シンカー:2018年初から金融市場は激しく動いている。年初の堅調な米国経済統計は、金融市場の楽観を強め、グローバルに株高・金利上昇が続いた。しかし、米長期金利が3%へ近づくにつれ、グローバルに高金利による景気後退懸念が強まり、グローバルに株式市場は大幅に下落した。マーケットは引き続き、堅調な経済・物価統計を背景に、欧米の中央銀行は淡々と金融政策正常化へ向けて進むと見ているようだ。一方で軟調なマーケット環境が続き、実体経済に悪影響が出始めることも懸念され始めている。中央銀行が景気後退を懸念しすぎ、緩和政策を長期化させると、景気過熱につながる可能性が高まり、金融市場に望まないインパクトを与える急激な金融政策の引締めを行うリスクも高まるだろう。今後、欧米の政策関係者は短期的な金融市場のボラティリティの対応と中長期的に安定したマクロファンダメンタルスの維持をバランスしながら、政策変更へ踏み切ることになるだろう。日銀は2%の物価安定目標までまだ距離があることを理由に大規模な緩和政策を継続することになると考える。グローバルに金利が上昇し始めると、誘導目標を維持するためにも、日銀は国債買入を増やす必要が出てくるだろう。黒田総裁の再任は現行の緩和政策の継続の可能性を高め、金融政策スタンスの違いは日米実質金利スプレッドの更なる拡大につながるだろう。日米実質金利スプレッドの拡大は円安の力となり、物価上昇率を加速させ、日銀が2%の物価上昇率達成の可能性が高まったと判断し、2019年にかけて金融政策の変更につながるかが注目だ。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

金融政策見通しの変要

FOMCは2018年に3回の利上げ(3月、6月、9月)を予想。しかし、年後後半にはインフレ率が減速する可能性から、2018年利上げ回数が2回になるリスクがあることを指摘。トランプ大統領は次期FRB議長にパウエルFRB理事を指名し、米議会で承認された。また空席のFRB理事のポストのひとつにグッドフレンドカーネギーメロン大教授を指名した。トランプ大統領は今後、更に3名、空席のFRB理事のポストに任命できる。しかし、タカ派的な人物が任命されても、政策への短期的なインパクトは限定的と考える。

ECBの次の注目点は「ECBがQEを2018年9月に終了できるのか、それとも再延長が必要になるのか」との見方を維持。ユーロ圏の景気拡大は引き続き堅調である一方、インフレ見通しが強まらず、また、資産買入プログラムの過度な縮小を避けるためにも、APPは月額150億ユーロで少なくとも(2018年9月から)3カ月延長される可能性がある。初回利上げ時期は2019年6月との予想を維持。ただ、2019年後半に米国がリセッション入りして、ユーロ圏金利のさらなる正常化の妨げになるだろう。

日銀は引き続き、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続けるだろう。持続的な物価上昇が可能な環境が整ったことを確認後、2019年にかけて長期金利の誘導目標が引き上げられるだろう。黒田総裁の再任が有力視され始め、現行の緩和政策が維持される可能性は高まっただろう。

英国銀行2月発表のインフレレポートでBOEの金融政策委員会は今年中に金融引き締めを進める意向を繰り返し確認した。これを受け、BOEは今年の 8 月に25bp 利上げが実施されると予想する(2018年は利上げが無いとの従来予想から変更)。また、2019 年 2 月に、更に25bpの利上げへ踏み切るだろう。

米国(Fed)

FFレート(予想: 2018年は3回の利上げを予想):

2018年には3回の利上げ(3月、6月、9月)を実施し、FFレートの誘導目標は2.00%-2.25%になると予想する。1月のFOMCの声明でも利上 げを徐々に進めていくというガイダンスが維持された。2018年前半は米国景気が着実に拡大するなか、失業率は緩やかながらさらに低下し、インフレ率も改善すると考える。FRB堅調な景気拡大を背景に3月と6月にそれぞれ25bpの利上げを実施するだろう。また9月にもう一度25bp利上げがあるとも予測している。しかし、2018年後半にインフレが下振れると、年間の利上げが(3回ではなく)2回となる可能性が生じる。

