お金がある程度貯まり、住宅ローンの一部を繰上げ返済したいと考えているとする。しかし、返済する時期と金額をどのように決めれば、支払い金利を効果的に減らすことが出来るのか分からないこともある。そんな時は繰り上げ返済のシミュレーションを試して欲しい。シミュレーションで繰り上げ返済した際の数字を確認し、その効果を正しく把握してから繰り上げ返済を行えば良いのである。

繰り上げ返済とは

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(画像=PIXTA)

繰り上げ返済とは、毎月のローン返済額とは別に、まとまった額を一部または全額返済することである。繰上げ返済を行うと支払い利息が減るため、まとまったお金ができたら繰上げ返済することが選択肢の一つとなる。

繰り上げ返済では最低返済額と手数料が決まっており、これらの金額は金融機関やローンの種類により異なる。一部を繰り上げ返済する場合は、インターネットで手続きすることで手数料無料となる金融機関が多い。このためインターネットを活用して繰り上げ返済を行いたい。

繰り上げ返済を行う場合、返済額が大きい方が支払い利息を減らす効果が高い。同様に、早く返済した方が支払い利息を減らす効果が高くなる。例えば、35年ローンで100万円を一部繰上げ返済する場合、ローン返済開始から10年後に返済するのと、20年後に返済するのでは、10年後に返済した方が支払い利息の総額は減少する。

繰り上げ返済には、返済期間を短縮する「期間短縮型」と毎月の返済額を少なくする「返済額軽減型」の2種類がある。支払い利息を減らす効果は期間短縮型の方が高いが返済額軽減型にもメリットがある。次にこの2つのメリットとデメリットを確認したい。

期間短縮型・返済額軽減型のメリットとデメリット

繰り上げ返済するにあたり、期間短縮型と返済額軽減型のどちらを選ぶか悩むことがあるかもしれない。それぞれのメリットとデメリットを把握し、家計に適した方を選ぶことが良いだろう。

期間短縮型は、繰り上げ返済をしても月々の支払い額は変わらないが、返済期間を短くする。そのメリットは先に紹介したように、返済額軽減型より支払い利息を減らす効果が高いことだ。デメリットは、期間短縮効果を得る時期がローン完済の頃になり、その効果を実感するのは将来に先送りされることである。期間短縮型を選ぶケースは、支払い利息を減らすことを優先する場合や定年以降のローン期間を短縮する場合などになる。

返済額軽減型は、繰り上げ返済により月々の支払額を下げるが、支払い期間は変わらない。そのメリットは、月々の返済額が少なくなることを直ぐに実感でき、家計のローン負担が軽減されることだ。デメリットは、期間短縮型に比べ支払い利息の軽減効果が低いことである。返済額軽減型を選ぶケースは、給与が下がるために月々の支払額を下げる場合や子供の大学進学で子供への出費が増える場合などがある。

次に期間短縮型と返済額軽減型による繰り上げ返済の支払い利息を比較する。

期間短縮型・返済額軽減型の支払い利息比較

繰り上げ返済する場合に、期間短縮型と返済額軽減型での支払い金利の減少効果を比較する。例として3000万円を35年のフラット35で借り入れ、固定金利1.5パーセント、返済方法は毎月の返済額が一定の元利均等返済とすると、毎月の返済額は91855円になる。返済開始から10年後に100万円を繰り上げ返済することにすると、その時点での元金残高は約2297万円になる。

期間短縮型では、毎月の返済額91855円は変わらず、残り返済期間が25年から23年9カ月に短くなる。減少する利息額は約44万円になる。

返済額軽減型では、残り返済期間は変わらず、毎月の返済額が87844円と約4000円安くなる。減少する利息額は約20万円となる。

このケースでは、期間短縮型は返済額軽減型に比べ2倍以上の利息低減の効果が出ることになった。このようにシミュレーションで期間短縮型と返済額軽減型を比較できる。シミュレーションの方法については後半に紹介するので、自分が組んでいるローンで比較してみるといいだろう。なお、このシミュレーションは手数料等を含んでいないため、実際の繰り上げ返済とは金額が若干異なることをご了承いただきたい。

繰り上げ返済で気をつけたいこと

まとまったお金を繰り上げ返済できる場合でも、繰り上げ返済せずに、そのお金を投資に回すという方法もある。繰り上げ返済で減る支払い金利より、投資でそれを上回る利益を得ることができれば、繰り上げ返済よりも投資をした方が良いことになる。しかし、投資には損失を出すリスクもあるため、繰り上げ返済と投資のどちらを選ぶかの判断は自己責任になる。

繰上げ返済は生活資金ではなく、余剰資金で行うようにする。住宅ローンを早く返済したいなどの理由で無理に繰り上げ返済をしては、その後の家計が苦しくなることもある。急な出費のために、手元にはある程度のお金は持っておきたい。手元にあまりお金を持たず、病気や災害などの出費のために別のローンを組んでいては、必要なかった追加の金利を払うことになる。

