不動産業者などで住宅ローンの相談をすると、必ずといっていいほど、「毎月返済額は8万円ですから、お客さまの年収なら全然問題はありませんよ」などと、当面の負担が軽く見えそうな資金計画を勧められる。そんなセールストークに乗せられて、何の疑いもなく買ってしまうとたいへんなことになる。失敗する人の典型的なパターンだ。なぜなのか。

実は、月額は8万円でもほかにボーナス時返済が組み込まれているのが一般的。だから、たしかに毎月分は8万円なのだが、ボーナス時返済がその6倍の48万円で、ボーナス月の返済額は56万円にもなってしまうのだ。

毎月の8万円だけなら、年間96万円だから、まだまだ年収の低い人でも十分にやっていけそうだが、それにボーナス返済の48万円×2回の96万円が加わると、年間の返済額はいっきに192万円になる。月平均にすれば16万円だから、30万円、40万円程度の給料では生活が難しい。少なくとも50万円、年収にすれば600万円は必要だろう。

これではカツカツの生活になって、バラ色のマイホーム生活どころか、灰色の暗い生活になってしまう。この返済額でゆとりある生活を送るためには、700万円、800万円の年収が必要。それが失敗しない、成功するための条件といってもいいだろう。

「いくら借りられるのか」ではなく「いくらまで返せるのか」

住宅ローン,借りる
(画像=Marcos Mesa Sam Wordley / Shutterstock.com)

いくらまで借りていいのかは、実際に自分たちの家計をチェックして、月々いくらまで返せるのか、年間ではいくらまでなのかを確認し、その範囲内に借入額を抑えるのが賢い利用者というもの。

「いくら借りられるのか」ではなく、「いくらまで返せるのか」で判断しなければならないのだ。その場合のチェック方法としては、金融機関が住宅ローンの審査などで利用している「返済負担率」の考え方を利用するのがいいだろう。

返済負担率というのは、住宅ローンの年間返済額が年収の何%を占めるかを示す指標。たとえば、毎月の返済額が8万円、ボーナス返済が48万円なら、年間の返済額は192万円だから、年収600万円の人だと、返済負担率は、「192万円÷600万円=0.32」で、32%ということになる。年収800万円なら、「192万円÷800万円=0.24」だから24%という計算だ。

この返済負担率、民間金融機関ではどこまでOKなのかなどは公表していないが、民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して実施されているフラット35というローンでは、

 年収400万円未満  30%以下
 年収400万円以上  35%以下

となっている。民間金融機関の多くでも、この基準が適用されているのではないかとみられている。

【合わせて読みたい「住宅ローン」シリーズ】
住宅ローン選択のポイント
住宅ローン減税は住宅ローン残高の1%が戻ってくる
固定と変動どちらで借り換える?
住宅ローン借り換えの前にシミュレーション

年収によっては返済負担率25%までに

この返済負担率の基準からすれば、上の年収600万円で年間返済額が192万円の場合、返済負担率は32%だから、400万円以上の条件をクリアしている。だから、銀行の審査上は問題ないのだが、それはあくまでも審査基準上の話。実際の家庭における家計管理上の考え方はまた別物だ。

年収600万円といっても、それは額面の話。ここから各種の税金や社会保険料、生命保険料などを差し引くと手取りは500万円ほどに減るだろう。そのうち192万円を住宅ローンの返済で持っていかれると、残るのは300万円ほど。それで、果たして生活していけるだろうか。生活にゆとりはなく、将来や万一に備える蓄えなどの余地はほとんどなくなってしまう。

そのため、年収400万円以上であっても、600万円程度の場合には、返済負担率は25%程度に抑えておくのが無難。800万円程度なら30%まで引き上げていいだろうし、1000万円を超えれば35%でもOKだろう。この範囲内で決して無理をしないのが賢い判断というものだ。

