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(写真=PIXTA)

長野は国内で最もスキー場が多い地域です。しかし国内のスキー人口は1998年の1,800万人をピークに減少を続け、2013年には770万人にまで落ち込んでいます。

これを受け、全国のスキー場では冬季間だけではなく、シーズンオフでも利用できるよう、「サマーゲレンデ」などで活用の幅を広げています。しかし、阿智村が始めたのはありきたりなレジャーではなく、ここでしかできない新しいサービスでした。2009年から時間をかけて作り上げた、阿智村の「日本一の星空ナイトツアー」を紹介します。

温泉郷とスキー場の賑わいをもう一度

バブル期以降スキーブームも終焉を迎え、経営の振るわないスキー場も増えてきました。国内のスキー客が減る一方で、インバウンドの需要が高まっていますが、どちらにせよほとんどが日帰り客であり、地域経済の活性化までには届きません。

阿智村では、スキー場だけではなく、かつては賑わいをみせていた昼神温泉へ客足が遠のいていたことも村の経済を衰退させる一因となっていました。スキー場と温泉郷、二つの問題を抱えていたこの村で、最初に立ち上がったのは村からの出資により2006年に設立された「昼神温泉エリアサポート」です。

昼神温泉を再興させるべく、まず始めたのはありきたりな温泉のPRでしたがうまくいかず、「温泉以外の魅力を発掘しよう」と動き始めます。

そんな中、同年に環境省より「夜空の明るさが星の観測に適している場所」の最上位に阿智村が認定されました。これを受け、住人にとって当たり前な「星空」が観光資源になるのでは?と考えた昼神温泉の5つの旅館が、2009年より「星空観察バスツアー」を開催します。

ただの星空に価値が生まれた

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(写真=PIXTA)

はじめはガイドや解説もなく、ただ訪れた人に阿智村のスキー場「ヘブンスそのはら」の頂上から星空を見せるだけという至ってシンプルなものでした。それでも星空ツアー参加者からの反響は高く、この先の展開を期待させてくれました。

そして2012年、「スタービレッジ阿智誘客促進協議会」が設立されると、ただ星空を見るだけのツアーではない、エンターテイメント性の高い「日本一の星空ナイトツアー」が開始されます。

「本当に星が売り物になるのか」、阿智村の人々は、自分たちにとって当たり前である星空の価値に半信半疑でした。多くの人の心配をよそに、開始初年からツアーの参加目標数である5,000人を大きく上回る6,500人がツアーに参加。2013年は2万2,000人、2016年には11万人と、右肩上がりにツアー参加者が増えていきました。

このナイトツアーの特徴は、「星の見えない日でも楽しめる」ことです。さまざまな企業とタイアップし、プロジェクションマッピング、宝探し、暗闇を歩く「ナイトフォレストトレッキング」など魅力的なイベントを開催し、初の参加者はもちろん何度来ても楽しめるツアー構成となっています。

一時のブームで終わらせない、これからの取り組み

ナイトツアーの特性上、狙い通り昼神温泉の宿泊客数も増加し、温泉郷は再び活気を取り戻しました。さらに新しく冬だけのアクティビティ付き星空ツアーが考案され、2018年2月、「スノーシュー」を使ったスノーハイクと星空観賞を楽しめるモニターツアーが「銀河もみじキャンプ場」にて開催。今、注目を浴びる体験型観光に阿智村らしさを加えたオリジナリティあふれるツアー構成となりました。

阿智村が観光で成功をおさめることができたのは、これら村にとっては当たり前のものを観光資源として利用できるまでに企画を練り、価値を高めてきたからにほかなりません。

星のまち阿智村では、このほかに地域通貨「スターコイン」や、星の地域ナンバープレート、そして星空をイメージした星の婚姻届けを発行し、村全体を盛り上げる活動に注力しています。一時のブームで終わらせず、常に新しい試みで人々を惹きつけている阿智村の今後に目が離せません。(提供:JIMOTOZINE)