あなたのスキルは、今の会社でしか通用しないかも!?

柴田励司,40代,スキル
(画像=The 21 online)

38歳で外資系コンサルティング会社社長に就任、40代ではカルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COOなどを歴任した柴田励司氏。柴田氏は、ビジネスマンにとって必要なスキルは大きく分けて3種類あり、40代以上ではそのうち2つを磨くべきだと話す。詳しくうかがった。《取材・構成=塚田有香、写真撮影=吉田朱里》

人を動かし、チームで成果を出すことを考えよう

38歳の若さで、外資系コンサルティング会社の日本法人社長に就任した柴田励司氏。その立場のまま迎えた40代は、自身の働き方や生き方を大きく転換した時期だったと振り返る。

「私は四十歳のとき、過労で倒れました。30代で社長になったため、自分より年上の人や経験が長い人からも認めてもらうには誰よりもたくさん働くしかないと考え、過剰なハードワークを続けたことが原因でした。 幸い後遺症もなく、仕事に復帰することができましたが、この経験から『若い頃のように勢いだけで突っ走っていてはダメだ』と痛感しました」

40代は、周囲の人たちとの向き合い方を変えなくてはいけない時期でもある。

「40歳の頃の私は、社員のほぼ全員からノーを突きつけられるほど、ダメダメな社長でした。『瞬間湯沸かし器』とあだ名がつくくらい怒りっぽく、『とにかく言う通りにしろ』というタイプ。だから、社員もたくさん辞めていきました。そうやって痛い目を見た末に、『自分を見直すべきだ』と悟ったのです。 そして自らを変えるため、まずは二つのことを実践しようと決めました。

一つは、メールに率先して返信しないこと。以前の私は、『To:役員各位』などの同報メールでも誰より早く返信し、自分がすべてを掌握しないと気が済まなかったのです。しかしこれでは、周囲の人たちが『どうせ柴田さんがやるだろう』と考えて、常に上からの指示待ち状態になる。その結果、チームの仕事も停滞すると気づきました。

もう一つは、余計な会議に出ないこと。呼ばれもしない会議にまで乗り込んで行って、場を仕切るのはやめました。

こうして私が『やらないこと』を増やせば、それは周囲の誰かがやることになる。それでいいのです。若手の頃は、自分がパフォーマンスを出すことに集中すればいい。でもリーダーや管理職になれば、『周囲の人をいかに動かし、チームとして成果を出すか』を考えるべきです」

自分が仕事を手放せば管理職として評価される

こうして周囲に仕事を任せてみると、様々なメリットがあることに気づいたという。

「重要なプレゼンの提案書も、思い切って部下たちに作成を任せたら、私とは違う芸風のアウトプットが出てきて、しかも私一人で考えるより良いものが出来上がった。部下が自分でやるしかない状況を作ったからこそ、上司の私にはない個性やアイデアを発揮できるようになったのです。仕事を任せれば、必ず人は育つということです。

部下が成長すれば、上司の自分もラクになる。しかも『あの人の下では優秀な人材が育つ』と評判になり、リーダーや管理職としての評価も上がります。上司が仕事を手放せば、自分にもいいことがあるんですよ」

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(画像=The 21 online)

「特定スキル」だけに依存していないか?

人事組織の専門家である柴田氏は、企業の幹部候補や管理職を対象に研修をすることも多い。そこで目の当たりにするのが、必要なスキルやマインドが身につかないまま、四十代を迎える人が多いという現実だ。

「働く人のパフォーマンスは、『特定スキル』『ポータブルスキル』『心の持ちよう』の3層から成り立っています。

特定スキルとは、特定の会社や組織で仕事をするために必要なスキル。ポータブルスキルとは、どんな会社や業界、職種でも必要となるスキルです。心の持ちようとは、人間性や人としての器だと考えてください。

20代のうちは、会社で与えられた仕事を一生懸命やって、特定スキルを身につければいい。しかし、30代から40代は、意識してポータブルスキルを鍛える必要がある。さらに40代から50代は、心の持ちようが伴わなくてはいけません。

ところが、大企業で出世してきた人ほど、ポータブルスキルが身に付いていない。組織が大きいと、個人がやることもマニュアルやフォーマットで細かく決められ、言われた通りにやれば仕事をこなせるからです。

しかし今は、どんな大企業でも、組織の統廃合やリストラが行われる可能性はある。その時、特定スキルに依存している人は、行き場を失うことになります」

部下と話をする時に相手の顔を見ているか

代表的なポータブルスキルとは、次のようなものだ。

「議論をまとめ、納得させるファシリテーションスキル。相手の表情を読み、表情で語るスキル。聞き手を惹き込むプレゼンテーションスキル。わかりやすい文章や資料を作るスキル。情報を整理し、構造化するスキル。最低限この五つが身につけば、どこでも仕事ができます。

これらのスキル自体は基礎的なものであり、適切なトレーニングをすれば、誰でもできるようになります。たとえば『相手の表情を読む』も、高度な読心術を学べと言っているのではなく、『相手の顔を見て会話する』という基本的なことをやればいいだけ。でも実際は、報告する部下の顔を見ずに、資料ばかり見ている上司がいかに多いか。

プレゼンテーションのスキルにしても、『一分間で自分の考えをスピーチしてください』と言われると、何をどう話していいかわからず、しどろもどろになってしまう。心当たりがある人は、大至急ポータブルスキルを磨く訓練をすべきです」

