コミュニケーション不足で情報共有が滞ったり、トラブルへの対応が遅れたり……メールやスマホなどのツールの普及で便利になったはずのコミュニケーションですが、組織内では度々コミュニケーション不足による問題が発生します。いったいどうしたらコミュニケーション不足を解消できるのかと頭をかかえるリーダーも多いでしょう。ここでは3つの視点からコミュニケーション不足について考えます。

本当に「コミュニケーション不足」が原因か?

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(写真=Dimj/Shutterstock.com)

「識学」というマネジメント理論によれば、まず考えるべきは「そもそもコミュニケーション不足が本当の原因かどうか」です。

本来コミュニケーションというのは、組織のルール・各人の役割や権限が明確に決められていれば、最小限で済むものです。しかしそれらが不明確な場合、関係者間での認識合わせや答え合わせをしなければならないため、余計なコミュニケーションが必要になります。

例えば担当者間で責任の重複があると、業務が滞っても「これは私の仕事ではない、あの人がやることだ」など意識上、相手の責任だと考え、コミュニケーションを取らないことになります。そのため、「業務が滞った原因はコミュニケーション不足だ」という考え方につながるのです。

ところが本当の問題はコミュニケーション不足ではなく、「責任の重複」にあります。この問題を解消し、業務が滞ることによる責任の所在を明確にすれば、責任を負う人間は解決のためにコミュニケーションを取らざるを得ません。このように問題の本質は、組織のルール・各人の役割や権限の曖昧さにあるのです。

また、いくら組織のルール・各人の役割や権限を明確化しても、「苦手だから」「顔を合わせづらいから」といった個人的な理由でコミュニケーション不足に陥るケースも少なくありません。しかしこれは完全なる責任放棄です。役割を全うできないのであれば、そのコミュニケーション不足によって生じた結果にもとづいて評価を下げ、役割を外れてもらうほかありません。

参考リンク:『伸びる会社は「これ」をやらない! 』

リーダーが積極的にコミュニケーションをとる「サーバントリーダーシップ」

「サーバントリーダーシップ」とは、教育コンサルタントのロバート・K・グリーンリーフが提唱した「リーダーとは、まず相手に奉仕し、その後に相手を導いていくものである」という考え方に基づいたリーダーシップ哲学です。

この哲学によれば、リーダーはメンバーに奉仕し(=サーバント)、メンバーの気持ちを汲み取ったり積極的にコミュニケーションを図ったりしながら、組織の目標達成に向かってチームをサポートする役割を担っています。つまりリーダーには「どうして言わなかったんだ」「理解していると思っていた」などメンバーのコミュニケーション不足を指摘するのではなく、メンバーの機微を観察して「何か考えはあるか?」「問題ないか?」などと自分からコミュニケーションを取ることが求められるのです。

このために理解しておくべきなのは、支援型リーダーシップとも呼ばれるサーバントリーダーシップと、リーダーがメンバーに命令して引っ張る「支配型リーダーシップ」との差です。

例えば「何か考えはあるか?」「問題ないか?」という問いかけに対してメンバーが答えてくれても、相手の意見を否定するだけだったり、バカにするだけなのであれば意味がありません。積極的にコミュニケーションを取るのは、自分の正しさを証明するためではなく、あくまで組織の目標達成に向かってチームをサポートする役割を全うするためです。

サーバントリーダーシップに従って行動する場合は、自分がメンバーやチームをサポートするための存在だということを忘れないようにしましょう。

用語集リンク:サーバントリーダーシップ

コミュニケーション強化は「チーミング」に学べ

「チーミング」はハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が提唱した組織マネジメント理論です。この理論ではメンバー間のフラットな関係性の構築により、変化に柔軟に対応できる組織を作り、効果的な協働により成果をあげることを目指します。エドモンドソン教授がこの理論の中で挙げるリーダーの仕事は以下の3つ。

  1. わかりやすいビジョンで組織の方向性を明確化する。
  2. メンバーが心理的に安心できる環境をつくり、気づきや学びを発言しやすい雰囲気を作る。
  3. メンバーが協力しやすい場やリソースを提供し、組織が正しく機能するようマネジメントする。

このうちコミュニケーション不足解消に直結しやすいのは、2の「メンバーが心理的に安心できる環境をつくり、気づきや学びを発言しやすい雰囲気を作る」という仕事です。自分のチームに自由に発言しづらい雰囲気、あるいは発言しても意味がない雰囲気がないかを振り返ってみましょう。

もしあるとしたらその原因はどこにあるでしょうか?例えばリーダーが「絶対」であるという暗黙の了解があれば、メンバーは自分の考えや感情を押し殺しているかもしれません。「失敗は何があっても許されない」という空気があれば、ミスを隠蔽したり、何か新しいアイディアがあっても「リスクがあるから」と言い出せないかもしれません。

このようにリーダーが「メンバーが心理的に安心できる環境をつくり、気づきや学びを発言しやすい雰囲気を作る」という仕事をこなしていけば、チーミングの前提となる「メンバー間のフラットな関係性の構築」が実現され、コミュニケーション不足が解消していく可能性があります。

用語集リンク:チーミング