必要なのは「数字を読む力」と「全体を読む力」

橘・フクシマ・咲江,40代,読む力
(画像=The 21 online)

ヘッドハンターとして国際的に活躍してきた橘・フクシマ・咲江氏。これからの40代は、働き方が大きく変化する時代に対応することが求められると話す。では、40代ではどんなスキルを身につけておくべきなのか。詳しくうかがった。《取材・構成=林加愛、写真撮影=長谷川博一》

「働き方の大変革」は女性にとってはチャンス!

世界最大のエグゼクティブサーチ会社であるコーン・フェリー・インターナショナル社において長年アジア圏トップの業績を上げてきた橘・フクシマ・咲江氏。米「ビジネスウィーク」誌で「世界で最も影響力のあるヘッドハンター百人」に唯一の日本人として選ばれた人材のプロである。フクシマ氏は、ビジネスマンがこれからのキャリアを考えるうえでは、まず大前提となる「働き方」そのものの変化への対応が必須になると指摘する。

「向こう10年で、『働き方』自体が大きく変化するでしょう。AI、IoT、シェアリングエコノミーなどの発展は、雇用のありようを大きく変えるはずです。そこに順応できるかどうかが、重要な岐路となります」

現在、大多数のビジネスマンは組織に属する「所有」ベースの働き方をしているが、今後は各人の専門性を様々な拠点で「共有」する雇用形態が発達する、とフクシマ氏。

「たとえば、専門性の高い仕事を複数の企業と契約して請け負う個人事業主『インディペンデント・コントラクター』。あるいは組織に属しながら専門性を高めて『企業内プロ』となる道もありますし、そうした人が兼業で複数の組織と仕事をする、という選択肢も。多様な働き方の中から、自分に合う形態を選ぶ時代が来ようとしています」

出産や育児等、ライフイベントの影響を受けやすい女性にとって、この変化は好機でもある。

「プロとしての能力があれば、組織内外でも、時間的・空間的拘束が少ない就業形態が選べます。企業内プロとして上を目指すもよし、兼業するもよし。いずれにせよ自分の市場価値を高める努力が不可欠です」

40代に必須の二つの「読む力」とは?

そうした変革の時期にあって、40代のうちに身につけておくべきスキルや能力とはどういったものか。フクシマ氏は、ある領域の専門性に加えて、「全体を読む力」と「数字を読む力」との二つを挙げる。「全体を読む力」については、40代の今こそ身につけるチャンスだと語る。

「社会人となって20年、すでに複数の部署の経験者がほとんどでしょう。しかし、それらの各部署のことは熟知していても、会社全体がどういう組織体系になっているのかを社長の代わりに外部に説明できるでしょうか。ビジョンは、事業戦略は、競合との差は、業界での立ち位置は。それらを踏まえ、自社のバリューチェーンを社長の視点から投資家に説明できるぐらい把握することが大切です」

商品開発から販売に至るまでの自社のバリューチェーンを知り、市場での自社の立ち位置をしることで、自分の仕事の位置付が認識できる。すると、日々こなすタスクの意味も理解できる。

「社長だったらとの意識を持って仕事をするか、ただ漫然とタスクをこなすかでは、数年で、歴然たる差が出ます。自分の仕事がどこに繋がっているかわかっている人は、その受け手にとっていかに便利な形でそれを提供するかを考えられるからです」

それは相手の立場を考える力であり、そのニーズをつかんで先取りするシミュレーションの能力でもある。フクシマ氏自身がキャリアの中で日々実践してきたことでもあるという。

「クライアントに必要な情報を求められる前に提供する。米国本社の取締役の時には、社外取締役への自社の説明では、その人の共感可能な事例で説明する。部下には、『当事者ならどうするか』を考えるようにアドバイスをするなど、様々な場面でこれを実践してきました。こうしたスキルは、どのようは就労形態で働くかにかかわらず必ず役立つものです」

