国土交通省は、2018年の通常国会に相続した土地の登記を義務化する法案を提出見込みです。なぜ、国は義務化に動いているのでしょうか?これは、相続登記をしない人が多く、「空き地」「空き家」が社会問題化していることが背景にあります。現在、相続登記は任意であり、相続人は相続登記をしなくても特に問題になりません。しかし、登記をしない相続人が亡くなるたびに、土地の権利者が雪だるま式に増えていくため、所有者不明の土地は広がり続けています。

国土交通省の試算では、このまま何も対策を講じなければ、2040年までに、日本全体で、北海道本島(約780万ヘクタール)と同じくらいの土地が、持ち主不明の土地になると推計しています。

過去には、所有者不明の土地が原因で、東日本大震災の復興事業やリニア中央新幹線の建設用地買収が難航するという問題も起きています。このような事態を食い止めるために、国の施策で従来、任意であった相続登記を義務化し、空き地・空き家の増加を防ごうとしているのです。

では、相続登記が義務化されると私たちの暮らしにどのような影響があるのでしょうか?

誰が土地を相続するかで争いが増加する?

空き家,相続
(画像=Webサイトより、クリックするとAmazonに飛びます)

従来は、相続登記が任意であったため、誰が相続するかを相続人間で先送りにすることができました。しかし、相続登記が義務化されると先送りができなくなり、相続が発生するたびに誰がその土地を相続するのかを確定させなければいけません。

そうなると、相続人間で土地の取り合い、もしくは、押し付け合いが勃発する可能性が高まります。価値の高い土地であれば、相続人みんなが欲しがり、取り合いになります。逆に価値のない土地は、「そんな土地いらない」と、押し付け合いが起こるのです。

現在、すでに起こっているいわゆる“争族”も不動産に係わるものが85%を占めており、相続登記の義務化によって今後、さらに顕在化していくことが予想されます。

地方に親を残して都会に家がある人は危ない

特に、地方に実家があり、都会に就職し、すでに都会に家を構えた人たちは時限爆弾を抱えているようなものです。親のことはもちろん、親なき後の実家についてもどうするべきかを考えておかなければならなくなります。

将来、都会での生活を続けていくのか、それとも、いずれは地元に戻り実家で生活するのか。兄弟姉妹がいるのであれば、誰が実家を相続するのか。相続する資産が実家くらいであれば、分けることのできない不動産は争いの火種となる可能性があります。

親が亡くなったときの相続が、自分の将来をも左右することは今でも変わりませんが、相続登記の義務化により、さらにその検討を早めなければならなくなっています。

売れる土地は早めに売却を

そもそも日本はこれからどんどん人口が減っていき、それに伴い世帯が減少していくことは確実です。さらにそこに相続登記の義務化という要因が加われば、不動産価格に大きく影響するのは目に見えています。

都会への流入が続いている状況下、地元にUターンしないとなれば、実家は処分せざるを得なくなり、地方不動産の売却は活発になることが予想されます。将来の相続についてしっかり相談している家族であれば、行く行くは実家を手放すことになることを予想し、できるだけ高い値段で売却する動きが出てきても不思議ではありません。また、売りづらい土地についても、早めに売却活動をすれば、売れる可能性は出てきます。

いずれにしても、不動産の売却は、早めに開始することが得策であり、多くの売りが出てくれば当然価格は下がります。多くの人が実家を売りに出し始める前に、家族会議をして、きちんと将来の相続について話し合っておくことが賢明でしょう。

また、実家を売却する場合、「お墓」についても同時に考える必要があります。実家を売却すると地元に縁がなくなるからことから、同時に”墓じまい”を考える人が増えてくると思われます。

両親が健在であれば、両親に会いに行く際にお墓参りをする人は多いですが、両親が亡くなり、実家も処分したとなれば、お墓参りだけするのも非効率です。そこで”墓じまい”を考えることになります。

”墓じまい”では、お寺さんへの対応も重要です。”墓じまい”を依頼したら、高額の”墓じまい”料を請求されたという話も聞きます。それに遺骨の問題もあります。現在の住まいの近くに新しい墓を用意するのか? 手元供養、散骨など先祖代々の問題であることから、相応の配慮が必要となります。

あなたは親が亡くなったときのことを考えていますか?

現在は、核家族化が進み、子どもは結婚すれば、新しい世帯を作るようになってきました。その結果、多くの子どもは自ら家を持ち生活しています。つまり、将来的に実家の売却を考えなければいけないときがくるのです。

親世代の高齢化が進み、現在は、認知症への備えも大きな社会問題となっています。子どもとしては、親の身体の問題を心配しなければいけませんが、実家についても同様に考えなければいけません。

親に対して亡くなった後のことを相談するのは難しいという声は多く聞かれます。ですが、自分の将来の問題として話をせざるを得ないという状況だということを理解してくだい。私は、親と相続について相談することは、いいことだと考えます。なぜなら、親も自分の子どもに将来、負担を背負わせるのは嫌だと考えるはずだからです。

高齢者がふたり、もしくはひとりで戸建て住宅に生活することは、様々なリスクがあります。親の気持ちへの配慮は必要ですが、高齢者向けマンションへの転居もひとつの選択肢でしょう。

お正月も明けましたが、また家族が集まるときにはぜひ、今後の親の生活についてしっかり話をしてもらいたいと思います。避けられない日に向けて、また、その後の自分の生活のためにも、親子で会話を持つべき時代を迎えているのだと考えます。

梶野雅章(かじの・まさあき)
梶野相続サポート&コンサルティング株式会社 代表取締役、日本相続知財センターⓇ岡山支部所属、一般社団法人岡山相続支援協会 専務理事、相続診断士、家族信託コーディネーター。日本から“争族”をなくしたいという思いから、相続にまつわるアドバイス、サポートを行っている。