「五つの心の持ちよう」が40代以降の成長の鍵

加えて「心の持ちよう」が、40代以降も自分を伸ばしていけるかどうかに大きく影響する。

「私がいつも勧めているのは、五つの心の持ちようです。

一つめは、自分の心に素直に動く。もし職場のゴミ箱が一杯になっていたら、『自分は今忙しい』『これは若手がやるべきだ』などと言い訳せず、素直に自分がゴミを捨てればいい。自分がやらないことを正当化する人は、『ポータブルスキルを身につけましょう』と言われても、やはり同じように言い訳して、結局やらないまま終わるでしょう。

二つめは、自分以外は全て『師』と考える。よく店員やタクシーの運転手に横柄な態度をとる人がいますが、どんな場面や相手からでも必ず学ぶことがあると考える謙虚さを持つべきです」

三つめは、「執着ではなく執念」。自分の考えに執着するより、目的のためなら何でもするという執念を持つべきということだ。

「執着が強い人は、意見が異なる相手を論破しようとします。しかしチームとして良いものを生み出すためなら、たとえ大嫌いな相手の意見でも取り入れようとする執念を持てる人こそ、器が大きいと言えます。

四つめは、理と情のバランスをとる。人とのコミュニケーションでは、理より前に情が来る。最初に相手を『好きだな』と思えれば、その後の説明が多少合理性に欠けても許せるもの。逆に、完璧に筋の通った説明でも、相手との信頼関係がなければ納得してもらえません。

五つめは、レジリエンス。『折れない心』や『へこたれない心』を意味します。落ち込むことやうまくいかないことがあっても、すぐ立ち直れる人なら何度でもやり直せるし、成長できます」

人とのつながりが人生後半には重要になる

50代を迎えた今、柴田氏は「40代の過ごし方が、以降の人生を決める」と実感している。

「私が40代でやってよかったと思うのは、人脈作り。これは単なる名刺集めではなく、何かあった時に、電話一本でお願いごとや相談をし合える人をどれだけ作れるかという意味です。

そのために実践しているのが、自分の知り合い同士をつなげること。『あの人とあの人を会わせたら面白そうだな』と思ったら、すぐ紹介します。ここで『この人脈を営業に役立てよう』などとは考えない。すると、利害関係のない純粋な人と人とのつながりが広がり、それが今では私の大きな財産となって、ハッピーな五十代を送っています。

今後は、70歳まで働くのが当たり前の時代になるでしょう。つまり40代は、長い人生の通過点にすぎない。50代や60代が楽しくなるか、それともつらくなるかは、この十年の過ごし方次第。だから今こそいったん立ち止まり、自分の棚卸しをして、足りないものを身につけてもらいたいと思います」

「ポータブルスキル」の代表例

・議論をまとめ、納得させるファシリテーションスキル
・相手の表情を読み、表情で語るスキル
・聞き手を惹き込むプレゼンテーションスキル
・わかりやすい文章、資料を作るスキル
・情報を整理し構造化するスキル

「心の持ちよう」の代表例

1 自分の心に素直に動く
「これはやったほうがいい」と思ったら、素直に行動に移すこと。「このスキルを勉強したほうがいいな」と思っても、「そんな時間はない」「若い人に交じって学ぶのは恥ずかしい」などと言い訳をして、結局やらずに終われば、自分を変えることはできない。

2 自分以外は全て『師』
「いつでも、誰からでも学ぶべきことはある」という謙虚な姿勢を持つこと。肩書きがある人ほど他人に上から目線で接しがちだが、そうしたおごりは捨てて、どんな相手と接する時も何かを学ぼうとする人ほど器が大きくなる。

3 執着ではなく執念
自分の立場や考えに執着する人は、反対意見を出されると、自分が否定されたように感じて相手を攻撃しようとする。だが、本当に大事なのは、何のために議論や話し合いをしているか。その目的を達成するためなら何でもするという執念が、個人的な執着を上回る人間であるべき。

4 理と情のバランス
相手に何かを理解してもらいたい時は、合理的な説明と情熱的な訴えのどちらも必要だが、順番としては先に“情”があり、その次に“理”があると考えるべき。いきなり理詰めで説得しようとするより、まずは信頼や好意などの感情を相手に持ってもらえるよう心がけたい。

5 レジリエンス
ボールがぎゅっと握りつぶされても、また元の形に戻るように、気持ちがへこんでも立ち直れるだけの“心の弾力性”を持ちたい。折れない心があれば、失敗から学んで次に生かすこともできるので、何歳からでも自分を成長させることができる。

柴田励司(しばた・れいじ)〔株〕Indigo Blue代表取締役会長
1962年、東京都生まれ。上智大学文学部英文学科卒業後、〔株〕京王プラザホテル入社。1995年、マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング〔株〕(現・マーサージャパン〔株〕)入社。2000年。同社日本法人代表取締役社長に就任。2007年に退職したのち、〔株〕キャドセンター代表取締役社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ〔株〕代表取締役COOなどを歴任。2010年、〔株〕Indigo Blueを設立し、代表取締役社長に就任。著書に『遊んでいても結果を出す人、真面目にやっても結果の出ない人』(成美堂出版)など。(『The 21 online』2018年1月号より)

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