近年の経済活動の中では、対外取引の重要性が増している。こうした対外取引は、財やサービスを対象とする輸出入と金融資産を売買する資本取引に分けられる。中でも、海外とのモノやサービスのやり取りを対象とする輸出はGDPの需要項目であり、海外への国内需要の漏れを示す輸入も控除項目としてGDPに影響する。

「輸出動向」は景気動向を見る上での重要な判断材料

経済統計,見方
(画像=PIXTA) ※写真はイメージです

特に、近年の輸出の変調は景気の転換点になっており、2012年1-3月期を山とした景気後退および2012年10-12月期を谷とした景気回復は、世界的なIT関連製品の在庫調整による輸出の変動がきっかけとなっている。このように、景気動向を見る上で輸出動向は重要な判断材料となる。

図1

こうした輸出入の動向を決める最大の要因は、海外や自国の経済動向であり、これを所得要因と呼ぶ。例えば、海外経済が好調で所得が増加すれば日本からの輸出が増え、逆に海外経済が悪化すると日本からの輸出が減る。同様に、日本経済が好調で所得が増加すれば輸入が増え、日本の景気が悪化すると輸入が減る要因となる。

また、輸出入品の相対的な価格も輸出入の動向を大きく左右し、これを価格要因と呼ぶ。円安等による輸出品の価格低下や性能向上等により輸出品の競争力が増すと輸出量が増加し、円高等により輸入品の相対的な価格が低下すれば輸入量が増加する要因となる。

この点から見ると、輸出入の先行きについては不透明な要素が多い。中国で金融規制が強化される中、海外経済の行方は予断を許さない状況にある。また、2017年は比較的安定していた為替相場の動きも要注意だ。為替が変動すれば、海外から見た日本製品の価格が変化し、国際競争力に影響する。当面、我が国の貿易、ひいては景気動向を判断するには、世界経済の動向や為替相場から目が離せない。

高まる新興国向けの取引

日本の貿易動向を見る上で、最も代表的な統計が財務省の『貿易統計』である。毎月下旬に前月分が発表され、品目・地域別の輸出入金額や、金額、数量、価格面からみた各貿易指数が公表される。

貿易統計をもとに、2016年度における輸出の地域別構成比を見ると、米国向けが19.7%、欧州向けが11.2%、中国向けが17.9%、NIES(韓国、 台湾等4か国)向けが22.0%、ASEAN(インドネシア、タイ等10か国)向けが14.9%、中東やロシアを含むその他地域向けが15.4%となっており、地域別で見れば依然としてNIESが日本最大の輸出先であることがわかる。

しかし、これを時系列で見ると、2011年度までは中国の比重が米国を上回っていたが、2012年以降は代わって米国の比率が上昇している。更に2013年度頃からは、中東やロシアを含んだその他地域の比率も急激に低下していることがわかる。こうしたことから、日本からの輸出比率の変化は輸出相手先の経済状況を如実に反映していると言えよう。

図2

変容する外貨を稼ぐ手段

海外との経済取引は輸出入だけではない。海外との様々な取引を包括的に計上する「国際収支統計」が財務省から公表される。本統計は貿易のほかに、輸送や旅行などサービスのやり取り、投資等に伴う海外との所得のやり取り、証券投資や直接投資等による資本のやり取り等を集計している。そして、財、サービス、所得の流れを「経常収支」、投資による資本の流れを「金融収支」と呼び、「経常収支」と「金融収支」+「資本移転等収支」の差が、統計上の「誤差脱漏」となる。

日本の経常収支は黒字基調、つまり海外所得の受取超が続いており、その額は2016年度に20.4兆円と2007年度、2006年度に次ぐ過去3番目の水準に達している。これに対し、金融収支は赤字基調、つまり対外資産の取得超が続いており、2016年度は24.9兆円の赤字となっている。そして、結果として2016年度の誤差脱漏は4.8兆円の黒字になっていることがわかる。

2016年度の経常黒字の内訳を見ると、貿易収支が5.8兆円の黒字、輸送や旅行等サービスのやり取りを示すサービス収支が1.4兆円の赤字、利子や配当等の投資収益のやり取りを示す第一次所得収支が18.1兆円の黒字となり、傾向として貿易黒字の拡大とサービス収支の赤字縮小が第一次所得収支黒字の縮小を穴埋めしていることがわかる。

貿易黒字の拡大は、海外経済の生産活動が活発になっていることや、資源価格低下による輸入金額の縮小という側面がある。また、サービス収支の赤字縮小は、近年増加傾向にある来日外国人旅行者が日本で使うお金が増える一方で、日本企業の海外現地法人から受取る特許等使用料が増えているためだ。更に、縮小しながらも規模が最大の第一次所得収支の黒字は、日本が対外資産を大量に保有していることと、相対的に好調な海外経済を背景に対外資産の収益率が高いことが相俟っている。

これは、日本が輸出によって外貨を稼ぐ国から、投資収益やサービスの輸出で外貨を稼ぐ国へと変わっていることを示している。なお、サービス収支はGDPの輸出入に含まれ、第一次所得収支はGDPに含まれないが日本人の所得を示す国民総所得(GNI)に含まれる。従って、所得収支の黒字拡大やサービス収支の赤字縮小が、国民所得を拡大させる一つの鍵を握っている。

図3

永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。