FRBの政策担当者の大半は、2017年初にインフレが弱かったことは一時的であることが後々明らかになり、2018年にはインフレに上方圧力がかかる、という考え方を維持しているだろう。2018年前半にインフレが力強さを増すのは、基調的なインフレ圧力の高まりではなく、ベース効果によるものと考える。しかし、コアインフレ率が堅調になることは、FRBの見方と一致していることが、利上げに踏み切る理由となるだろう

2019年後半から景気減速を予想しているため、FFレートのピークは2.00-2.25%(2019年上半期)と予想し、その後Fedは利下げへ動くと予想。市場予想とFOMCの予想は一致し、徐々に利上げに動くと見込まれている。

FOMCメンバーの交代(予想:2018年はタカ派色が強まるが、過度にタカ派になることは無いだろう)

パウエル次期FRB議長は、イエレン議長の方針を継承し、FRBが提示した金利ガイダンスを維持して、SOMAポートフォリオ縮小を継続するだろう。規制面では、財務省との協働でドッド・フランク法の見直しの意向を強める可能性がある。また、空席になっているFRB理事のポストのひとつにマービン・グッドフレンドカーネギーメロン大教授が指名された。グッドフレンド氏はルールに基づくアプローチをとる傾向が強いという評判で、政策決定の透明性は高まるだろう。

FOMCのメンバー構成は、2018年にはタカ派色が強まる。非常にハト派だった地区連銀総裁(シカゴ連銀エバンス総裁、ミネアポリス連銀カシュカリ総裁)が、よりタカ派的な地区連銀総裁(クリーブランド連銀メスター総裁、リッチモンド連銀バーキン総裁)に交代するだろう。昨年末にリッチモンド連銀総裁に任命されたバーキン氏はまだ政策に関する演説を行っていなく、政策スタンスが明確でない。学者出身のエコノミストでない同氏は、少なくとも当初は、伝統的にタカ派的なリッチモンド連銀スタッフの見方に強く左右されタカ派的なスタンスをとる可能性がある。

また、ニューヨーク連銀のダドリー総裁は、2018年春に退任すると示唆したているため、来年のいずれかの時点で新総裁を探すことになるだろう。ダドリー氏はイエレン議長、フィッシャー・前副議長とともに、FOMCの意思決定の中心だったことから、この3人の退任は非常に重要だろう。今後、FRBが大きく変わるとは見込んでいないが、非常に多数の変化が控えていることは確かだ。

トランプ大統領は比較的タカ派的な3氏を空席のFRB理事のポストに指名する可能性もある。しかし、政策スタンスへの具体化は2018年を通じて時間をかけて進むことになるため、政策への短期的なインパクトは限定的だろう。新任理事は、経済、ひいては政策に対する見解がまとまるまでは議長と同じ立場をとる可能性が高い。トランプ大統領にはFRB理事を再編する機会はあるが、2018年中にFRB理事の打ち出す政策が過度にタカ派的になることは無いだろう。

FEDバランスシート縮小(予想:マーケットへの影響が限定的な縮小を継続)

FRBの米国債ポートフォリオは、10月から(2年物と5年物国債を中心に)縮小し始めた。月々の縮小額上限をFRBは発表しているが、10月は(米国債に関しては)60億ドルで始まった。FRBは、米国債60億ドル、MBSは40億ドルのポートフォリオ縮小が可能になっているが、金融市場は強く反応していない。スタートは控えめで、リードタイムを長く取って透明性を確保することによって、テーパー・タントラムの再来は避けられている。FRBや他の中央銀行の資産買入れは、タームプレミアムの引下げまたはマイナス化を通じた金利引下げと見なされてきたが、(保有資産の)償還に関するFRBの発表を受けたタームプレミアムの動きは、今のところは非常に限定的だ。