加えて、「数字を読む力」は不可欠だとのこと。

「数字、即ち事業規模や部門ごとの業績(P&L、財務諸表)、そのバランスなどを読む力は、主導的立場に立つ人に不可欠です。管理職を経験していないと数字が苦手という人もいるかもしれませんが、社長になったつもりで、意識して会社の数字を見るようにすれば、大きく可能性が広がるでしょう」

人生最大の転機となった40代での挑戦

フクシマ氏自身は、こうしたスキルをどのように身につけてきたのか。キャリアの最大の転機は、40代にあった。

「社会に出て最初に携わったのは、日本語教師の仕事でした。この頃は教師を一生の仕事をするつもりでいたのですが、知人の紹介を受けて、32歳でコンサルティングの道へ進むことになりました。ビジネスはまったく未経験の世界への挑戦でしたが、大変刺激的でした。」

その後、スタンフォード大学でMBAを取得。ベイン&カンパニーを経て、40代でコーン・フェリーへの転職という選択をする。

「当時はまだ、ヘッドハンティングという仕事が今ほど一般的に知られていなかったこともあり、不安ももちろんありました。しかし、20代、30代での経験の積み重ねが、ここで役立ちました。クライアントが望むことは何かを常に先回りして考え、問い合わせがありそうな事項は先立って知らせ、日本のビジネス事情に不慣れな海外のクライアントには、日本特有の状況をお教えすることも心がけました。日本語教師やコンサルタントとしての仕事で学んだことを活かせたと思います」

管理職になることで開ける視野がある

世界的に活躍するビジネスウーマンの先駆者でもあるフクシマ氏だが、これからはますます性別を問わず能力を発揮できる時代になると予測する。

「女性だから、男性だから、といった区分けや国籍等はその人の全てではなく、個性の一部に過ぎません。ダイバーシティが浸透するにつれ、問われるのは様々な個性を持ったその人の能力になっていくと思います。」

さまざまな理由から管理職になるのをためらう女性はまだまだ多い。しかし、男女問わずリーダー的な立場を目指してほしいと話す。

「私自身も、社長就任を要請された際は、現場の仕事から離れがたく、ためらう気持ちがありました。しかし実際にトップになり、『全体と数字を見る』ことを責任者として経験したとき、さらに多くの視野が開けました。上に立って初めて見えること、知ることができることがあるので、ぜひ積極的にチャレンジしてほしいと思います」

【コラム】AIの発達で、人事評価が公正に!?

人事評価も、いずれはAIで簡単にデータ化できるようになる、とフクシマ氏。

「人が下す評価には主観が入りますが、機械の評価は公正です。実際に、ある会社で重要なポジションへの適任者を探すべく、AIプログラムを使ってスキル・経験・実績・人間性などで分析したところ、上司に見落とされていた『優秀な人』が二人も発見されたそうです」

上司の覚えはめでたくとも部下からの人望はいまひとつ、といったズレも、機械化されればなくなっていくだろう。

「最終的には、『人がついてくる人』が評価される時代が来るのではないかと思います。相手を思いやれて、部下の立場に立った育成ができ、言ったことはきちんと守る――そんな人のもとには人が集まるものです。上司にゴマをする人、部下にパワハラ的な言動をする人などは、どんなに専門的能力が高くとも人望は集まりません。公明正大なふるまいで周囲と信頼関係を築けることが、これからのリーダーには必要なのです」

橘・フクシマ・咲江(Sakie T.Fukushima)G&S GlobaI Advisors Inc.代表取締役
1972年、清泉女子大学卒業。国際基督教大学大学院日本語教授法研究課程修了後、ハーバード大学日本語講師。その間、同大学大学院教育学修士課程修了(Ed.M)。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、ペイン・アンド・カンパニー〔株〕を経て、コーン・フェリー・インターナショナル〔株〕に入社。同社本社取締役、日本支社長、同会長を歴任。2010年にG&S GlobaIAdvisorsInc.を設立。味の素〔株〕、〔株〕ブリヂストン、J.フロントリティリング〔株〕、三菱商事〔株〕の社外取締役も務める。グローバル人材に関する著書多数。(『The 21 online』2018年1月号より)

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