人生の選択肢を広げる「大人の勉強法」

坪田信貴(学習塾「坪田塾」塾長)
(画像=The 21 online)

長寿化および定年延長により、誰もが70歳近くまで働く時代。そんな中、自由な働き方を実現するために、キャリアや人生の選択肢を広げる「大人の勉強法」を、カリスマ塾長の「ビリギャル先生」こと坪田信貴氏が解説する『どんな人でも頭が良くなる 世界に一つだけの勉強法』。最終回を迎える今回は、勉強を継続するためのモチベーションの保ち方をご紹介。「勉強するのが面倒くさい」と挫折しがちな人も、「続けられる人」に変わるヒントが満載だ。

「遠くのステーキ」よりも「近くの牛丼」

「勉強とは何か」という話から始まり、個人の成長プロセス・勉強法の見つけ方・個々の性格に応じた学び方──と多岐にわたって語ってきた本連載も、ついに最終回。最後は、せっかく始めた勉強習慣を継続させる方法についてお話ししましょう。

モチベーションが高くても、方法論がしっかりしていても、ふとしたことがきっかけで勉強が続かなくなることは多々あります。なぜなら人は本来、とても怠惰な生き物だからです。

「何をやっても長続きしない自分は、なんて意志薄弱なんだ!」などと嘆く必要はありません。人は怠惰であり、自分は人であり、従って自分は怠惰である、と3段論法でキッパリ認めてしまいましょう。それを認めるからこそ、怠惰さを一ミリ変えることができる──つまり、「怠け者でも継続する工夫」を実践できるのです。

それらの工夫の中で、まず覚えておいていただきたいのが、「遠くのステーキより近くの牛丼理論」(坪田命名)です。

家からも会社からも遠いステーキの名店より、徒歩五分の牛丼屋さんが魅力的に見える。遠距離恋愛の大事な彼女よりも、毎日顔を合わせる優しいあの娘のほうにほだされてしまう……。そんな経験は、誰にでも覚えがあるでしょう。このように、モチベーションは距離に反比例します。価値を感じているものでも、遠いところにあれば手近なもので手を打ちたくなるのです。

これもまた、怠惰なる人間の悲しき性。人は「面倒くさい」という理由ひとつで、大事なものに対していとも簡単に背を向けてしまうのです。学ぶ意欲はあるはずなのに続かない。そんな人にとって、勉強は「遠くのステーキ」です。つまり、「面倒くささ」をどれだけ取り除けるかが、勉強を継続できるか否かの分かれ道だとわかるでしょう。

「アフォーダンス」で面倒さをコントロール!

つまり、勉強を継続するには、遠くのステーキを「近く」にする一方、近くの牛丼を「遠くに」追いやる必要があります。ここで鍵となるのは「アフォーダンス」という認知心理学の用語。人をある行為に誘導する環境を意味します。

たとえば目の前にテレビがあり、手元にリモコンがあるとします。すると、そのリモコンは「このテレビをつけるための道具だ」と認識することでしょう。

さて、そう思ったあなたは、次にどうしたくなりますか? 当然、勉強を放り出し、テレビをつけたくなるはず。これがアフォーダンスです。このとき、テレビはまさに「近くの牛丼」。これが目の前にあっては、いつまでたっても「遠くのステーキ」に目を向けることができません。

こうした「ダメなアフォーダンス」を一つひとつシャットアウトしましょう。リビングの正面にテレビがあり、その向かいにソファ、すぐ手の届くところにリモコンが置いてあるなら、リモコンを戸棚に入れる、テレビを壁に向ける、ソファの居心地を悪くするなど……。

同じく、「勉強の途中ですぐ漫画を読んでしまう」人なら、本棚から全部漫画を取り出して段ボールに詰め込んで押し入れへ。誘惑の元を、すべて「遠くのステーキ」にしましょう。

逆に、勉強に関わるものにはアフォーダンスをたくさん仕掛けること。筆記用具やテキストは、手を伸ばせばすぐに取れるところに置くのが基本です。

なお、「テレビ完全禁止はさすがに辛い」という人は、「テレビのそばに、暗記したいことをマジックで書いた紙を貼る」という方法がお勧めです。少し視線を移したところに覚えるべきことが書いてあれば、合間にすぐ勉強できます。その際、「CMのたびに声を出して読む」などのルールを作ればさらにベター。

勉強の面倒くささをミニマムにするこの方法はほかにも、「トイレ」「キッチン」「ベッドの上の天井」など、あらゆる場所で活用できます。ぜひ、家の中を貼り紙だらけにしてみてください。

「日記が続く人」は勉強も成功する

もう1つ、「面倒くさい」気持ちを軽減するのに有効なのが、義務感のリセットです。人は「?しなければ」と思った瞬間、セットで「面倒くさい」が発生し、心を縛ります。

これを取り除く工夫をするうえで参考になるのが、「日記」です。「日記を毎日つけられる人は、成功しやすい」と僕は思っています。日記とは、いわば自分の行動の記録。それを振り返って行動を改善し続ければ、非常に強力な自己成長ツールとなり得るからです。

ところが実際は、多くの人が三日坊主で放り出しがちですね。その挫折のきっかけはというと、「出張先に日記帳を持っていくのを忘れた」「1日空いてしまうと嫌になって、やめてしまった」などがよくあるケースでしょう。