ユーロ圏(ECB)

金融緩和政策(予想:次の注目点は「ECBがQEを2018年9月に終了できるのか、それとも再延長が必要になるのか」):

注目は2018年初めのコアインフレ率の動向だろう(2018年初めのドイツでの賃金交渉やイタリア総選挙の影響を含めて)。ECBのスタッフ経済見通しでは、景気モメンタムの力強さと、経済でのスラック(たるみ、余剰)が大幅に小さくなっていることを強調された。ドラギ総裁の発言も景気の力強さやインフレがECB目標に近づくという自信を強めるという内容だった。しかし、総合インフレ率は2020年に1.7%に達するとしか見込まれておらず、2019年の賃金上昇率も大きく下方修正されている。コアインフレ率が2020年にはECB目標に近づくと見込まれているため、ECBが来年に量的緩和を終了させることは、今もなお可能だろが、ECBは慎重に進む方を選択するだろう。次の注目点は「ECBがQEを2018年9月に終了できるのか、それとも再延長が必要になるのか」だろう。

堅調な景気拡大が続いているなか、持続的なインフレ率の加速が確認されず、APPを月間300億ユーロから一気にゼロへと過度に減額を避けるためにも、ECBは2018年末までの3カ月程度、APPを(月額150億ユーロにさらに縮小しながら)再延長すると予想。ECBバランスシートの拡大幅は2017年にはGDP比8%以上と、金融危機前の水準並みになり、ECBのバランスシートは、2017年末にはGDP比40%を上回る水準に達すると見込んでいる。

政策金利利上げ(予想:2019年6月い一回の利上げを実施):

ドラギ総裁は、現時点の経済指標を基にすると、年内の利上げの可能性は非常に少ないと強調している。また、ECBがQE終了と利上げの順序はQE終了の「ずっと後に」行うとしている。2019年6月に初回利上げが実施されるが、米国の景気減速入りで2回目の利上げは遅れると弊社では見込んでいる。これは、ユーロ圏のGDP成長率が2017年、2018年と潜在成長率を上回り、2019年には生産ギャップが小幅だがプラスになる、という背景にECBは2019年6月に初回の利上げに踏み切ると予想している。しかし、2019年後半に米国が景気減速に入るため、2回目の利上げは遅れると見込んでいる。その後にECBは、小幅利下げを1回行い、中銀預金金利は2020年3月までにマイナス0.30%に達するだろう。その後、2020年遅くには利上げが再開されて、預金金利、主要リファイナンスオペ金利と貸出金利の間のコリドーが、最低限の25bpに戻ると予想する。

日本(日銀)

誘導目標(予想: 2019年かけてに長期金利の誘導目標を引き上げ):

2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続けるだろう。しかし、堅調な国内ファンタルスを背景に物価目標の達成前に、日銀は長期金利の誘導目標引き上げに動くだろう。長期金利の誘導目標引上げの必要条件は、展望レポートの物価のリスクバランスの中立化に加え、コアCPIの前年比が1%を超え、円安の動きが再開する(実効為替レートの円安)ことであると考える。これらの条件が満たされ、長期金利の誘導目標が引き上げられるのは、早くても2019年にかけてと予想する。日銀が誘導目標を引き上げても、上昇していく長期金利のフェアバリューとのスプレッドは拡大し、緩和効果は継続していると説明するだろう。

マイナス金利政策(予想:2%の物価上昇を達成する2021年に解除):

日銀は長期金利の誘導目標を徐々に引上げ、長期国債の買入額は減少していく。長期国債の買入は2021年までに終了すると考える。その後、2%の物価上昇を確認し、マイナス金利政策の解除に動くと考える。

日銀人事(予想:黒田総裁の再任、雨宮日銀理事・本田元官房参与の任命が最有力):

