自動車保険の保険料は、車両料率クラスや補償の範囲、内容など様々な要素をもとに算出される。等級も、その要素のひとつである。等級が上がれば上がるほど、保険料は安くなるのだ。自動車保険への加入を検討しているならば、等級制度について理解しておきたい。
自動車保険の等級とは
自動車保険の保険料算定の基礎となるもののひとつに、「等級」がある。これは「ノンフリート等級別料率制度」において使われる用語で、自動車保険契約者の事故実績に基づき、1等級から20等級までの20段階に区分される。そして1~3等級には割増率が、4~20等級には割引率が適用されるのだ。
初めて保険に加入するときは6等級からのスタートを基本とし、事故がなければ毎年1つずつ等級が進む。事故があった場合は、翌年の等級が1事故につき3つ下がる。ただしこれには例外があり、火災や爆発、盗難、騒じょう、いたずら、落書き、窓ガラスの破損、飛来・落下物、その他偶然により生じた損害による車両事故については、「1等級ダウン事故」として扱われる。また弁護士特約や人身傷害保険、個人賠償責任特約、ファミリーバイク特約などは「ノーカウント事故」として扱われ、保険を使っても等級が下がることはない。
例えば加入している自動車保険の等級が「7等級」である場合、事故がなければ翌年は8等級、その翌年は9等級となる。これに対して、その年に3等級ダウン事故が1件あった場合、翌年は4等級、その翌年は5等級となるのだ。また、同じ保険を使う事故でもそれが落書きによる車両事故である場合、1等級ダウン事故として扱われ翌年は6等級、その翌年は7等級となる。
事故有等級と事故無等級
20段階に区分される等級はさらに、「事故有等級」と「事故無等級」に細分化される。そして保険料の算定に用いられる割増引率は、どちらに分類されるかによって変化する。同じ等級であっても、事故有等級か事故無等級かによって保険料が大きく変わるのである。
1~6(F)等級までは、事故の有無に関係なく以下の割増引率が適用される。
- 1等級……64%割増
- 2等級……28%割増
- 3等級……12%割増
- 4等級……2%割引
- 5等級……13%割引
- 6(F)等級……19%割引
一方、7(F)~20等級については、事故の有無により割引率が以下のように変化する。
等級 事故ありの場合、なしの場合
- 7(F)等級…20%、30%
- 8等級……21%、40%
- 9等級……22%、43%
- 10等級……23%、45%
- 11等級……25%、47%
- 12等級……27%、48%
- 13等級……29%、49%
- 14等級……31%、50%
- 15等級……33%、51%
- 16等級……36%、52%
- 17等級……38%、53%
- 18等級……40%、54%
- 19等級……42%、55%
- 20等級……44%、63%
事故により保険を使った人とそうでない人の保険料が「等級が同じ」という理由だけで変わらないのでは、不公平感がでる。この点、ひとつの等級を事故有と事故無に区分して割引率に差を設ければ、保険料負担の公平性を確保できるのだ。
事故有係数の適用期間は、「(前契約の事故有係数適用期間-1年)+等級のダウン数に応じた年数」により算出される(カッコ内の計算がマイナスになる場合は0年として計算)。前契約が事故無で現在の保険期間中に3等級ダウン事故が1件あった場合、次年度の事故有係数は「(0年-1年)+3」により、3年となる。つまり、次年度以降3年間にわたり事故有等級が適用されることになるのだ。
長期契約により事故時の等級ダウンを回避
事故による等級ダウンや料率改定などによる保険料負担の増加を回避するための手段として、「長期契約にする」という方法がある。長期契約とは保険期間1年超の契約のことで、例えば損害保険ジャパン日本興亜株式会社の場合、最長で7年間の長期契約が可能だ。長期契約の場合、毎年の保険料は契約時に決定される。そのため、契約期間中に等級ダウン事故や料率改定があっても、保険料が上がることはない。
現在、8等級で自動車保険に加入していると仮定する。1年契約の場合、保険期間中に3等級ダウン事故が1件あると次年度の等級は5等級(事故有係数3年)となり、保険料の割引率が大幅に下がる。これに対して長期契約の場合、3等級ダウン事故があったとしても保険期間中は、等級も保険料も変わらない。等級ダウンや保険料アップがあるのは、保険期間後の更改時なのだ。
また多くの保険会社では「ゴールド免許割引制度」を採用しているが、1年契約の場合は毎年免許の色を申告し、ブルーになった段階で割引がなくなってしまう。これに対して長期契約の場合、契約の翌年に免許の色がブルーになったとしても、保険期間中はゴールド免許割引が適用される。
このように長期契約には、等級ダウンや料率改定、免許の色の変更などに伴う保険料アップを、一時的に回避できるというメリットがあるのだ。
複数所有新規により7S等級で保険に新規加入
自動車保険に新規加入する場合、基本的には6S等級からのスタートとなる。しかし一定の条件を満たす場合、7S等級での加入が認められている。それが、「複数所有新規」だ。