現時点での家計と余裕資金だけを考えて住宅ローンの繰り上げ返済を考えるべきではない。住宅ローンは長く続くものであり、金銭面での人生設計であるライフプランを元に繰り上げ返済を検討すべきである。ライフプランを忘れて繰り上げ返済を優先して、将来の子供の学費が足りなくなるなどは避けるべきである。

住宅ローン控除にも気をつけたい

繰り上げ返済を行う際には住宅ローン控除にも気をつけたい。住宅ローン控除とは、住宅ローン減税制度により、毎年の「住宅ローン残高の1パーセント」などが10年間、所得税や住民税から控除される。住宅ローン残高は毎年の年末時点の額になる。

繰り上げ返済すると住宅ローン残高が減るため、住宅ローン控除の額も減ることになる。よって、住宅ローン開始から10年目までに繰り上げ返済する際には、住宅ローン控除の減額分も考慮してシミュレーションする。

住宅ローン控除で実際に控除される額は、「毎年の住宅ローン残高の1パーセント」、「所得税+住民税(一部)」、「限度額40万円」の3つのうち最も小さい額が該当する。住宅ローン控除のシミュレーションは、国土交通省の「すまい給付金」Webサイトなどで提供されている。また、各月の住宅ローン残高は次に紹介する「繰り上げ返済シミュレーション」で確認できる。これらの情報を参考にし、住宅ローン控除の期間中に繰り上げ返済した方が良いかシミュレーション可能である。

繰り上げ返済シミュレーションの方法

繰り上げ返済のシミュレーションは、様々な組織や金融機関などによりWebサイト上で提供されている。おすすめは、金融広報中央委員会が提供しているお金の知恵・知識情報サイト「知るぽると」の「繰り上げ返済シミュレーション」である。金融広報中央委員会とは、日本銀行副総裁などが委員に入り、金融に関して暮らしに役立つ広報活動をする組織である。

知るぽるとの繰り上げ返済シミュレーションは、検索エンジンにて「知るぽると」「繰り上げ返済シミュレーション」の2つのキーワードで見つけることができる。使い方は簡単で、当初借入元金、当初借入期間、返済ずみ期間、借入金利、繰り上げ金額、などを入力すれば、繰り上げ返済のシミュレーションができる。

金融機関も繰り上げ返済シミュレーションをWebサイトに用意していることがあるため、住宅ローンを組んでいる金融機関のWebサイトを確認したり、金融機関の担当者などに相談してみるのも良いだろう。

繰り上げ返済シミュレーション比較、一度の返済と分割の返済

繰り上げ返済にて、100万円を一度に返済する場合と10万円を毎年10回返済する場合について、シミュレーションで比較してみる。

期間短縮型・返済額軽減型の比較シミュレーションと同じ条件になるが、3000万円を35年のフラット35で借り入れて2018年1月から返済開始し、固定金利1.5パーセント、返済方法は毎月の返済額が一定の元利均等返済とすると、毎月の返済額は91855円になる。返済開始から10年後以降に繰り上げ返済するとし、その時点での元金残高は約2297万円になる。ここでは期間短縮型を選ぶ。

100万円を10年後の2028年1月に一度に返済する場合は、支払回数が15回(1年3カ月分)減り、支払い利息を約44万円削減できる。

一方、2028年から2037年まで毎年1月に10万円ずつ(計10回)返済する場合は、支払回数が14回(1年2カ月分)減り、約35万円の支払い利息を削減できることになる。

支払い返済は早く行った方が支払い利息の削減効果が高いため、もちろん前者の方が効果は高いが、後者の方が分割のため余裕資金の確保という点では有利である。どちらを選ぶかはライフプラン次第になるだろう。

次に、2028年1月に余裕資金100万円を持っていて、これを10年間の投資で増やし、2038年1月に繰上げ返済する場合を確認する。上のケースと同じ住宅ローンでシミュレーションする。

2028年1月に100万円を投資し年3パーセントの利益で運用すると、10年後の2038年1月には約134万円になる。

ローン返済開始から20年後の2038年1月に134万円を初めて繰り上げ返済すると、約32万円の支払い利息の削減になる。2028年1月に100万円を繰り上げ返済した場合の約44万円の利息削減に比べると、このケースでは10年間投資せずに2028年1月に繰り上げ返済した方が良い結果となった。この比較から、資金を投資で増やしてから繰り上げ返済し住宅ローンの利息削減を狙うには、かなりの投資利益を得る必要があることが分かる。

ここまでいくつかのシミュレーションを紹介してきた。これらのシミュレーションでは、計算しやすい固定金利の住宅ローンを前提にした。もちろんシミュレーション結果は、住宅ローンの金利が大きく影響する。変動金利の住宅ローンを組んでいるのであれば、将来の金利を想定してシミュレーションすることができる。

保有している余裕資金のうち、住宅ローンの繰り上げ返済にどれだけ使うのかは悩ましい問題とも言える。また、期間短縮型・返済額軽減型の選択や、住宅ローン控除の考慮など、繰り上げ返済にて検討することは少なくない。ご自身の家庭のライフプランを元に、繰り上げ返済のシミュレーションを行い、最適と思われる繰り上げ返済プランを検討するのが良いだろう。(松本雄一、ビジネス・金融アドバイザー)