先日、私の事務所に知人の紹介でひと組の夫婦が相談に訪れました。相談内容は「子供の教育費」についてでした。話をうかがうとお子さんは高校生で将来の夢を叶えるために大学進学を希望されているとのこと。その夫婦は経済的理由から奨学金を利用したいと考えていたのですが、最近メディアの「奨学金破産」に関する報道を気にかけて、大変悩んでおられました。
確かにインターネットで「奨学金破産」と検索すると様々な情報を目にすることができます。最近では2月12日に朝日新聞が『奨学金破産、過去5年で延べ1万5千人 親子連鎖広がる』と報じました。それによると、奨学金を返せずに自己破産をする人が過去5年間で1万5338人に達し、その内訳は本人が8108人、連帯保証人と保証人が計7230人で、借りた本人だけでなく、親族にまで広がる「親子で自己破産」のケースも見られるといいます(※1人で大学と大学院で奨学金を利用した場合等は2人にカウントしている)。
返還に苦しむ若者や親族の姿を浮き彫りにする「奨学金破産」。奨学金を利用すべきか、それとも大学進学を諦めるべきか……どのように判断するかは家庭環境や家計の事情で異なりますが、まずは奨学金制度を正しく理解することが大切です。今回は奨学金について解説しましょう。
奨学金とはどんな制度?
日本で奨学金制度といえば、独立行政法人日本学生支援機構の奨学金事業をイメージする人が多いかも知れません。同奨学金制度は大学進学のために無担保で借りることが可能で、返還期間は15年または20年以内、下記の3種類の奨学金があります。
・第一種奨学金(利息負担なし) ・第二種奨学金(利息負担あり) ・給付奨学金(返還なし)
たとえば4人家族の場合、第一種奨学金は学力基準が3.5以上、会社員の収入目安が年収747万円以下となります。同じく第二種奨学金は学力基準が平均水準の者または意欲のある者、会社員の収入目安は年収1100万円以下です。給付奨学金は2017年にスタートした「経済的に困難な低所得者の学生の進学を支援する」ための制度ですが、所得制限がかなり厳しくなっています。
奨学金の貸与額は、第一種奨学金は月額2万円〜6万4000円。第二種奨学金は月額3万円〜12万円(歯学、獣医学は増額あり)。返還方式は、定額返還と所得連動変換方式があります。
延滞が3カ月過ぎるとブラックリスト入り
そんな奨学金制度ですが、延滞するとどうなるのでしょうか。まず、延滞している割賦金に対して「5%」が賦課されます。加えて、延滞が続くと本人はもちろん、保証人・連帯保証人にも督促の連絡がくることになります。
それだけではありません。延滞が3カ月を過ぎると、個人信用情報が個人信用情報機関に載ります。いわゆるブラックリスト入りです。その場合、クレジットカードの発行を断られたり、住宅ローンなども借りることができなくなります。一度ブラックリスト入りした個人信用情報は、奨学金を完済するまでの期間プラス5年経過するまで消えることはありません。
さらに延滞が続くと、民間の債権回収業者からの督促を受けることになります。それでも返還できない場合は、法的処置となり裁判を起こされることになるのです。
奨学金は未来への投資、破産しないために必要なことは?
奨学金と聞くと、何か「特別な配慮」があるものだというイメージを抱く人も多いかも知れませんが、前述の通り本質的には通常の借金(ローン)となんら変わりません。
とはいえ、すべての借金を「悪い」「怖い」と考えるのもどうかと思います。なぜなら、「未来への投資」という意味で奨学金は必要な借金と考えることもできるからです。大切なのはしっかりとした「返済計画」を立てることです。「返済計画」をきちんと立てることができればメディアで報じられているような「奨学金破産」のリスクも軽減することが可能です。奨学金は怖くはありません。計画性のない借金が怖いのです。冒頭でも述べたように、それぞれの家庭環境や家計の事情によって「返済計画」は大きく変わってきますので、心配な人はファイナンシャルプランナーに相談してみてはいかがでしょうか。
なお、返還が困難な場合は、(1)1回の返還額を半額にすると同時に返還期間も2倍にできる「減額返還」、(2)1回の願出で返還期限猶予を1年以内(通算10年が限度)に延ばせる「返還期限猶予」、(3)「在学猶予」、(4)死亡・就労不能等による「返還免除」などもあります。
物事はすべて計画通りに進むわけではありません。当初予定していた「返済計画」で想定していなかった事態が起きた際には上記の「猶予制度」を活用しながら柔軟に軌道修正することも大切です。
素晴らしい春を迎えるために
ところで、民間には大学独自の奨学金制度もあり、中には返還の必要がない給付型奨学金もあります。進学を希望する大学にそうした独自の給付型奨学金がないか調べてみてはいかがでしょうか。一方、日本学生支援機構の奨学金には2004年度に導入された「特に優れた業績による返還免除制度」もあります。これに該当すれば、返還金の一部または全額が免除となります。
これから3月、4月は卒業や入学、そして新社会人としての一歩を踏み出す季節を迎えます。一人でも多くの若者が素晴らしい春を迎えることを願ってやみません。
長尾 義弘 (ながお・よしひろ) NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『お金に困らなくなる黄金の法則』『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。 http://neo.my.coocan.jp/nagao/