メガバンクの人員削減は当事者だけでなく、中小企業にもその影響を及ぼす。出向で財務や経理の担当者に就くケースもあり、中小企業でのポストの一角を占めるケースもあるだろう。しかし金融機関の出身者であれば「運用の専門家」と過信してしまうことは危険だ。2012年にAIJ問題で1300億円の年金が失われた教訓を忘れてはいけない。

メガバンクのポストと人員削減

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(画像=PIXTA)

メガバンクの人員削減が加速する勢いだ。1万9000人、9500人などと大きな数字の従業員削減策がニュースで話題になった。ロボット化、AI化が驚くべきスピードで変化している影響はもちろんであるが、最も大きな要因のひとつは人員構成のゆがみであろう。

会社組織では、そのピラミッド型の構造から年齢を重ねる毎にポストが少なくなっている。メガバンクの前身である都市銀行はかつて13行あった。合併などで集約されてしまった結果、特にバブル前後に採用された人員がダブついてしまっていることは容易に想像できる。

バブル時期の採用で人余り

バブル時代の採用人数は驚くべき規模であった。ある銀行では、全行員約1万2400人程の組織に新卒採用を500名以上していた。これは約4%に当たる。仮に23歳から53歳まで、銀行に30年勤める場合では、4%×30年=約120%となる。人員構成からすると明らかな人員過剰の時代だったのだ。優秀な銀行員であっても、このポスト不足、人員削減にはあらがうことはできない。

削減人員はどこに行くのか?

では「人数削減の制度」に乗らざるを得ない人はいったいどこに行くのだろうか?銀行には多数の関連会社がある。しかし、全ての人員を賄うほどでは無い。では、どこが受け皿となるのであろうか? 一つの答えが取引先の企業だ。

当初は「出向」という形で取引先に勤務する。銀行出身であるが故に、経理担当部長や財務担当役員になるケースもある。銀行の給与は相対的に高い。銀行で支店長代理という役職で、出向先で役員となる場合でも、収入は下がることも考えられるのだ。

出向による「人件費削減」、受け入れ先はハッピーなのか?

出向中に収入の水準が下がる場合、その差額を銀行が負担するケースもあるだろう。しかし、出向させた銀行では、出向先の企業の給与・報酬部分の人件費が削減できることになる。

中小企業側が望んでその人材に来て貰うケースはハッピーであるが、実際にはレアケースだろう。受け入れ先の中小企業の考えでは、銀行との融資関係を今後も円滑に進めたいと思う。そこである程度のポストを用意する。「平社員」という訳にはいかないだろうと、「忖度」をはたらかせている。この場合、受け入れ先企業でもピラミッドのポストの一角が出向者に充てられ、たたき上げの社員としては複雑な心境だろう。

金融機関出身者でも過度な期待は禁物

経営者は、財務や経理・運用を任せている担当者が、金融機関出身だからという理由で、運用に強いだろうという「過度な期待」は禁物だ。金融商品の販売に携わっていた者でも、自社の取り扱いラインナップ以外のものに対する知識は乏しいのが普通だ。金融機関で受けた研修の多くは、その金融機関で取り扱っている商品をどうセールスするか、という内容がほとんどであろう。それはセールストークを充実させるための研修で、運用商品の中身を比較検討したり、運用の仕組みの本質を理解している訳ではない場合が多いのだ。

AIJ「消えた年金」のツケは従業員に

2012年に大きく取り上げられた、AIJ問題で消えた年金は1300億円もの金額になった。母体企業が損失の穴埋めをせざるを得ないものの、そのシワ寄せが従業員に及ぶことを忘れてはならない。事件の結果、給与水準を上げることに慎重にならざるを得ない面は否めないだろう。結果として、運用の詐欺被害のツケは従業員に及んでしまうのだ。

経営者には言えない「出向者の胸の内」

銀行から出向で経理・財務部門に就いた場合、ホンネではこう思っているケースもあるだろう。

「銀行出身で、実は簿記がわからない、とは言えない」
「自分が出向で来ていても、融資の審査が甘くなることは現実にはあり得ない」
「運用商品の導入判断を任されているが、実は運用商品の他社比較などしたことが無い」
「年金については、自身の年金運用でもどうして良いのかはっきりわかっていない」
「他社提案の方がよさそうだが、古巣に反旗は翻せないので、古巣の商品導入で決着したい」

「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」ということわざがある。運用のプロでない担当者がそれを言えずに導入した制度や金融商品によって、従業員が結果的に被害を被ることに繋がってしまうかもしれない。

企業で運用や年金の担当者となっている方々には、従業員の将来が双肩にかかっていることを肝に銘じていただき、わからないことには経営層に「わからない」とSOSを発信しても良いと思う。

そして経営者側は、金融機関出身者が運用の専門家でない場合が多いことを理解して欲しいと思う。担当者のホンネを理解し、過度な期待をすることなく、中立的な運用の専門家の意見を導入することで、大事な従業員の将来を守ることに繋がることを知って欲しいと思う。

安東隆司(あんどう・りゅうじ)
RIA JAPANおカネ学株式会社代表取締役。CFP®ファイナンシャル・プランナー、元プライベート・バンカー。日米欧の銀行・証券・信託銀行に26年勤務後、独立。お客様サイドに立った助言を実践するためには高い手数料は弊害と考え、証券関連の手数料を受け取らない内閣総理大臣登録の「投資助言業」を経営。著書に『個人型確定拠出年金iDeCo プロの運用教えてあげる!』等がある。