少子高齢化がこれからもますます進んでいくと考えられる今、「どうやって老後の生活資金を準備したらいいのか」という心配は現役世代の共通事項だ。中には、自ら作る年金である「じぶん年金」を検討する人もいる。「じぶん年金」対策としては生命保険や株式投資など様々あるが、中でももっとも関心が集まるのが「不動産投資」だ。一見とても魅力的だが、デメリットはないのだろうか。

不動産投資が年金代わりに見られる3つの理由

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(画像=PIXTA)

不動産投資がなぜ年金代わりとして現役世代の関心を集めるのだろうか。理由は3つある。1つ目は「働かなくても自動的に家賃が入ってくる」という点、2つ目は「うまくいかなくても売却したらまとまった金額になる」という点、そして3つ目は「評価額が下がることで相続対策になる」という点だ。

収入を得るには労働で社会に価値を提供して対価を得るのが一般的だ。しかし、高齢になればなるほど気力体力に限界が出てくる。そんなとき、アパートやマンションの賃貸物件をオーナーとして所有しておけば、自分が高齢や事故、病気などで働けなくなっても自動的に収入が得られるので生活不安はない。

また不動産の売却額は他の動産などに比べて高いので、生活がどうにもならなくなったら売却して資金を得るという方法がある。さらに、相続においては現預金より不動産のほうが評価額は低い。そのため、より少ないコストで子や孫に資産を譲ることができる。

これ以外にも、株価や為替の影響を受けにくいところ、財務諸表などを読んだり日々のニュースを追ったりする必要がないこともメリットとして挙げられるが、。メリットばかりではない。メリットばかり見ていると、次のような落とし穴にハマるおそれがある。

落とし穴1 人口の減少など将来の動向を考えていない

以前から不動産は主流の投資手段の一つとして考えられてきた。しかし、それは、子どもが増え、それなりに人口がいた時代の話だ。もっというと、国内のGDPが年々上昇し、日本経済が活発であった時代の考え方である。

2015年時点での合計特殊出生率は1.45となっている。加えて、平均寿命は2016年で女性87.14歳、男性80.98歳となっている。人口比率で見ると、2016年時点で0~19歳が約17%、20歳~64歳が約57%、65歳以上が約26%となっている。そして日本全体の人口は、2010年以降、毎年30万人超ずつ減少している。そして既に日本の経済は成熟過程に入った。イノベーションがない限り、今後も産業の衰退は避けられない。

以上のことを考慮すると、将来は次のようになると見られる。

  • さらなる高齢化及び介護の懸念、税金及び社会保障負担から、結婚・子育て世帯が減り、結果、少子高齢化が一層進展すること
  • イノベーションなどで労働の需要が増えたとしても、AIなどのロボットあるいは外国人労働者に頼らざるを得ないこと
  • 家賃軽減のため、親と同居あるいはシェアハウス傾向が増加すること

「シェアハウスとしてのニーズがあるじゃないか」と言われそうだ。確かにうまくやればシェアハウスでの賃貸収入が老後を潤わせてくれるかもしれない。しかし、シェアハウスは通常の賃貸物件と異なり、コミュニティの入居となる。つまり、アパートよりもトラブルが頻発する可能性が高く、その解決に手間をかける必要が高くなる。労力がかかる上、全体としての人口減であるため、「じぶん年金用のラクな投資」とは言いがたい。

今後の景気や不動産需要の動向は誰にも正確には読めない。2020年のオリンピックで一時的に需要が上がったとしても、その後は誰にも保証できない。覚悟もないままに、不確実性の高いものに自分の老後をゆだねるのは危険だ。

落とし穴2 成功談やブローカーのうたい文句にだまされる

「不動産収入をじぶん年金に」と考えるそもそものきっかけに、不動産収入の成功者の成功談やブローカーのうたい文句がある。「資産ゼロで年間1000万円の家賃収入をゲット!」と言われれば、「じゃあ自分にもできるかも」と人は思う。預貯金の利子がほとんどつかない現代において、利回りが数%だと言われれば、「資金を寝かせてはもったいない」と感じるものだ。

ただし、ここで注意したいのは「おいしい話は珍しいからこそおいしく見える」ということだ。おいしい不労所得の実現を「誰もが」「カンタンに」「当たり前に」できるのなら、そもそもおいしくは見えない。確率が低く、困難だからこそおいしく見えるのだ。

例えば、「利回り8%、2250万円のローン返済済み物件を購入すれば毎月15万円の不労所得が確保できる」といううたい文句を考えてみよう。理論通りにできれば文句なしだが、現実はそうはいかない。空室リスクを考慮すると、実際には4~5%がせいぜいだ。それすら当てはまらない物件も多い。また、先述の通り、先のことは読めない。つまり、毎月15万円の家賃が35年後もあるとは限らない。人口が減少し、空室が多数発生した場合には家賃を下げざるを得ないこともある。

また「家賃保証があるから空室があっても大丈夫ですよ」という言葉にも要注意だ。家賃保証は、今後ずっと毎月の家賃を保障してくれるものはまずない。大抵は、一定期間、空室が発生した場合には、期間経過後に家賃を下げる旨の条項が契約書に盛り込まれている。さらに、すぐに家賃保証分が支払われるわけでもなく、免責期間を設けてあることも珍しくない。ブローカーは巧みに自分たちが損しない仕組みを用意している。

さらに、成功談についても鵜呑みにしないほうがいい。なぜかというと、その人が現役世代のときに成功したものについて書かれているだけで、老後の生活にまで触れているわけではないからだ。また、「実は親から贈与があった」「副業収入がそもそもあった」など、あまり書きたくない話は書かれていないケースがある。成功は一発逆転でできるものではない。投資やビジネスの勘を磨いてきたという下地があるからこそなせるものだ。

