ウォーレン・バフェット氏といえば「投資の神様」「オハマの賢人」と崇められ、世界の大富豪ランキングの常連だ。ソフトバンクグループを率いる孫氏も、日本一の大富豪と言われており、その経営手腕はグローバルで評価されている。
そんな両氏が注目し、錬金術として活用しているのが「保険事業」だという。保険は「最強のビジネス」とも言われている。なぜ孫・バフェット両氏が保険に注目しているのか、なぜ保険は「最強のビジネス」と呼ばれるのか、その理由を見ていこう。
バフェット氏は世界最大の損害保険会社オーナー
バフェット氏は、バークシャー・ハサウェイの会長兼最高経営責任者を務める。同社は「最後の貸し手」として、窮地に陥った企業に資本を注入することでも知られ、金融危機の際にはゼネラル・エレクトリック、ゴールドマン・サックスなどに手を差し伸べてきた。割安な銘柄を仕込み、大きなリターンをあげるバリュー投資がバフェット氏の真骨頂だが、その原資はどこから来るのだろうか。
実はバークシャーの中核事業は、自動車保険大手のガイコ(1990年代に買収)など保険や再保険だ。バークシャーは投資会社というイメージが強いが、実は世界最大の損害保険でもある。保険事業が安定したキャッシュを生むため、それを元手にバフェット氏は、大胆な投資や買収を繰り返すことができたと言える。
近年は株式市場が上昇傾向にあるため、有望な投資先(買収先)が見つからず、保険事業が積み上げるキャッシュを有効活用できないという、何とも贅沢な悩みを抱えている。2018年2月にバークシャー株主に向けた手紙では、手元資金として1160億ドル(約12兆3,000億円)もの現金を保有しているが、2017年に買収を検討した案件に関しては、買収価格が吊り上がり、投資案件としては魅力が薄れたと明かしている。
そのようななか、先日、ソフトバンクがスイスの再保険大手スイス・リーと出資協議を進めていると報道された。バークシャーと同じように、保険事業を生み出すキャッシュをテコに、さらにレバレッジをかける戦略なのだろうか。
「先にお金を集める」のが最強のビジネスモデル
孫・バフェット両氏が注目する保険事業は「最強のビジネス」とも呼ばれている。保険会社は、加入者から先に掛金を集めて、それを運用し、何かあれば保険金の支払いを行う「後払いのビジネスモデル」だ。この「キャシュインとキャッシュアウトの順序と時間の差」が大きな優位性を生む。その理由を5つ見ていこう。
(1)そもそも保険は還元率100%を切る商品
加入者が払うお金のうち、手元に戻ってくる割合を「還元率」という。宝くじは50%前後、競馬は75%前後と言われている。還元率が100%を切る商品は、確率論でいうと手元のお金が減るということであり、「100-還元率」が胴元の取り分とも言える。生命業界で最もそれ(生命保険事業の運営経費にあたる付加保険料)が少ないと言われるライフネット生命でも、還元率は80%前後だそうだ。
(2)同じ金額でも現在価値と将来価値は違う
金利がプラスである限り、同じ金額でも「現在価値」と「将来価値」は異なる。年利が1%だとすると、同じ1億円でも1年後は「1億円×1%=100万円」の利息がつくので、将来価値は1億100万円ということになる。先にお金を集めてしまえば、最新の金融工学によって、運用成績や死亡率の見通しをゆるく設定し、胴元がサヤ取りすることも可能だ。運用成績が予定よりも良い場合に発生する利益を「利差益」、予定と実際の死亡率の差によって発生する利益を「死差益」と言い、どちらも生命保険会社の利益となる。
(3)フロートで手元資金を減らさない
保険会社は支払いに備えて、常に余剰資金を抱えている。言い換えれば常に運用資金が手元にあるということでもあり、この余剰資金を「フロート」と呼ぶ。上記のように、フロートは、最先端の金融工学によって、常に一定額以上を保つよう設計されている。つまり、保険会社の事業として投資を行っていれば、手元のお金を減らすことなく、他人のお金で運用を続けることができるのだ。
(4)流動性プレミアムを享受できる
保険金の支払い分を鑑みても手元のお金が減らないということは、資金繰りに悩む必要がないということだ。従って、短期目線では投資できない資産や戦略に思い切って投資できる。相対的に現金化が困難な長期目線の案件は、短期目線の案件より、投資家にとって有利な条件が設定されやすい。これを「流動性プレミアム」と呼ぶ。
(5)規模のメリットが働く
資産運用は「規模のメリット」が働きやすい。例えば、同じ銘柄を100万円動かすよりも、一度に1億円動かしたほうが売買手数料は安くなる。人件費も関しても同様で、極端に言えば、100万円でも100億円でも必要な作業は同じだ。また「元本が大きければ大きいほど資産を殖やしていくのは容易になる」ことは利殖の大原則だ。
保険は人間が生み出した知恵 上手に活用を
保険事業を買収しても、そのメリットを有効活用できるかどうかは、生み出されるキャッシュを使う手腕に左右される。その点、孫・バフェット両氏の投資実績に異論がある人はいないだろう。個人投資家としても、バークシャー株やソフトバンク株の動向には注目したいところだ。
また、保険は万一が起こった際のセーフティーネットであり、愛する家族を守るために、人間が編み出した知恵でもある。胴元が有利な商品とはいえ、一概に否定するべきではないだろう。むしろ、上記のことを理解したうえで、上手に保険を活用したいものだ。(ZUU online 編集部)