日記を続けられる人は、手元に日記帳がなくても平気です。ホテル備えつけの便箋や、レストランの紙ナプキンなどに書いて、帰宅してから日記帳に貼ればいいと考えるからです。つまり「?しなければ」といった義務感とは無縁なのです。

対照的に、日記が続かない人は「~しなければ」を作り過ぎ。「このペンを使わないと」「毎晩寝る前には必ず書かないと」などと考えるのはムダ。書く道具など何でもいいし、朝に書いたっていいのです。

「面白いことを書かないと」という思い込みもナンセンス。「今日は書くことがない」と思って頭をかかえていては、そのうち億劫になるだけ。そんな日は「特になし」や「昨日と同じ」と書いておけばOKです。

記録というものは、ありのままのことを、ただ書いていくことです。たった一言だけの記述でも、貴重なデータです。五年後に読み返したとき、「この時期は平坦だったんだな」「毎年5月ごろは、いつもこうだ」などの発見ができます。

勉強についても同じことが言えます。「机の前に座ってやらなくては」「このノートを使わなくては」などと考え出すと、その条件が満たせないときに、身体が止まってしまいます。

トイレの中で勉強してもいいですし、ノートがなければチラシの裏で代用すればいいのです。学びに関連することを、とにかく何かしてみる。それを毎日少しずつ続ければ、振り返ったときに膨大な勉強量となっているはずです。

あなたが一生かけて続けたいことは何ですか?

以上、「日々の継続」のコツをお話ししてきました。

この小さな継続の先に、「一生をかけて学ぶ姿勢」が形成されます。皆さんが、一生かけて追い求めたいテーマはなんですか?それは、社会人として「いかにいい仕事をしていくか」という問いでもあるはずです。

僕は、「いい仕事」の条件は以下の3つだと考えます。①「ワクワクできること」②「儲かること」③「社会貢献になること」。

これを踏まえて、さらに考えてみましょう。このうちの「2つしかない状況」を見て、「どうしたら3つ揃うか」を考えることは、学びとビジネス創出のチャンスになります。

たとえばある人が、「『引きこもりゼロ』の世の中」を切望したとします。この場合、ワクワク感と社会貢献の要素は揃っていても、儲かるノウハウはまだありません。ならばその人は、それを見つけるために背景を調査し、事例を探し、専門家に聞くことになります。つまり、そこから学びが始まるのです。

この3つのうち、最終目的になるのは「社会貢献」です。ワクワクは原動力であり、金銭は継続の手段。この2つを通じて実現する究極の目的こそが社会への貢献です。もしあなたが、「自分さえ成功すればいい」と思っているとしたら、むしろ成功の機会を逸する恐れがあります。

僕は学生時代を「個人主義の国」と言われるアメリカで過ごしましたが、あの国で学んだのはむしろ、「経済合理性を追求すると個人主義では駄目」ということでした。自分の成功のみを考える個人も企業も、意外に早く限界を迎えるのです。ライバルを蹴落とすような人や組織は、信用されないからです。

対して、一生成功し続ける人は「人のために」働く意識を持っています。だからこそその人の周りには多くのファンや協力者が集い、結果として偉大なことを達成できるのです。「他者実現」は自分の成長につながる

これは、連載を通じてお話ししてきた「個人の成長」の究極目標でもあります。

成長というテーマを考えるうえで、よく引用されるのが「マズローの欲求5段階説」。人間の欲求は「生存」から始まり、それが満たされれば「安全」、つぎに「所属」……というふうに、成長とともにレベルを上げていき、その最高レベルが「自己実現」である、という説です。

この最上部まで上った人は、「他者実現」を目指し始めるのではないでしょうか。

僕自身も、教育に携わることに幸福を感じ、その意味では自己実現を日々果たしていますが、それは決して「ゴール」ではなく、今も、挑戦の途上です。人の自己実現をサポートしたいと願い、そのために必要な知識を得るべく学び続けています。

しかし、実は僕自身も塾講師になるまでは「自分が一番でいたい」タイプでした。自分の能力を高めることにしか興味を持ちませんでした。そんな僕でも、この仕事について「人の夢をかなえる」ことで、自分も成長できたのです。

現時点で「自分のため」しか考えられない人も、今はそれでいいと思います。しかし、物事を学ぶときや仕事をするときに「これを誰のために役立てられるか」と考えることだけは忘れないようにしましょう。成長の階段を上るたびに、大きく、しかも明確なイメージを持ち始めるはずです。

それが皆さん一人ひとりの人生と、この世の中をもっと良いものにしていく未来を、願ってやみません。

どんな人でも頭が良くなる 世界に一つだけの勉強法
(画像=Webサイトより)
『どんな人でも頭が良くなる 世界に一つだけの勉強法』

坪田信貴(つぼた・のぶたか)学習塾「坪田塾」塾長
心理学を駆使した学習法により、1,300人以上の子供を個別指導し、多くの生徒の偏差値を短期間で急上昇させた実績を持つ。2013年、著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)が大ヒット。その後も受験指導のみならず、企業の人材教育や起業アイデアの指導、講演活動等多角的に活躍中。(取材構成;林加愛)(『The 21 online』2017年12月号より)

【関連記事 The 21 onlineより】
最速最短で試験に 合格する「ずるい暗記術」
千葉雅也 著者に聞く『勉強の哲学』 
東大首席・山口真由が教える「7回読み勉強法」とは?
ベストな方法がわかる!「9タイプ勉強法」
40代からでも取っておきたい「資格」