落とし穴3 固定の経費が掛かりすぎる

賃貸の運営成績と関係なく、毎月経費がかかる。管理費、修繕費、固定資産税、ローンの支払利息などだ。おおよそ、賃料収入の約20~30%を占める。

これ以外にも、物件のほとんどは10年に1度大規模修繕が必要となる。修繕積立金をしていても不足する分は現金を支払わねばならない。

ただし、上記の項目はあくまでも「経営の成績表」である損益計算書だけの項目だ。実はこれ以外にも現金が出ていく。ローン返済と修繕積立金だ。これらの支出を上回る家賃収入が得られればいいが、そういう物件に出会うことこそ難しい。不動産賃貸はローン返済が完了してやっと黒字になることが多い。

「不動産には減価償却というキャッシュを伴わない経費があるので、運用はラクですよ」という誘い文句を見かけるが、これはあくまでも黒字での話にすぎない。減価償却は税金というキャッシュフローを抑える効果しか持たないからだ。減価償却以前にすでに赤字ならば、減価償却はそもそも役に立たないことを肝に銘じよう。

落とし穴4 相続リスクを考えていない

「不動産は評価額制度のおかげで現預金よりも相続税が安くつく」--。

中には、このようなコピーで不動産投資を考えた人もいるかもしれない。確かに、土地や建物は評価制度のおかげで現預金を相続するより安くつく。ただし、それは「相続の時点」だけの話だ。その後の相続人たちの生活や目に見えないリスクまでを考慮していない。

まず、土地や不動産を相続する場合には、相続登記などの手間がかかるほか、固定資産税などがかかる。相続人が不動産を負担に感じて売却したら所得税が課税される。

さらに注意したいのが“目に見えないリスク”だ。子が複数いて、平等に分けないと不平不満が出る可能性がある場合、共有持分という方法で相続させることがある。これは一次相続ならまだいいが、二次相続や三次相続、つまり孫やひ孫の世代で相続が繰り返されると、相続人同士が「他の持分を誰が持っているかも分からない」状態に陥ることがある。

そうなると困るのが「譲渡したい場面」だ。共有持分の不動産は、共有者全員の同意がないと譲渡ができない。顔の知らない共有者が相続登記を怠っていた場合、あるいは共有者同士が険悪な仲である場合には、たった一人が同意しないために、他の共有者が不動産に縛られることになる。

相続は子や孫の幸せにつながるものであることが理想だ。その点から考えると、不動産を所有するということは、一人だけの問題で終始させてはいけないのである。

落とし穴5 売りたくても買い手がいない

現時点で発生し、今後も問題かすると思われるのが「不動産を売りたくても売れない」問題だ。所有者不明の土地がもはや九州全土を上回るほどの面積に達した今、不動産は「『負』動産」、つまり所有者を苦しめる負の財産と言われている。所有者不明の土地の多くは農地や山林など、都心部の人間が管理するには負担が大きい不動産が中心だ。しかしこの話は、アパートやマンションの持ち主である投資家にも無縁ではない。

今後もさらに少子高齢化が進み、人口減少が続くとなれば、現時点で活況を呈している地域も30年後には不況となっているかもしれない。そして、若い世代になればなるほど「持ちたがらない」傾向にある。管理の手間や固定資産税などのコストがかかることを嫌うのだ。これには実収入に占める非消費支出(税金、社会保険など)の割合が20%近くある現在の家計の状況が背景にある。今あるお金をなるべく現預金や形のない資産で残しておきたい現役世代は、どんなに安くても土地や建物を買おうとしない。

「やっぱり不動産は管理が大変だし、売りたいな」と思ったときに、買い手がいない。いなければ自分で固定資産税を払い、管理を続けていくしかない。現代における不動産の最大の難点は「やめたくてもやめられない」ことにあるかもしれない。

落とし穴6 高齢リスクを考えていない

不動産投資を検討しているのは大抵20~50代だ。特に人間は40歳を境に老後を考える傾向にある。そして、40代や50代はまだまだ体力があり、思考力が冴えている時期だ。ただ、この体力や思考力が30年後や40年後、同レベルであるとは言いがたい。むしろ動いていない可能性が高い。

一方、「不労所得」のコピーで売り込まれる不動産運営は、現実には完全不労所得とは言いがたい。物件の判定には時間をかけて足も頭も使わなくてはならない。運営していくにはそれなりに現金支出が伴う。入居者がいたらいたで、修繕やトラブル解決に体を動かす必要がある。さてそれを、60歳、70歳過ぎた後にもできるだろうか。

自身の気力体力が低下したり、あるいは病気や事故で動けなくなったりしても代わりに不動産の運営を担ってくれる子や孫、友人などがいるなら話は別だが、そうでない場合には、高齢リスクをも検討材料にしたほうがよいだろう。

不動産の定期的な収入は、支給年金の目減りが確実な現役世代には非常に魅力的に見える。ただし、魅力的ということは、その分デメリットが見えていない心理状況をも表している。メリット・デメリットの両方をじっくり検討した上で、今後投資対象とするかどうかを考えていただきたい。

【訂正とお詫び】 掲載当初、「土地や不動産を相続する場合には、不動産取得税が掛かる」と記載(本文、落とし穴4)しておりましたが、正しくは「非課税」になります。読者、関係者の皆様には適切な確認がなされないまま記事を公開したことをお詫び申し上げます。

鈴木 まゆ子
税理士、ライター、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年税理士登録。外国人の日本国内での起業支援に従事。会計や税金、仮想通貨に関する話題についての記事執筆を行う。税金や金銭、仮想通貨、お金に関する心理学についても独自に研究中。共著『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)