20年後、「お荷物社員」と呼ばれないため、今すべきことは?

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(画像=The 21 online)

退職後の雇用延長や再就職が当たり前となりつつある昨今、職場のシニア社員に手を焼く管理職も多いのではないだろうか。だが一方で、このままでは将来、自分もまた「お荷物社員」と呼ばれる可能性も十分ある。では、そうならないために今すぐ磨いておくべき能力とは何か。シニア産業カウンセラーの見波利幸氏にうかがった。

こんなシニア社員、会社にいませんか?

現在、多くの職場で悩みの種となっているのが、60代以上の「シニア社員」です。2013年の「改正高年齢者雇用安定法」施行に伴い、60歳で定年を迎えた人のうち、希望者については雇用延長が義務づけられました。それ以来シニア社員の数は増える一方ですが、その中には「お荷物社員」も少なくありません。

数々の相談例から、それらの人々の働きぶりをひもとくと、おおよそ6タイプに分けられることがわかってきました。

一つ目は「嘆きタイプ」。かつての役職を失ったことや、給料が下がったことでやる気をなくし、仕事に消極的になっています。不満や愚痴をすぐ口にして、現場の士気を下げてしまいます。

二つ目は「おんぶに抱っこタイプ」。パソコンなどの新しいツールを使いこなせず、年下社員に依存しては、周囲の仕事の手を止めてしまう人たちです。

三つ目は「我が道を行くタイプ」。これまでの仕事内容や仕事スタイルに固執し、そこから外れた仕事には拒否反応を示します。仕事を「好き嫌い」で選んでしまうタイプです。

四つ目の「ご隠居タイプ」は、会社を「茶飲み話をする場所」だと思っています。同僚が多忙でも、お構いなしに雑談を持ちかけてくるのが特徴です。

五つ目は「無責任タイプ」。自分は一線を退いた、という思いがあるせいか、当事者意識ゼロ。担当者を無視して安易な約束をしたり、コンセンサスのない事項に関して勝手な行動を取ったりと、混乱を招きます。

最後は「勘違いやり過ぎタイプ」。自信過剰で、昔の手腕を周りに役立てられると思い込み、望まれてもいない場面にまで口を出そうとします。その部署のリーダーを無視して場を仕切ろうとすることも。

このように、ひと口に「お荷物社員」と言ってもタイプはさまざま。しかし、いずれの場合も共通するのは、「望まれる役割を果たしていない」ということです。嘆きタイプ・おんぶに抱っこタイプ・ご隠居タイプは仕事への意欲を失っていて、周囲の役に立とうとする意識がありません。我が道を行くタイプも、やりたいこと以外へのモチベーションは皆無。無責任タイプや勘違いやり過ぎタイプも、現場で求められている仕事は何か、ということに無関心です。

周囲や顧客のニーズを考えず、正しく自分の役割を認識できていないことが、お荷物社員の本質的な問題点と言えます。

それは、20年後の自分の姿かもしれない

現在、こうした人々の被害を最も受けているのは40代の中間管理職でしょう。周囲の足を引っ張る困った存在でありながら、年上なので強く言えない、と悩む管理職は数知れません。

しかし、ここで考えていただきたいのは、彼らが「20年後の自分の姿かもしれない」ということです。

定年後は完全に仕事から離れる心づもりの40代は少数派でしょう。雇用延長にせよ、再就職にせよ、なんらかのかたちで仕事を続けたいと考えているはずです。そのとき、皆さんの置かれる状況は、今よりもっと厳しいはずです。お荷物社員になる確率は、現在のシニアの人々よりもはるかに上。なぜなら今後の職場は、IT化の加速によって「人の仕事が減る」からです。

法律上、企業はシニアの求めがあれば雇用を続けなくてはなりません。一方で、これまでその人が行なっていた仕事の多くは機械に取って代わられます。椅子はあっても仕事はない――そのとき、皆さんはどのようなシニア社員になるでしょうか。

