消費者心理は個人消費を大きく左右するが、企業の景況感は景気循環の源となる在庫投資や設備投資を大きく左右することから、景気自体をも大きく左右する。
企業の景況感を表す統計としては、日本銀行「短観」の業況判断DIが最も代表的である。年に4回調査が行われ、3、6、9月調査の結果は翌月初に、12月調査の結果は12月中旬に公表される。中でも、在庫の影響が大きい製造業の景況感の方が非製造業よりも景気に敏感に変動することから、大企業(資本金10億円以上)製造業の業況判断DIが最も注目される。事実、製造業と非製造業の業況判断DIを比較すると、製造業の方が景気拡張期に上昇し、景気後退期に低下する傾向が明確である。
景気局面の鍵を握る企業マインド 景気も後退局面入りする可能性が高い?
業況判断DIは、収益を中心とした業況について「最近」と「先行き」の全般的な判断について、「良い」「さほど良くない」「悪い」のうちから回答を求め、「良い」と「悪い」の回答者割合の差が0を中立とするDIとなる。これまでの大企業製造業の業況判断DIの動きを見ると、2013年6月調査からプラスを維持しており、2017年12月調査では+25、つまり「良い」と答えた企業の割合が「悪い」と答えた企業の割合を25%上回っていることになる。しかし、先行き判断DIは悪化に転じている。
この要因としては、米政権運営の不透明感や北朝鮮・中東情勢の緊迫化、中国経済の減速懸念などにより企業マインドが足踏みしていたことが考えられる。通常、業況判断DIの低下は企業活動の低下を意味するため、景気も後退局面入りすることが多い。事実、2四半期連続で大企業製造業の業況判断DIが悪化して景気後退入りしなかったのは1980年以降で1989年後半と2004年度後半の2回だけである。更に、3四半期連続で悪化して景気後退にならなかったのは1989年後半のみであり、結局その時も最終的にはバブル崩壊で景気後退入りした。
12月短観以降、米国の税制改革が成立したため、北朝鮮や中東情勢の緊迫化が避けられ、中国経済の減速懸念が後退すれば、次の3月短観における大企業製造業業況判断DIは上向くかもしれない。しかし、先行きDIでは▲6ポイントの悪化が予測されている。見通し通り3月調査の大企業製造業業況判断DIが悪化すれば、日本経済に対する強気な見通しがやや後退する可能性もある。
「営業利益」>「経常利益」は過去の話
一方、2017年3月期の上場企業の経常利益は6年連続で増加し、過去最高を更新する見込みとなっている。企業の利益とは、売上から原材料等の費用を引いたものであり、企業の経営成績として位置づけられる。財務省では、金・保険業を除く資本金一千万円以上の法人企業の単体財務諸表を集計した「法人企業統計季報」を作成しており、業種別、規模別に見た日本企業の利益動向を四半期ごとに確認できる。
法人企業統計季報の中で公表される利益は2つある。一つ目は、企業の本業から生み出した利益を示す「営業利益」である。これは、売上高から売上原価や販売費、一般管理費を差し引いて算出される。二つ目は「経常利益」である。これは、営業利益に支払利息や受取利息等、その他の営業外損益といった本業以外の日常的に発生する損益を加えたものである。一般的には企業の経常的な活動から生まれる利益として、経常利益が重視される。
企業の利益は経済環境に大きく左右される。例えば、輸出に力強さが増せば、輸出関連商品を扱う業種の利益は増加しやすくなる。また、資源価格が上昇すれば、原材料コストが上昇して企業全般の利益悪化要因となる一方、資源国向けの輸出を収益源とする一部業種にとっては恩恵が及ぶこともある。更に、賃金が低迷すれば、内需関連の商品やサービスを扱う業種の利益は低迷することが多い。為替相場の動向も輸出入金額の変化を通じて利益に影響を及ぼす。
こうした中、2000年代以降における我が国企業の利益構造に特徴的な変化が起きている。統計開始の1956年以来、常に「営業利益>経常利益」であったが、2005年以降はその関係が逆転している。背景には、金利の低下や債務削減による支払利息減少の影響もある。しかし、それ以上に影響が大きいのが、受取利息等に反映される海外子会社からの配当や特許使用料が増加していることだ。
このことは、我が国企業の海外事業の収益性が高まっており、海外現地法人の稼いだ利益が国内に還流する影響が大きくなっていることを示している。国内の人口減少や高齢化を考えると、日本企業がグローバル化の対応を更に進めることが避けられないことから、今後も「経常利益>営業利益」の関係が続く可能性が高いだろう。
永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。