「ダウの犬戦略」をご存知だろうか? 初心者でも気軽に実践できるほどシンプルでありながら、プロのファンドマネージャー顔負けの成績を狙うことも可能な投資戦略のことだ。

クリスマスが近づくとウォール街の市場関係者から話題として度々あがる「ダウの犬戦略」。それは具体的にどのようなものなのか。今回はその戦略の概要を説明し、今年の結果を具体的に振り返りつつ、より実践的な取り組み方も合わせて紹介したい。

「ダウの犬戦略」とはなにか?

「ダウの犬戦略」は高配当銘柄に投資することでインデックスを上回るリターンを目指す投資スタイルである。「ダウの負け犬戦略」もしくは「ダウ10戦略」と呼ばれることもある。

具体的には、12月31日(最終営業日)にダウ(工業株30種平均)を構成する30銘柄のうち「配当利回りの高い10銘柄」を購入し、翌年の12月31日に「その時点」で配当利回りの高い10銘柄に入れ替えるというプロセスを毎年繰り返す投資法だ。

「ダウの犬戦略」は、高配当を享受しながら値上がりも期待できる一石二鳥のポートフォリオとして人気がある。「ダウの負け犬戦略」とも呼ばれるのは「負け犬」が低迷する株価からきているためだ。つまり、配当利回りが上昇しているということは、株価が低迷していることの証左でもある。イメージ的には値下がりした銘柄を買い、値上がりした銘柄を売って毎年入れ替える逆張り戦略と同じようなものである。

この戦略のキモは対象が「超優良銘柄」に限られている点にある。世界を代表する超優良企業であることから倒産リスクが比較的小さく、一時的に業績が悪化することはあっても時間が経てば立ち直るとの前提に立っている。良くも悪くも「平均への回帰」を想定しており、「落ちるナイフ」をつかむリスクは小さいと考えているわけだ。

「超優良」「高配当」「割安」を狙う

では、実際の銘柄を見てみよう。2016年末のダウ平均構成銘柄を配当利回りの高い順に並べるとベライゾン、ファイザー、シェブロン、ボーイング、シスコ・システムズ、コカコーラ、IBM、エクソン・モービル、キャタピラー、メルクが上位10社となる。

12月15日現在の配当利回りを基準にすると、この10社のうちボーイングとキャタピラー社が脱落、代わってプロクター・アンド・ギャンブルとGEが組み込まれることになる。

ボーイングの年初来の騰落率は88.8%高、キャタピラーは58.2%高と現在のポートフォリオを構成している10銘柄の中では突出した値上がり率となっている。一方、昨年末には圏外だったP&Gは9.3%高である。決して悪い数字ではないのだが、ダウ平均そのものが24.7%も値上がりしている点を考えるとどうしても見劣りする。GEに至っては43.6%安と暴落している。

このように「超優良企業」であっても、株価の値動きは多様であり、価格の変動により割高感や割安感が芽生えることになる。負け犬戦略は「超優良」かつ「高配当」でありながらも、「割安」となっている銘柄を買い拾うことで超過リターンを狙う戦略でもあるのだ。

「配当の再投資」を重視、初心者にはETFという選択も

ちなみに、高配当銘柄にはデフェンシブな株が多いことから、好景気に弱く、不況に強い傾向もある。今年は株式市場が好調だったことから「ダウの犬戦略」を構成する10銘柄の年初来の騰落率は平均で17.9%高と全体(24.7%高)に遠く及ばない。今年に関しては、配当を考慮しても「負け犬」のままで終わることになりそうだ。

このように「ダウの犬戦略」が毎年必ずインデックス(ダウ)を上回るリターンをあげるわけではない。むしろ、「キャピタルゲイン」ではインデックスを下回ることも少なくないのが現実だ。

とはいえ、この戦略のもう一つのキモは「配当の再投資」にある。高配当から得られる資金をコツコツと再投資することで、たとえキャピタルゲインが低くても、長期的なトータルリターンでインデックスを上回ることを目指すところに意義がある。

したがって、戦略そのものは単純であり、銘柄選びやその入れ替えに悩むことはないのだが、配当の再投資はちょっと悩ましい問題となるかも知れない。

もし、この問題から開放されたいのならETF(上場型投資信託)がお勧めだ。ニューヨーク証券取引所には「ダウの犬戦略」に基づいた『Dogs of Dow ETN(DOD)』が上場されており、これを買えば配当の再投資の手間が省ける。もちろん、銘柄を入れ替える必要もない。

DODの年初来のパフォーマンスは15日現在で22.5%高とダウ平均と連動する『SPDR Dow Jones Industrial Average ETF』の27.5%高を下回っているが、過去5年平均ではアウトパフォームしている。

日本株への応用は『TOPIXコア30』で

日本の投資初心者にとって、米国株はやや敷居が高いかも知れないが、購入自体はそれほど難しい話ではない。日本でも米国株を扱う証券会社が増えているためだ。

繰り返すが「ダウの犬戦略」は銘柄選びに悩む必要がないので、この点が初心者には最もお勧めな点である。また、高配当銘柄を集めているので、キャシューフローが必要な「退職組」のニーズも高いかも知れない。

安全資産といえば国債を連想する人も多いことだろう。確かにその通りだが、日本の金利は低すぎてキャッシュフローは微々たるものだ。そのような状況では、倒産リスクの低い超優良企業の配当に目を向けることは自然な流れといえるだろう。

「ダウの犬戦略」は日本株に応用することもできる。たとえば「TOPIXコア30」の構成銘柄で同様の戦略を実践することも可能だ。

投資の考え方は多様でより複雑な戦略もあるが、ウォール街では今回紹介したようなシンプルな戦略が意外と人気なのも事実なのだ。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)