まずは無難な返済負担率25%で考える

年収が1000万円を超え、各種の資産がある層であれば返済負担率35%でも全然問題はないだろうが、そうでない人は年収別に返済負担率をしっかりと抑えて、安全・安心の資金計画がマイホーム取得を考えていただきたい。

その結果、必要なお金を調達できないことが明らかになれば、ここはいったん立ち止まってもう一度マイホームの頭金づくりに励むのも勇気ある決断だろう。そこで、実際にどれくらいの物件まで手が届くのか、返済負担率25%で試算してみよう。

利用するのは金利1%の住宅ローン。返済期間は35年で、ここではボーナス返済なしで計算する。

年収400万円だと、返済負担率25%の年間返済可能額の上限は、「400万円×0.25」で100万円。月間にすれば8万3333円までになる。それに対して、金利1%、35年返済のローンだと100万円当たりの毎月返済額は2822円だから、毎月返済可能額の上限8万3333円をこの2822円で割ると約29.5という数字が出てくる。

つまり、100万円が29.5回借りられるのだから、借入可能額は2950万円ということになる。同じように、年収別に返済負担率25%で計算すると、次のようになる。

●返済負担率25%の借入可能額(金利1%、35年元利均等・ボーナスなし)

年収    借入可能額
400万円  2950万円
600万円  3540万円
800万円  5900万円
1000万円  7380万円

高額所得者なら億ションも可能になってくる

同じように、返済負担率30%、35%の場合はこうなる

●返済負担率30%の借入可能額(金利1%、35年元利均等・ボーナスなし)

年収    借入可能額
400万円 3540万円
600万円 5310万円
800万円 7080万円
1000万円 8850万円

●返済負担率35%の借入可能額(金利1%、35年元利均等・ボーナスなし)

年収    借入可能額
600万円 6200万円
800万円 8260万円
1000万円 1億0330万円

つまり、年収1000万円を超えれば、返済負担率35%の場合、住宅ローンだけで1億円以上の調達が可能になり、それに手持ちの現金などを加えれば、都心部の超高層マンション上層階のプレミアム住戸などの取得も十分ターゲットに入ってくる。全般的にマンションの売行きが鈍化しているなかでも、高額物件は順調に売れているといわれるが、その背景にはこうした高収入層の存在があるためだろう。

収入合算ならハイグレードマンションもOKに

でも、世の中、そんなに恵まれた人たちばかりではない。まだ比較的若くて給料もさほどではない、あるいは年収は一定額に達していても、定年も近いのでそんなに無理はできないといったさまざまな事情を抱えている人たちもいるはずだ。

そんな場合には、親子や夫婦で協力して住宅ローンの借入れを行う方法もある。それが「収入合算」と呼ばれるもの。

金融機関などによって規定は異なるが、夫婦であればどちらかが名義人で、一方が連帯債務者になることで合算が可能になるし、親子でも同様だ。親子の場合には、リレーローンにすすれば、親の年齢が高い場合でも最長の35年返済を利用できるといったメリットも出てくる。

たとえば、夫の年収が400万円で、妻も400万円なら収入合算して800万円として借り入れることができる場合がある。上で見たように、年収400万円だと返済負担率25%の借入可能額は2950万円だが、800万円になれば5900万円に増える。

金融機関によっては合算相手の年収は半分までしか加算できないといった規定を設けているところもあるので、その点は事前の確認が必要だ。

それにしても、夫婦や親子が力を合わせれば高額物件、ハイグレード物件にも手が届くことになる。いまはまだ年収はさほどではなくても、夫婦や親子が協力してマイホームという資産を手に入れる道筋が見えてくるかもしれない。

山下和之
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『家を買う。その前に知っておきたいこと』(日本実業出版社)、『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(学研プラス)などがある。山下和之のブログ: http://yoiie1.sblo.jp/

【合わせて読みたい「住宅ローン」シリーズ】
住宅ローン選択のポイント
住宅ローン減税は住宅ローン残高の1%が戻ってくる
固定と変動どちらで借り換える?
住宅ローン借り換えの前にシミュレーション