない限りJ-REIT(不動産投資信託)が良いでしょう。J-REITは現物不動産に比べて、圧倒的な流動性と透明性があります。少額から買えるので分散も容易です。

株式に比べて利回りが高いことも魅力です。東証に上場する全J-REITの平均利回りは4%を超えています(2017年10月現在)。いちご株式会社も3つの投資法人を運用していますが、オフィス特化型のいちごオフィス(8975)は5%以上、ホテル特化型のいちごホテル(3463)は5.5%以上、太陽光発電のいちごグリーン(9282)は6.3%以上の利回りです(全て2017年10月現在)。

もうひとつは現物不動産投資です。今は歴史的な低金利ですが、反対に言えば今後は金利上昇の可能性が十分にあると思います。従って、変動金利で借りず、できるだけ長期の固定金利で借りることが重要です。固定金利だと変動金利より高くなることが一般的ですが、それは安心料であり、金利上昇に対する保険料と考えたいところです。

——最後に、読者へメッセージをお願い致します。

まずは、日本人の皆さんには、もっと堂々と、日本人であることを自負して欲しいと思います。
毎年、世界各国のブランド調査が行われていますが、それを見ても、日本は常にトップクラスです。客観的な事実としては、日本に対する海外のレピュテーションは非常に高い。治安は良い。食事は美味しい。そして日本人の優しさ、丁寧さ、勤勉さは抜群です。

日本は戦後、奇跡的な経済成長を遂げてきましたが、一貫して平和主義を貫いてきてことも世界から大きな信頼と評価を得ている要因です。今、世界は非常に不安定になっていますが、このようなときにこそ、日本が守ってきた平和主義を全世界に向けて強く発信してもらいたいと願っています。

スコット・キャロン(Scott Callon)
いちごアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長 兼 いちご株式会社 代表執行役会長。日本開発銀行、バンカース・トラスト、モルガン・スタンレー証券などを経て、2006年にいちごアセットマネジメントを創業。株式会社チヨダ(8185) 社外取締役、金融庁・東証「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー、東証「企業価値向上表彰」選定委員を務める。また、金融庁・東証「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」、金融庁「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」および経産省「伊藤レポート:持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトのメンバー等を務めた。プリンストン大学卒業後、スタンフォード大学で博士号(政治学)取得。日本の通算滞在年数は28年。