突然ですが問題です。
不思議な能力を持つ少女が「灰色の男たち」と対決する物語……といえば何でしょうか?

そうです。ドイツの児童文学作家、ミヒャエル・エンデの代表作の一つ『モモ』です。子供の頃にワクワクしながら読んだ人も多いのではないでしょうか。

実は、この児童文学には「お金(貨幣)」についての考え方が隠されているとの説があります。最近はビットコインなどの登場で「お金」の概念そのものが大きく変わろうとしています。そこで、今回はエンデが考える「お金」の概念を紹介しましょう。

まずは『モモ』のストーリーを簡単に振り返りたいと思いますが、未読の人はネタバレになるのでご注意ください。

『モモ』ってどんなストーリー?

モモ,灰色の男,正体
(画像=Thinkstock/GettyImages)

「人の話に耳を傾けるだけで、話をした人々が自分自身を取り戻せる」そんな不思議な能力を持つモモは、大きな街の古びた円形劇場に住んでいました。

序盤はモモと街の人々の平穏な生活が描かれるのですが、ある日、時間貯蓄銀行を名乗る「灰色の男たち」が現われます。灰色の男たちは時間貯蓄銀行に「時間を預ける」と利子が付いて人生の何倍という時間を持つことができるというのです。

灰色の男たちの勧められるままに、人々は時間貯蓄銀行に「時間を預ける」のですが、なぜかかえって余裕のない生活になり、やがては人生の意味までも失ってしまいます。

それもそのはず、灰色の男たちの正体は人々から時間を奪う「時間泥棒」だったのです。

真相を知ったモモは、盗まれた時間を取り戻すため、亀のカシオペイアとともに灰色の男たちに戦いを挑みます。

ちなみに、ミヒャエル・エンデの作品は『モモ』のほかに『はてしない物語』なども有名ですね。日本でも人気の高い児童文学作家で、長野県の黒姫童話館にはエンデの資料が数多く展示されています。また、エンデの奥さんは日本人(翻訳者の佐藤真理子さん)ということでも知られていますね。

エンデが語る「2つの異なるお金」

さて、『モモ』に登場する時間泥棒には、どのような意味が込められていたのでしょうか。そこには、ある問題提起が隠されていたと考えられます。

NHK出版の『エンデの遺言「根源からお金を問うこと」』(河邑厚徳、グループ現代)は、かつてNHKで放送されたドキュメンタリーを1冊の本にまとめたものです。その中で、エンデは次のように語っています。

「重要なポイントは、たとえばパン屋でパンを買う購入代金としてのお金と、株式取引所で扱われる資本としてのお金は、2つの異なったお金であるという認識です」

たとえば、私たちが毎日「200円のパン」を購入するとします。「200円のパン」を購入するために必要なお金は200円です。次の日も200円です。その次の日も200円です。厳密に言えば、インフレやデフレのような物価変動が起きない限り、200円の価値は基本的に変わりません。

ところが、株式取引所では今日の「200円の株」が明日も200円で買えるとは限りません。それどころか、いまこの瞬間に「200円の株」だって1秒後に200円で買えるとは限らないのです。なにしろ相場(株価)は変動しているのですから。これは言い換えれば株価の変動と相対的に「お金の価値(貨幣価値)」も変動を繰り返していることを意味しているのです。

エンデが語る「2つの異なるお金」にはそのような意味が込められています。

時間とともに「価値の減るお金」

エンデは経済、とくに貨幣論について深く研究をしていました。そんな彼が関心を寄せていたのが、実業家で経済学者のシルビオ・ゲゼルの唱えた「スタンプ付貨幣」でした。

スタンプ付貨幣とは自由貨幣の理論なのですが、簡単に言うと「時間とともに価値の減るお金」です。

具体的に見てみましょう。

ある町で代用貨幣(スタンプ付貨幣)を発行しました。償還期間は1年。1年経つと同じ値段で現金と交換することが出来ます。

代用貨幣の裏には52個の枠があり、この枠の中に毎週水曜日に5円のシールを貼るようになっています。このシールが貼っていない、つまり未払いのものは代用貨幣として認められません。すなわち、代用貨幣を使う場合は水曜日(シールを貼る前)までに、使った方が良いと言うことになります。通常のお金より優先的に使わないとシール代の分だけ「損をする」からです。誰もが損をしたくはないので代用貨幣を積極的に使うようになれば、当然、お金の回転も速くなります。

先に述べたように、代用貨幣は1年後に同じ値段で償還します。5円のシールが52枚貼ってあるので、発行した町は260円の税収を得ることができるのです。

お金について「考えるチカラ」を養おう

ところで、スタンプ付貨幣の話ですが、2年前に日銀がマイナス金利政策を発表したときを何となく思い出しませんか? 当時はテレビのワイドショーなどで「銀行にお金を預けておくと減ってしまうの?」みたいな話題が取り上げられましたが、お金をどんどん使わないと損をするかのようなイメージという点では「スタンプ付貨幣」と似ていると私は思うのです。

とはいえ、日銀のマイナス金利政策が上手く機能しているのかといえば大いに疑問ですが……。

さて、読書好きのみなさんの中には、ここまで読んで気づかれた人もいるかも知れませんね。『モモ』に登場する「灰色の男たち」とは実は貨幣制度の受益者で、人々から預かったお金でさらなる利益を得るという話が隠されているのではないか、と私は考えています。実際、現代の貨幣制度への問題提起ではないか、と受け止める人は少なくないように思いますが、この物語に登場する「時間」を「お金」に置き換えて考えてみると分かりやすいかも知れません。

『モモ』の作品世界の寓意性は賛否両論ありますが、私はこの児童文学が大好きです。

楽しみながらお金について「考えるチカラ」を養いたい人にお勧めの一冊です。

長尾 義弘 (ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『お金に困らなくなる黄金の法則』『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。 http://neo.my.coocan.jp/nagao/