嘆いたり、ふて腐れたりしながら、周囲に迷惑顔をされる未来が待ってはいないでしょうか。

それを防ぐ方法は一つ、機械に置き換えられない仕事ができるようになることです。

お荷物社員にならない二つの方法

そのキーワードは、「専門性」と「マネジメント」。

一つ目の専門性は、機械がどんなに発達しても必ず残る、人間ならではの発想力や企画力、実行力です。営業・製品開発・企画・研究など分野を問わず、人間のできる部分は必ず残るものです。自分の得意分野や専門分野に関する知識をさらに深め、極めていくことが重要です。

二つ目の「マネジメント」は、いわゆる「管理職」とはまったく別物です。売上げ管理・時間管理・安全管理などの「管理」の仕事は、ほどなく機械に任されます。現在、上司として携わる仕事のほとんどは、20年後にはなくなるでしょう。

その中で、一つだけ残るのが「育成」です。人を育てる仕事は機械にはできません。情報を教えることはできても、人間性を育んだり、心の触れ合いの中で気づきを促すといったことは不可能です。ヒューマンスキルを極め、人を育てるエキスパートとなることで、機械に取って代わられる心配はなくなります。

40代は自分の適性を見極めて、このどちらかを目指すべき。今から努力すれば、20年後の人生が大きく変わります。ここを目指した人と、漫然と過ごしてしまった人で、20年後は「二極化」現象が起こるでしょう。

機械に置き換えられない価値を身につけた人は、どの組織でも居場所があり、好待遇で迎えられます。しかし、その価値を持たない人は、機械に使われるだけの辛い毎日。6タイプのうちの「嘆き」「おんぶに抱っこ」「ご隠居」などの人々が持つ消極的なメンタリティを、より色濃く抱える後半生になってしまうかもしれません。

個人と仕事の連動が「役割意識」を育てる

さて「消極的なメンタリティ」と言いましたが、その消極性の萌芽は、現時点でのメンタルの中にすでにあります。前述したとおり、お荷物社員の6タイプに共通するのは「自分の役割」を正しく認識していないこと。

今の社会は基本的に「上が管理し、下が従う」システムなので、各自が自発的に考える姿勢が薄れがち。その意味で、こうした状態に陥る可能性はどの世代にもあるのです。

それを防ぐには、自分ならではの「仕事の価値観」を今から確立しておくことです。上司が「管理」をしなくなる社会に備えるうえでもこの姿勢は不可欠。これからは、社員一人ひとりが自分のミッションを持つことが求められるでしょう。

では具体的に何をすべきかというと、一見遠回りのようですが、「個人の幸せと仕事とを連動させる」、という心の作業を行なうことです。

人は得てして「職場」と「プライベート」を分け、どちらかだけに幸せを見出そうとします。その結果、家庭を顧みなかったり、逆にプライベート偏重で職務怠慢になったり……といったアンバランスが生まれます。

人の幸福はもっとトータルなもの。仕事で社会的責任を果たし、その流れの先で自分自身も幸せになるのが理想的ではないでしょうか。この考え方に立つことで、初めて自分の仕事の価値を高める意欲が湧いてきます。職場・家庭・友人関係、すべての社会における自分の役割を考えられるようになるのです。

個人の幸福と、社会人としての幸福を重ねる道筋は百人百様でしょう。しかしこれを考えることが、歳を重ねても生き生きと働くための最良の方策です。自らの人生をトータルに見据えながら、ぜひ新しいトライへと踏み出してください。

見波 利幸(みなみ・としゆき)〔一社〕日本メンタルヘルス講師認定協会代表理事
1961年生まれ。大学卒業後、外資系コンピュータメーカーなどを経て、98年野村総合研究所に入社。メンタルヘルスの黎明期より管理職向け1日研修を提唱するなど、日本のメンタルヘルス研修の草分け的存在。現在はエディフィストラーニング㈱(キヤノングループ)の主席研究員として、研修や講演、カウンセリングや職場復帰支援を行なう。著書に、『劣化するシニア社員』(日経プレミアシリーズ)など。(取材・構成:林 加愛)(『The 21 online』2018年1月号より)

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