複数所有新規は、以下の条件を満たす場合に適用される。
- 自家用8車種もしくは二輪自動車について、11等級以上の他契約が存在すること
- 新契約について、前契約が存在しないこと
- 新契約の被保険者と車両所有者が、他契約の被保険者と車両所有者(a)、その配偶者(b)、(a)(b)の同居の親族であること
- 新契約の車両が自家用8車種もしくは二輪自動車であること
- 新契約の始期日が他契約の保険期間内にあること
- 新契約の被保険者と車両所有者が個人であること
6(S)等級と7(S)等級では、割増引率が異なる。例えば、東京海上日動火災保険株式会社では、各等級につき以下のような割増引率を設定している。
6(S)等級
- 全年齢補償……28%割増
- 21歳以上補償……3%割増
- 26歳以上補償……9%割引
- 35歳以上補償……9%割引
7(S)等級
- 全年齢補償……11%割増
- 21歳以上補償……11%割引
- 26歳以上補償……40%割引
- 35歳以上補償……40%割引
また、損害保険ジャパン日本興亜株式会社では、各等級につき以下のような割増・割引率を設定している。
6(S)等級
- 全年齢補償……28%割増
- 21歳以上補償……3%割増
- 26歳以上補償……9%割引
- 35歳以上補償……12%割引
7(S)等級
- 全年齢補償……11%割増
- 21歳以上補償……11%割引
- 26歳以上補償……40%割引
- 35歳以上補償……40%割引
6(S)等級と7(S)等級では、その割引率が最大で31%も異なるのだ。ここにいう「他契約」は、新契約と異なる保険会社のものでも問題ない。配偶者や同居の親族に11等級以上の自動車保険契約を保有している人がいる場合、複数所有新規で保険に加入すべきだろう。
等級を引き継ぎ、保険料負担を抑えるという選択
自動車保険の年齢条件には「全年齢補償」「21歳以上補償」「26歳以上補償」「35歳以上補償」といった種類があり、全年齢補償で6(S)・7(S)等級での加入となると、割増率が適用される。そのため20歳以下の人が自動車保険に新規加入しようとすると、かなり高い保険料を支払わなければならない。
そこで提案するのが、「等級を引き継ぐ」という方法である。自動車保険の被保険者は、被保険者(a)、被保険者の配偶者(b)、または(a)(b)の同居の親族に該当する者に変更することができる。
具体的に、シミュレーションしてみよう。母(50歳)が20等級の自動車保険契約を保有しており、その子(19歳)が新たに車を購入・自動車保険に加入すると仮定する。この場合、7(S)等級・全年齢補償で保険に新規加入するのが一般的だろう(複数所有新規)。そうすると、新契約の保険料には11%の割増率が適用される(上で挙げた二社の割増引率を適用)。
では、以下のような方法をとるとどうなるだろうか。まず、母の保険の被保険者を子に変更し、子が購入した車に車両入替をする。もちろん、全年齢補償にすることで保険料は高くなるが、この保険は20等級であるため63%の割引率が適用される。一方、掃き出される形になった母の車については、7(S)等級・35歳以上補償で新規加入する。すると、母が新規加入する契約には40%の割引率が適用されるのだ。記名被保険者変更と車両入替という簡単な手続きをするだけで、割引率に50%以上もの差が出る計算になる。
子や孫が自動車保険に新規加入する場合は、こういった手法を検討してみてはいかがだろうか。そうすることで、1世帯あたりの保険料負担をかなり軽減できるはずだ。
等級は10年間保存可能
保険の等級は、中断証明書を発行してもらうことで10年間保存することができる。中断証明書がある場合、10年以内であれば保存した等級の割引率を使って自動車保険に加入することができる。一方、中断証明書がない場合、等級の引継ぎができず6(S)等級からの加入になってしまう。
中断証明書を使うと、被保険者だけでなくその配偶者、同居の親族も等級を引き継ぐことができる。年齢などの事情により今後車に乗る予定がない場合でも、中断証明書をつくって等級を保存しておけば、子や孫がその等級を使って保険に加入できる可能性があるのだ。車の廃車や譲渡などによって自動車保険を解約するときは、中断証明書の発行を依頼することをおすすめする。
等級制度を理解して賢く保険に加入
等級は、自動車保険の保険料を大きく左右する要因だ。そのため自動車保険には、できるだけ高い等級で加入したい。複数所有新規で加入したり、被保険者変更と車両入替を組み合わせて等級を引き継いだり…というように、基本的には6(S)等級からの加入が原則となる自動車保険も、ちょっとした工夫によりお得に加入することができる。自動車保険への新規加入を検討しているならば、まずはこういった制度を活用できないか検討してみてはいかがだろうか。
曽我部三代
保険業界に強いファイナンシャルプランナー。富裕層の顧客を多く抱え、税金対策・相続対策を視野に入れたプランニングを行う。2013年より、金融関連記事のライターとしても活動中。
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