2018年4月の黒田日銀総裁の後任人事は、黒田総裁が再任され、副総裁に雨宮現日銀事理と本田元内閣官房参与が有力視されている。黒田総裁の再任と緩和政策に携わってきた雨宮氏と緩和政策に肯定的な本田氏の任命で、2%の物価目標を含め、現行の政策が維持される可能性は更に高まっただろう。

中国(PBOC)

銀行間金利(予想:政策実行のために、流動性供給を通じた安定したコリダー内で維持):

金融システミック・リスクの回避が、PBoCの優先事項の1つだろう。このためには、銀行の流動性状況(確保)を安定させる必要がある。同時に、金融レバレッジの大幅な拡大を抑制するという政策目的も、銀行の資金調達コストを低水準とする論拠になる。このため、PBoCは計算された流動性供給を通じて、銀行間金利を安定したコリダー内に維持すると弊社は見込んでいる。流動性管理の一環として、条件に応じて銀行ごとに内容が異なるRRR(預金準備率)引下げが2017年第3四半期の終わりに発表され、2018年1月から実施される予定だ。これによって、銀行の中小企業向け貸出しインセンティブがさらに強化されるだろう。

PBOCはGDP成長率が6.5%を下回るまで、銀行間金利を足元の水準で維持すると見込まれる。また弊社は、基準預金金利や基準貸出金利の(PBoCによる)引上げまたは引下げは、公式には自由化されているため実現可能性は非常に低いとみている。

近年の中国の銀行や銀行以外の金融機関は、短期的なホールセール資金調達を行い、資本クッションをほとんど持たない中で、シャドーバンキング貸出しに積極的だった。その結果、金融システム全体が流動性リスクにますます左右されるようになった。現在の政策担当者は、デレバレッジをやり抜く覚悟ができており、副首相が主任として率いる金融安定発展委員会が、マクロプルーデンシャルな政策や金融規制を使いキャンペーンをリードしていく。こうした規制強化の影響は債券利回りや短期市場金利の上昇、小規模銀行でのシャドーバンキング資産縮小という形で、既に明らかになっている。債券市場、理財商品ビジネス、小規模銀行ではこうした痛みは続き、実体経済のモメンタムへの影響はこれからだが、その大きさは不確実だ。実体経済のダメージを限定するには、実体経済の安定的な資金調達確保や、システミックな流動性危機を回避するための、政策担当者の努力が重要になるだろう。

英国(BOE)

政策金利(予想:今年 8 月に 25bp 利上げが実施され、2019 年 2 月にも 1 回追加利上げが行われるへ変更):

BOEは2017年11月の政策決定会合で10年ぶりに利上げに踏み切った。2月発表のインフレレポートでBOEの金融政策委員会は今年中に金融引き締めを進める意向を繰り返し確認した。弊社は英国のインフレ圧力は引き続き控えめである可能性が強いが、BOEはそう見ていないようだ。市場は 5 月の 25bp 追加利上げ実施を積極的に織り込んでいるようだが、弊社はMPC のメッセージとは異なる(メッセージの読み誤り)とみている。確かに、追加利上げが 5 月に実施されるリスクも高いが、MPC が言っているのは依然として「政策金利の追加引上げは、緩やかなペースで限定的になると見込まれる」というポイントだ。

BOEは今年の 8 月に25bp 利上げが実施すると予想する(2018年は利上げが無いとの従来予想から変更)。また、2019 年 2 月に、更に25bpの利上げへ踏み切るだろう。しかし、その時には、その後の動向が興味深くなると考える。2019 年後半には米国がリセッション入りすると弊社は予測しているため、それが実現すれば、英国を含めた全世界に影響が及ぶだろう。また、ブレグジットの影響で、今年後半から来年にかけて、英国の GDP 成長率を押下げると見ている。米国の景気減速とブレグジットの影響などは、BOEの利上げの妨げになるだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司