つるつるっと味わえるそばやボリュームたっぷりの丼ものなど、長野には知名度の高い料理から新しく誕生した名物まで、さまざまなご当地グルメが存在します。今回は、その中から代表して5つの名物をピックアップし、その歴史と一緒にご紹介します。
地域性の高いおやつと神聖な献上品
信州グルメの代表的な存在といえるのが、具材を小麦粉の皮に包んで作る郷土料理・おやきではないでしょうか。長野県民には食事というよりも、定番のおやつとして親しまれています。
おやき発祥の地は、古くから小麦の栽培が盛んだった長野県上水内郡の西山地方とされています。この地域では、囲炉裏の灰を使って焼く「灰焼きおやき」が作られていました。その後、山間で誕生した灰焼きおやきが長野県内に広く浸透していく中で調理法が変化していきます。現在では、歯ごたえのある丸ナスを具材に使用した善光寺平のおやき、米粉の皮で包んだ栄村のおやき「あんぼ」など、地域ごとに色々なおやきが作られています。2009年10月にはおやき事業者による「信州おやき協議会」が設立され、おやきの歴史と文化を広めるべくイベントやPR活動を行っています。
おやきと同じく知名度が高いのが、ミネラル分豊富な冷水で打った「戸隠そば」です。茹でた後に水切りをほとんどしないことと、麺棒のみで四角ではなく均等に延ばしていく丸のしが特徴です。竹製のざるにそばを5~6束に分けて盛る、通称「ぼっち盛り」も戸隠そば特有。形はおもてなしの際に長さが均一のそばを綺麗に盛って提供するため、ざるに盛る数は「戸隠神社」と縁の深い神々と地蔵堂の数に関係しています。ちなみに、戸隠神社では職人が手打ちした新そばを献上する蕎麦献納祭が毎年行われるそうです。
香り高い戸隠そばはもっちりした食感でコシが強めです。戸隠では20以上の店舗で食べることができます。
歴史の長い丼と甘味
ご飯に盛った千切りキャベツの上に豚カツをのせたシンプルなかつ丼、「駒ヶ根ソースかつ丼」は駒ヶ根市民に古くから愛されている長野グルメです。かつ丼といえば通常は玉子とじを連想する方が多いですが、この地域では駒ヶ根ソースかつ丼が定番。とんかつを甘辛ソースにサッとくぐらせるのが特徴で、豚肉とソース、キャベツの三位一体の美味しさがクセになるそうです。
駒ヶ根ソースかつ丼が誕生したのは1928年のことでした。市内の飲食店「きらく」の初代店主がカツライスをもとにソースかつ丼を完成させ、地元駅前にてお客さんに提供し始めました。ソースかつ丼は地元民の食事として定着し、駒ヶ根市を超えて徐々に広い範囲へと浸透していったのです。1993年には地元の飲食業者が町おこしを目的に「駒ヶ根ソースかつ丼会」を発足し、加盟店舗ではかつ丼会による「お客様のための駒ヶ根ソースかつ丼規定」に適した駒ヶ根ソースかつ丼を楽しむことができます。
まんじゅうに衣をつけて揚げた「天ぷらまんじゅう」は、長野中南部の一部地域で作られている郷土食です。いつでも出会えるわけではなく、食卓にあがるのはお盆の時期に限られます。これには、お盆に野菜・魚介類などさまざまな具材を天ぷらにして食べる長野の風習が関係しているようで、お盆の時期には天ぷらまんじゅうに使われるまんじゅうが多くの店舗で販売されるそう。サクサクの衣と口当たり滑らかなこしあんが楽しめる、ちょっと変わり種の料理です。
10年もの歳月を要した新名物
2004年、水産庁の承認を受け、長野に新たな特産品が誕生しました。およそ10年の時を経て開発された新名物は、ニジマス(メス)とブラウントラウト(オス)の交配種「信州サーモン」です。卵を産まないため、産卵に必要となる栄養分やエネルギーを消費することなく蓄えておくことができます。信州サーモンの身はきめ細やかで肉厚、魚臭さは感じられず、程よくのった脂がとろける食感を生み出しています。ニジマスがよくかかる病気を発症しにくいこと、ニジマスの飼育に必要な施設と技術があれば飼育できること、そして短期間で大きく成長することも信州サーモンの特徴です。
信州サーモンの開発は、長野で主にニジマスが養殖されていたことがきっかけでした。最初は塩焼きに最適なサイズがメインでしたが、切り身や刺身に用いられる大きなサイズのニジマス養殖を1988年からスタート。ところが、大型のニジマスは長きにわたる飼育の間に罹病して死ぬことも多く、すでに日本中で養殖されていたため信州ブランドとして打ち出しにくい状況でした。ニジマスを長野の代表的な特産品にするべく、長野県水産試験場は新種の養殖を開始。最新技術により信州サーモンは誕生し、今では1~2kgのサイズになるまで育ててから出荷しているそうです。
郷土の文化を反映した伝統食、試行錯誤の末に生まれた養殖魚など、奥が深い長野グルメ。その歴史を知ると、また違った味わいを楽しめそうです。(提供:JIMOTOZINE)